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Photo by
b_mary
哀死
愛されないことなど
なんていうことはない
でも愛していないことに
気づいてしまったなら
明日から
どんな風に生きればいい
彼はそうつぶやいて
ガムを口に放り込む
禁煙しているのだ
そう簡単に愛なんて
手に入るはずはない
愛を知る者などいない
それを目にしたことも
心のはじっこですら
感じたことなどない
目を伏せたまま
表情を変えず
彼は話し続ける
知りもしないのに
愛を語る者たちが
欲しがるものは幸せ
愛という名の下に
道具を操りつづけて
足りないと騒ぎ立てる
彼は目をぎょろつかせる
通り過ぎるバイクを見送り
ガムをもうひとつ放り込む
愛されないことなんて
どうということはない
でも奴らと同じだと気づいて
どうして生けるだろう
胸を締めつけるこの愛しさに
微塵の意味もないのだから
彼は俯いて頭を振る
哀しくて死にそうだと
だがまたガムを噛む
次の瞬間
彼は消えた
跡形もない
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