#短編小説
花散る雨、里に恋しなりゆく(1)【短編】
壱. はるうららサクラサクラ
はらはら、と舞う桜は美しいと、人は言う。澄んだ青空の下、日だまりに包まれながら、名残惜しそうに散ってゆく儚い姿こそが、日本の春の情景だと、更に大人は言うだろう。
――咲くのは一瞬、終わるのも一瞬。吹雪いて一息ではなく、雨に打たれ続け……散り逝く。そんな刹那的な花が、今のサクラだ。
古都、京の春。雪解けが終わりを迎え、陽射しが強くなり、冷えきった空気が過ぎ去
花散る雨、里に恋しなりゆく(2)【短編】
弐.あめあられ桜雨
忘れたくなくて、少しでも思い出に関わっていたかったのだ。唯一の理解者がいなくなった現実の受け入れ方、どんな風に心を落ち着かせたらいいのか、今でもわからない……
「おばあちゃん……ほんま急やったんよ。元気そうやったのに…… 病気が見つかった時は、もう手遅れやった……」
自分自身でもずっと操り切れなかった何かが、口にしていく度に暴れ出す。小さな心の中に収まり切らないモノ
七夕前夜(2) 【短編】
第三夜 移り変わる努々(ゆめゆめ)
『久しぶりです。っていうのもおかしいか。毎日、暑すぎますね。
実は、この前の通話で言いそびれたけど、少し前に用事で降りた駅で、初めて二人で会ったカフェの前を通りました。
今の状況が落ち着いたら、また一緒に行きたいですね。』
――覚えてて、くれてた……
この前言ってくれたら良かったのに……と少し思ったが、照れ臭くて顔を見ては言い出せなかったのだろうか…
朽ちぬ花嫁 【短編】
あらすじ
序幕 ~ 夢幻泡影
――“咲き誇った後に散るからこそ、花は、儚くも美しい”
誰からともなく、古来から語られ継いだ常套句。だが、時に畏怖を為され、忌まわしき対象と化した時代があった。
次に崇め奉られ、また無情に散るのも、力弱くも懸命に生きる、咲いて間もない、美しい生命だったのである………
サクラ
……あれは、十になる年の春だったでしょうか。幼い頃の朧気な記憶の中で、一番鮮