【書評】うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった〜日本人女性の99%が鉄不足
体から鉄が不足すると、朝起きれない症状や倦怠感などの不定愁訴が出て、ひどくなると、うつ病・パニック障害のような症状が見られるといいます。筆者はクリニックを経営する精神科医ですが、これまでうつ病などと診断していた、若い女性に鉄分を補うサプリメントなどを進めたところ、多くの人が劇的な改善を示したそうです。
鉄がなぜ重要か?
鉄は主に赤血球のヘモグロビンに含まれており、酸素を体中に送り届ける上で重要な役割を果たします。
それ以外にも、(1)脳内で、神経伝達物質を合成する酵素の部品になる、(2)ミトコンドリア内で、体を動かすエネルギーを作り出す際に重要な役割を果たす、という機能があります。
よって、鉄分が足りていないと、脳内でセロトニンなどの神経伝達物質がうまく合成できず、うつ病のような精神症状を呈するようになったり、エネルギー不足による倦怠感などの症状に繋がるといいます。
一般的な血液検査では、赤血球の色素量などで鉄分の不足を判断します。しかし、ヘモグロビンなど、赤血球の値が基準値に達していても、血漿中に含まれる鉄分が足りないことがあります(鉄欠乏性貧血、「かくれ貧血」という愛称も)。鉄欠乏性貧血の診断には、血清鉄やフェリチンの値を精査することが必要ですが、ここまで検査される機会はあまりありません。そのため、多くの人が鉄欠乏性貧血に気づかないで過ごしています。
日本人の若い女性は99%鉄不足
女性は毎月の生理で血液を排出するため、鉄分不足に陥りやすいと言われています。この本を読んでもっとも衝撃的だったことは、若い日本人女性の99%が、欧米の基準(フェリチン値100ng/ml以上)に達していない、鉄不足の状態だそうです。また、妊娠をすると、大量の鉄が胎児に移行するので、欧米ではフェリリン値40ng/ml以下の女性は妊娠を控えるように言われるそうですが、日本人女性の約8割はこの基準に達していないといいます。
先に述べた通り、お母さんの鉄不足も様々な不定愁訴が出てしまいますが、赤ちゃんの鉄不足は、知能の発達を阻害し、極端な場合には発達障害の原因になってしまいます。
海外では鉄不足による健康の損失が認識されており、法規制に基づいて小麦粉などに鉄を添加するそうですが、日本では全くそういった政策が取られていません。加えて、肉を取らない食生活や、台所用品が鉄製からステンレス製に置き換わっていることもあり、現代の日本人女性は慢性的な鉄不足に陥っているそうです。調理器具による変化は大きく、たとえばヒジキの鉄分量は昔より1/9程度だと言われています。
精神医療で鉄の重要性が理解されない
著者のクリニックを診察した、生理のある女性に鉄分のサプリを与えると、あっという間にうつ病が完治するケースが相次いでるそうです。
しかし、残念ながら精神医療の現場では鉄不足の重要性はあまり着目されていません。
これはそもそも、精神医学の診断が、栄養を欠いているという前提条件を想定していないためだと筆者は言います。また、肉を日本人の3倍食べる欧米では、ここまでの鉄不足に陥る人が、ベジタリアンを除いてあまりいないそうで、そのため欧米の医学書にも、鉄不足による精神疾患症状の記載があまりないそうです。
このような背景もあり、日本の医学部の教科書は、鉄過剰による健康被害の注意事項はあっても、鉄不足に関する記述は不足しており、多くの医師が鉄欠乏性貧血の影響を軽視したまま治療を進めていると筆者は主張します。
私個人の体験
私はこの本を読む前、自分の鉄不足に気づいて改善した経験があります。
私は20代半ばまで、生理前に精神的に落ち込むPMSという症状に悩まされていました。PMSに効くというホルモン剤を投与してもらいに婦人科にかかり、その際に血液検査もしたのですが、「血清鉄」という項目が異常に低かったのです。先生に質問したところ、「ヘモグロビンや色素量が足りているから大丈夫だよ」と言われたのですが、納得できず自分で調べたところ、血清中の鉄分の不足が脳内神経伝達物質のアンバランスに関わるという記述を見つけたのです。
以下の記事は「鉄分は深刻なPMSのリスクを減らす」という記事ですが、当時はこのように英文でしか、情報が得られないくらい情報が少なかったのです。
この考えに従い、鉄分のサプリを取るようにしたところ、3ヶ月ほどで、PMSの症状が驚くほど軽快しました。また、足先の冷え性と、朝なかなか起きれない症状も、治りました。爪がもろく割れやすかったのですが、明らかに固くなったことにも、効果を実感しました。
鉄分をとってPMSから抜け出したのは、長らく個人的な経験によるものだったのですが、この本を読んだとき、現役医師による著書が出て感激した記憶があります。
推測の域ではありますが、多くの女性が鉄不足なのに気づかれず、うつ病・パニック障害・PMSなどの問題とされて、効果のない薬物治療を漫然と受けているのではないかと、私も考えています。
少しでも多くの方が、鉄不足に気づけますように。
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