時の魚
水の音がする方へ向かうと
大きな岩の隙間を
せせらぎが流れていた
下へ降りてみると
枝や葉で小さな堰ができている
僕は水に触れてみる
あなたは後ろで黙って見ている
岩を撫でる流れの形は
常に同じに見えて
常に変わっていく
目を凝らすと
堰の水面も瞬時に入れ替わる
僕は水に触るのが好きなんだ
でも今日はどうかな
何かが違う気がする
まるで諦めていたことを
諦め切れないとわかったみたいだ
あなたが僕の背中に手を置く
ぬくもりが背骨に伝わる
僕は水になれないとしても
流される木の葉にはなりたかった
人の世でいつも抗っていても
森の掟には従順でいたかった
でも今はもう
あなたは水も僕も見ていない
反対側の川岸に目を奪われている
水に張り出した枝の上から
青い鳥が水面をじっと見ている
ああ僕は鳥に捕まる魚で良かった
丸のみにされて暗闇で溶けるのを待つ
その時が来るまでは恋もしたし
運命を知ってなお全力で泳いだ
でも今はもう
あなたの手はまだ僕の背にある
これさえあればいい
光が反射して気づかなかったが
目を凝らすと無数の魚がいる
僕が感じられない流れを捕まえ
全力で川上を目指している
僕は一匹の魚の顔を追う
あなたも僕も
この魚でありこの水であり
あの鳥でありあの石ころであり
川底の藻であり流される砂であり
生まれ来る卵であり沈む亡骸なんだ
さっきまで
そう思っていた
でも今はもう
耐えられない
僕は声を上げて泣く
あなたの手を
僕の背にとどめていたい
僕は子どものように泣く
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