ビー玉のような眼は、つぶれてもなお私をじっと見つめていた。
夢をみた。
グレーのような白のようなうつくしい毛並みをもつ子猫がいた。じっと私を見つめてくる。その眼はビー玉のように透明で、光をきらきらと反射させていた。
小さな手足は無機質なコンクリートの地面に触れていて冷たそうだ。
その子猫は単眼だった。鼻も口もなかった。ただ顔に丸い眼だけが埋まっている。
それでもやはりうつくしいことに変わりはなかった。
ビー玉の眼に吸い込まれそうになっていく。私は目をそらせずにいた。子猫も目をそらさなかった。
輪郭を手のひらでなぞる。感触はない。けれど毛並みはふわふわしていて、本当に触れていたら気持ちいいのだろうなと思った。
ふいに周りが騒がしくなった。人々がどたばたと左から右へ駆けていく。小さな猫ばかり見つめていた私は、人々の足までしか視界に入れることができない。
空気が薄い水色になる。冬の早朝のような、頬がじんじんとするような空気だ。人々がなぜ走っているのかは分からなかったけれど、なにかから逃げているのだと感じた。
私も逃げなくちゃと思った。
そんな状況でも子猫は私を見つめている。
私は子猫の眼だけを持っていこうと思った。どうしてそう思ったのかは分からないけど、それほどまでに綺麗だったからなのかもしれない。
ふと子猫から目をそらす。世界が暗転する。
気がつくと、子猫の身体はなくなって眼球が一つ私の足下に転がっている。黒のサンダルに眼球がコロコロとぶつかった。
私がこれを子猫から取り出したのだろうか。記憶が曖昧だ。
手に取ろうと思って手を伸ばしたら、誤ってつぶしてしまった。実を食べ終わったブドウの皮みたいにぺちゃんこになった。それでもまだビー玉のようにきらきらしていて、私をじっと見つめている。
私は目を離すことができなかった。
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夢メモ。
単眼の猫ちゃんは描けませんでした。頭のなかではあんなに鮮明に覚えているのに。