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🇱🇰バワの墓

ルヌガンガという言葉は神秘的であり力強いうねりのようなものを感じる。
シンハラ語で塩の川という意味らしい。

それは偉大な建築家ジェフリー・バワが週末に過ごした別荘につけられた名だ。
長い年月をかけ作られ、バワの未完の理想郷とも言われる。

うだるような暑さの日にそのルヌガンガを訪れた。
照りつける太陽が肌を焦がし、噴き出す汗が顔を伝う。
塩の川という名前はこの生理現象を指しているのではないかと思ったほどだ。

しかし、木々に囲まれた大きな門をくぐり、敷地に足を踏み入れるとふっと空気が変わった。
暑さは変わるはずがないのに、少し暑さが和らいだような不思議な感覚。
例えるなら、寺院に入った時の感覚に近いかもしれない。

入口から道を進むと、最初の建物が迎えてくれる。
ルヌガンガは広大な敷地の中にいくつかの建物が点在している。
どの建物も自然に溶け込むように配されている。
あくまでここでは自然が主役なのだ。

真っ白な服を着て、どこか神の使いのようないで立ちのガイドスタッフが現れ、この聖域を説明しながら案内してくれる。

途中、母屋を見学し、そのテラスに出たときだ。
まばゆい日差しに一瞬目を細めるが、次第に光に慣れてくると、視界が一気に抜けることに気付く。
雲一つない青空がどこまでの広がり、手前には小さな丘、その先に湖、湖の向こうの森があり、そのすべてが見渡せる。

ここは楽園か・・

美しい景色に思わずそう思ってしまう。
何かに呼ばれるようにその庭を歩いて小さな丘を登る。

「この丘はシナモンヒルという名前で、ここにバワが眠っています」

後ろからガイドの声がし、丘に立つ大きな木の根元に目をやると小さな石碑がある。
ただしバワの遺灰は埋められたのではなく、このシナモンヒルに撒かれたのだという。
静かに丘に佇むと心地よい風が流れてきて僕の周りで舞う。
バワが風と戯れているのだ。
そう思ったのはルヌガンガに来る前に読んだ「マーリ・アルメイダの七つの月」のせいかもしれない。

ずっとそこにいたいという欲望に駆られながらも、行かなくてはならない。
楽園にさよならを告げ、車に乗り込んだ瞬間、それまでの快晴が一転、猛烈なスコールに変わった。
しばらく続いたそれはまるでバワからの別れのあいさつのようだった。


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