OEDO[3-7] 経済安保の罠
ここ最近の報道を見ているとどうも、我が国の防衛は短期的な視野でしか議論されてないように感じます。「敵基地攻撃能力」とか、「専守防衛見直し」とか、「先制攻撃能力」とか、「必要最小限度の実力」とか──素人目にも、一度始まった戦争がそんな短期で終わるはずないと思うのですが。
具体的な兵器にしても、PAC-3配備とか、トマホーク導入とか、イージス・アショア断念とか──興味がないので詳細は知りませんが、ドンっとなった花火が綺麗だなレベルの、瞬間的な戦略しか講じてないような気がしてなりません。まるで近代戦は兵器の差で、一瞬でカタがつくとでも言うような。
しかし、比較的に短期で終わる革命はあっても、戦争となるとそうはいきません。圧倒的な武力差があったはずのウクライナ戦争もこれだけ長期化しています。大国アメリカでさえ数々の軍事介入で時間を浪費した上での敗北、失敗を重ねています。世界一の軍事力があっても、思うようには行かないのです。
あの長期化し、泥沼化した第一次世界大戦も、開戦当初は短期決戦、兵士もクリスマスには自宅に帰って祝えると考えていたそうです。日本の軍拡に賛成しているあなたは、コロナ以上に長引く戦争に耐え抜く自信がありますか。感染病とは比較にならない程の混乱と、経済悪化と、自粛をもたらす戦争です。
この1年、石油製品の価格が上がっただの、小麦食品の内容量が減っただの──家計は次々と圧迫され、朝夕の情報番組を賑わせてきました。遠く離れた東欧の戦争でこれだけの影響が出るのです。日本が戦争の当事者国となったら、インフレどころでは済みません。死にます。
何度も警鐘が鳴らされる通り、現在の我が国の食料自給率は37〜8%。長期の戦争には耐えられません。先の戦争──神戸では節子が「おはじき」を「ドロップ」と間違え、レイテ島では田村一等兵が「猿の肉」を食べたあの極限状態を超える地獄が待ち受けています。死にます。
第二次大戦直前の食料自給率を皆さんはご存知でしょうか。僕は知りません。統計が取られていなかったからです。ただ、台湾から小豆などを少量輸入していただけで、95%以上だったとも98%以上だったとも試算されています。そんな国全体を一気に飢餓状態に落とし込むのが戦争です。死にます。
米ラトガース大学の試算よると、実際の局地的核戦争で2.5億人に予想される世界中の餓死者のうち、その3割、7200万人を日本人が占めると算出されています。日本人の半分ですよ。しかも長年に渡る政府の失策により、日本の農業、酪農は衰退を辿る一方。もう死んでます。
話は日本だけでは終わりません。ウクライナ侵攻が物価上昇だけで済む日本はまだマシな方です。米シンクタンク国際食料政策研究所(IFPRI)による「世界飢餓指数」では、この一年で世界の少なくとも36カ国が「重大な飢餓」、そのうち4カ国が「驚異的な飢餓」に陥っていると報告されています。
スリランカやペルーでは暴動に発展し、多くの死傷者を出しました。グローバル経済の世界では、戦争が地球の裏側にまで深刻な影響を及ぼすのです。発足したばかりの経済安全保障推進法やその担当大臣からは、そんな気遣いはとんと聞こえてきません。あなたは日本人としてその責任が取れますか。
世界は半世紀以上前の大戦時とは違うのです。食糧だけでなく、物流や産業も壊滅的な影響を受けます。まず食糧は、シーレーンが破壊されると現在の僅か30%台の自給率がさらに下がります。肥料や飼料、農薬も供給できず、石油が滞れば農業機械も動かせず、作付面積当たりの収穫が大幅に低下します。
経済や産業に至ってはさらに直接的な被害が及び、まずは日本人が中国に投資してきた資産がドンっと失われます。’22年の時点で中国進出の日本企業は1万2,706社。資産処分や業務委託は撤退時の混乱でままならず、ほとんどがそのまま相手国の資産となって没収されます。
また日経新聞によると、中国から日本への部材輸入の8割、約1.4兆円が2カ月間滞ると、電化製品から衣料、食料品までの製造が打撃を受け、53兆円分の損失が生じると報道されています。大量の失業と倒産を招き、戦後最大の経済危機に見舞われることが目に見えています。
しかも厄介なのは、どの戦争も開戦当初は一瞬の好景気に見舞われることです。軍備増強による財政出動だけでもケインズ効果が期待されていることは、これまでも触れてきましたが、実際の戦闘が始まれば需要は爆発的に刺激されます。短期的な視野をしか持たない国民はにわか景気に湧き立ちます。
その高揚感のまま戦争に突入すれば、政府に翻弄され、財を失い、職を失い、貧困に喘ぎ、戦地に倒れ、戦火に焼かれます。いわゆるトゥキディデスの罠──覇権国スパルタと新興国アテネ間で勃発したペロポネソス戦争と同じ轍を踏んではいけません。巻き込まれてもいけません。
日本はロシアやウクライナのような穀倉地帯とは違うのです。悪く言えばその命運を他国に握られているのと同然なのですが、良く考えれば、平和国家であるかぎり生殺与奪の権を握らせることはないのです。逆にいちど武力を振るってしまえば、それはどちらへ向けても自滅の刃となるのです。
※最後までお読み頂きありがとうございます。この「地球防衛隊」全体の構想は最初の投稿「OEDO[0-0]地球防衛隊法案──概論」にまとめています。それ以降の章は、この章も含めて、その詳細を小分けして説明する内容になっております。
第一部[1-1]〜[1-9]では「戦争観のアップデート」について。第二部[2-1]〜[2-9]では「地球防衛隊の活動と効用」について。第三部[3-1]〜[3-9]では「予想される反論への返答」について。第四部[4-1]〜[4-9]では「地球防衛隊に至る思想的背景」についてを綴って行く予定です。
敢えて辛辣に、挑発的に書いている箇所もありますが、真剣に日本の未来を危惧し、明るいものに変えたいとの願いで執筆に励んでいます。「スキ♡」「フォロー」や拡散のほど、お願いいたします。批判、反論のコメントも大歓迎です。