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ペルー産プログレッシヴ・フォークEl Polenを全作品紹介🇵🇪 〜アンデスとフォークの融合〜

初めて触れたペルーのミュージシャン。アンデスの伝統音楽とフォークロックの融合は、それだけでも異国の風景が広がるような体験だった。El Polenは、ペルーの音楽に新しい風を吹き込み、ロックやフォークの枠を超えた革新的な音楽世界を築き上げたバンドだ。今回は、彼らの代表作とともに、その魅力に迫ってみたい。

El Polenについて

El Polenは、1960年代後半にペルーで結成された、プログレッシブ・フォークと伝統的なアンデス音楽を融合した先駆的なバンドだ。彼らの音楽は、チャランゴやケーナといったアンデスの伝統楽器を巧みに取り入れながら、ヒッピー運動や彼ら自身の旅からの影響を色濃く反映している。

このバンドが注目されたのは、映画「Cholo」のサウンドトラックでの成功がきっかけで、その中でも「Valicha」がヒットし、El Polenの名を広く知らしめた。彼らのサウンドは伝統と革新の両面を持ち、当時の他のバンドとは一線を画していた。

El Polenの影響は音楽に留まらず、ペルーにおける広範な文化運動の一環としても重要な役割を果たした。特に現代芸術に先住民の要素を取り入れようとする彼らの活動は、ペルーの政治的な検閲や社会的な困難にもかかわらず、ペルーの音楽シーンに大きな影響を与え、永続的な遺産を残した。

El Polenの音楽は、ペルーの伝統と現代音楽をつなぐ架け橋となり、その後のラテンアメリカ音楽シーンに大きな影響を与えると同時に、文化的なアイデンティティの再発見にも貢献した存在と言える。

各アルバムのレビュー

1. Cholo (Música original de la banda de sonido) (1972年、1stアルバム)

バンドはオーディションを受けて、ベルナルド・バチェフスキー監督による1972年のペルー映画『Cholo』のサウンドトラックを担当した。ペルーのサッカー選手ウーゴ・ソティルの物語を描いた映画だが、曲調にスポーティな要素は皆無で、牧歌的なアンデスの空気が流れている。音楽性としては、伝統的なアンデス音楽とフォークの融合を試みており、控えめかつ純朴なスタンスが地域色を引き立てている。そして仄かにサイケデリックな捻りも効力を発揮している。11分半を超えるプログレッシヴ・フォークナンバー「La Flor」、アルバムを成功に導いた土着感溢れるインスト「Valicha」がオススメ。


2. Fuera de la ciudad (1973年、2ndアルバム)

El Polenの代表作であり、サイケデリック・フォーク/プログレッシヴ・フォークの名盤。前作からエレキ要素を完全に排除し、アメリカのフォーク・ロックの影響をより色濃く受けた音楽スタイルへと移行している。チャランゴ、バイオリン、ケナ、ハープ、パーカッションなど、アコースティック楽器の美しさが際立ち、そのサウンドは神秘的かつ儀式的で、“サイケデリック”という言葉が英米のものとは異なる意味合いを持つ。メランコリックなアルペジオと力強い歌が共存する「Concordancia」、祈りのようなコーラスを基盤にダイナミックに展開する「El hijo del Sol」は特に名曲。アコースティック楽器が織りなす深遠で神秘的なサウンドスケープは、聴く者を瞬時に別世界へと連れ去る。一曲ごとに驚きがあり、その美しさには時に言葉を失うほどだ。


3. Signos e instrumentos (1999年、3rdアルバム)

アンデス先住民音楽の伝統的な楽器とハーモニーをエレクトリック楽器主体のサイケデリック・ロック/プログレッシヴ・ロックの構造に取り入れたロック・アンディーノの作風を採る。フォーク要素は残っているものの、25年のブランクを経てロック志向が高まったことは「Concordancia」の再録一つとっても明白だ。しかし、エレクトリックなサウンドはこのバンドのダイナミズムやヴァイヴの真髄を体現するには少々喧しすぎるきらいがある。この点において前2作に比べるとインパクトに欠けるのは否めない。


総括

El Polenは、単なるロックバンドの枠を超え、ペルーの音楽史における重要な存在としてその名を刻んでいる。彼らの音楽は、アンデスの伝統音楽と現代のロック、フォークを見事に融合させ、ペルーの音楽シーンに革命的な変化をもたらした。特に、1stアルバム『Cholo』では控えめながらも力強いフォークとアンデスの響きを融合させ、2ndアルバム『Fuera de la ciudad』ではその音楽性をさらに深化させ、アコースティック楽器とサイケデリックな要素を通じて、神秘的な世界を作り出した。

3rdアルバム『Signos e instrumentos』は、彼らが持つ音楽的実験の精神をさらに発展させたもので、アンデスの伝統とエレクトリックなサウンドを組み合わせる試みがなされたが、ややロック要素が強まりすぎた感も否めない。しかしながら、El Polenの音楽は、ペルーの文化的アイデンティティと深く結びつき、後のラテンアメリカ音楽や現代アーティストたちにとっても影響を与え続けている。

彼らがアンデスの伝統音楽に深い敬意を払いつつ、それを現代的に再解釈する姿勢は、チリのLos JaivasやアルゼンチンのArco Irisと並ぶ孤高の存在だ。El Polenの作品は、ラテンアメリカ音楽史の宝石であり、伝統と現代を融合させた稀有なバンドとして、語り継がれるべき存在だ。これを読んでいる方々には、ぜひ2ndアルバム『Fuera de la ciudad』を聴いていただきたい。その鮮烈なサウンドは、今もなお色褪せることなく心に響くはずだ。


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