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追い越す


枯れた並木を横目に
遅い車の後に続く
もう少し辛抱すれば
この先の底に着く

停める場所を探す
誰もが何処かへ行く
だが僕に目的地はない
ただ静かに停まる

サイドブレーキを引いて
ゆっくりと目を伏せる
シートを少しだけ倒して
帽子を深くかぶり直す


会話が聞こえてくる
先を行く君が僕を呼ぶ
僕は照れながら君を追う
ふたりは光を浴びている


でもいまは


秋なのに桜色の道
秋なのに日が射す新緑
秋なのに真っ白な屋根
秋なのに騒がしい蝉

窓の外に目をやる
自転車が猛スピードで行く
いやベビーカーも杖をつく人もだ
ああすべてが僕を追い越す


耐えられず僕は目を閉じる
あの日見た君の姿が浮かぶ
僕のライトに照らされて
美しく白く浮かんでいる


行かないで


そう言おうとして僕は
声を詰まらせた
シートを起こし目をこする
エンジンをかける

スピードを上げて
すべてを追い越す
もう止まることはない
ずっとずっと追い越す




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