穢れ
フロントガラスに霙が当たり
コーヒーを買うために車を停めた
遠くの山に雪がかかる
写真を君に送ろうとして
僕は指を止めた
君はきっと
とても綺麗ねと言う
運転気をつけてねとも
だけど僕の感じている寒さを
君は思いもしないだろう
愛が失くなることなんてあるの?
無邪気にそう言った君
今なら自分で答えられるはず
哀しいことだけれど
君は君が思うような人じゃない
ひどい嘘つきの君でも
逝くときはきっと
思い残すことは何もなく
穏やかな微笑すら浮かべて
静かに目を瞑るのだろう
君の行く先は
地獄でも天国でもなく
すべてが滅びた無の世界
君の嘘も優しさも
無に絡めとられてしまう
君が振り撒いた歓びも
君の刃で噴き出した血も
まるでなかったことのように
忘れ去られてしまう
僕からも失われる
自分に酔いしれて涙ぐみ
その器用な指先を動かし
まっすぐに瞳を見つめて
君はその言葉を穢した
僕はそれを永遠に捨てる
季節外れの薔薇が咲いている
ふたりで何度も薔薇を見たけれど
今日の薔薇がいちばん美しい
君に見せてあげたい
でもやめておく
アクセルを強く踏むだけで
山の白さも薔薇に吹く風も
すべてが遠い過去になる
車を次々と追い抜いて
僕は無に向かう
無に向かう
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