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OEDO[3-4] 非暴力主義の破壊力

非武装国家が相手では、敵国は戦争を始める口実も、きっかけも作れません。さらに相手が「地球防衛隊」なら、無理やりでっち上げることもできません。攻撃も爆撃もできず、具体的な占領政策を展開することもできません。俄かには信じられない人も多いかもしれませんが。

しかし前回は、そんな実際をシミュレーションしてみました。少々悪ふざけが過ぎた感もありますが、あながち絵空事のホラ話でもないことはご理解頂けたと思います。しかもこれは実例まであるのです。武器を持たない民衆を前にした時、現代の軍隊は成す術を失くしてしまうらしいのです。

チェコスロバキアの「ビロード革命」、ポーランドの「連帯」、セルビアの「オトポール!」、リトアニアの「サユディス」、ミャンマーの「国民民主連盟」、そして「アラブの春」におけるチュニジア、エジプト、リビア、イエメンなど──この半世紀の間に起きた数々の非暴力革命がその実例です。

短期間で終わったもの、後に軍事政権や独裁政権に巻き返されたもの、いくらかの犠牲者を出してしまったもの──その成功の度合いはまちまちです。しかし非暴力こそが最強であることは、ハヴェル『力なき者たちの力』やシャープ『独裁体制から民主主義へ』などの書物でも理論付けられています。

いや、現状は逆です。彼らの理論があったからこそ、それら東欧やアラブの闘争は成功裡に導かれたのです。彼らの書は翻訳され、出版され、あるいはコピーされ、多くの革命の士に共有されました。シャープ自身が直接現地に赴き、実際の非暴力革命のあり方を指導したりもしています。

そして近年、その理論と実践はデータによっても裏付けられました。チェノウェスの『市民的抵抗』では、627の革命をデータ的に分析し、暴力革命が26% の成功率だったのに対し、非暴力はその倍の53%、しかも人口の3.5%で達成できるという有名な「3.5%ルール」が算出されています。

もっともこれは戦争の話ではありません。自国内での革命の話です。しかしリトアニアのように、侵攻するソビエト軍に非暴力で応戦した例も含まれます。非暴力は外敵にも有効なのです。いや、僕は外敵にこそ有効だと考えます。大切なのはシャープの言う「武力行使の口実を与えないこと」──。

武力で応戦してしまったら、その何倍もの火力が返ってきます。「口実」を与えてはいけません。プーチンもちょっとした口実やデマを、何倍にも広げた大げさなプロパガンダにして吹聴しています。実際の被害も甚大になり、ウクライナの犠牲者は軍人と民間合わせて2万人を超えました。

一方、非暴力のリトアニアでは「血の日曜日」が30年を経た今も追悼されています。犠牲者は14人。尊い命ではありますが、最小限の被害で勝利を手にしたと言えるでしょう。2万人の抗戦と、10数人の非暴力。日本はどちらの道を選ぶのでしょう。

20世紀前半は、奴隷制度と植民地主義による2つの大戦や、共産主義による大虐殺など、人類が有史以来もっとも多くの人類を殺害した歴史に血塗られています。それが後半になると反転。信じられないほど急速に自由化と民主化の波が押し寄せました。これを非武装の効用以外にどう説明できるでしょう。

考察するに、ひとつ大きかったのはメディアの発達。テレビやSNSを有効に活用し、非武装だからこそ敵の悪事を世界に喧伝でき、味方が連携できたこと。それから武器の発達。殺傷能力の高い武器は、交戦時には戦いをエスカレートさせ、壊滅的な被害を招きますが、非武装時にはもてあまします。

そして何より大きいのは人々の意識の変化。既に自由と民主化を遂げた先進国の人道精神は、非武装勢力への大きな後ろ盾となります。加えて、その人道精神はその他の地域にも漏れ出し、敵対する兵士までもが多かれ少なかれ毒されてしまっています。人を殺すのをためらう心が育まれてしまっています。

1世紀前の世界と比べ、大きく異なるのはこの点でしょう。日本の教育レベルも江戸時代とは比べものになりませんが、世界規模で言えばそれはもう雲泥の差。途上国に学校が立ち、教育を受ける子が増えれば、識字率もどうしようもなく上がってしまいます。世界の名作文学も読まれてしまいます。

これが不可逆的に自由と民主主義、平和を世界に押し広げてしまう原動力になります。この力はもう止まりません。日々世界中で進歩する科学を誰にもとめられないのと同様に、教育の拡大も止められません。同時に武器の効果も少しずつ後退。使う兵士の心が良心で蝕まれてしまうからです。

多数の非暴力革命の例に比べ、近年の武力に頼った革命や紛争は、だいたいロクな結末を迎えていません。軍隊も、近代化を遂げるにつれ兵士のシェルショックやPTSDに悩まされるようになりました。これを日本がマンガやアニメのコンテンツ力で後押ししてやれば、世界はますます非暴力、平和に傾きます。

かつては教育に悪影響と言われたマンガも正義の物語、ヒーローの物語で溢れています。こんなものを読まれてしまっては、殺人マシーンのような冷徹な兵士を育てられません。しかもマンガを読みたいが故に日本語を学び始める人口も世界に拡散、放っておいても読まれてしまいます。

かつては毒だったものが薬になる。パラダイムシフトではよく起こることです。かつてのヤンキーがグレートティーチャーになる展開は、マンガだけでなく現実でも見られます。独裁国家のような言いたいことも言えない世の中じゃPOISONかもしれませんが、新しい世界ではパルマコンに昇華するのです。


※最後までお読み頂きありがとうございます。この「地球防衛隊」全体の構想は最初の投稿「OEDO[0-0]地球防衛隊法案──概論」にまとめています。それ以降の章は、この章も含めて、その詳細を小分けして説明する内容になっております。

第一部[1-1]〜[1-9]では「戦争観のアップデート」について。第二部[2-1]〜[2-9]では「地球防衛隊の活動と効用」について。第三部[3-1]〜[3-9]では「予想される反論への返答」について。第四部[4-1]〜[4-9]では「地球防衛隊に至る思想的背景」についてを綴って行く予定です。

敢えて辛辣に、挑発的に書いている箇所もありますが、真剣に日本の未来を危惧し、明るいものに変えたいとの願いで執筆に励んでいます。「スキ♡」「フォロー」や拡散のほど、お願いいたします。批判、反論のコメントも大歓迎です。

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