「マインドフルネス」✕「性格的強み」の介入を組み合わせると効果は上がるのか? ースイス63名への調査研究ー
こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。
さて、本日ご紹介の論文は「マインドフルネスと強みの融合」という論文です。
「マインドフルネス(今ここに集中する)」というキーワードは、ある時期に大変注目されました。マインドフルネスによって、幸福感やパフォーマンスの向上があることが示され、AppleWatchでも「呼吸」を提案されたり(これもマインドフルネスの一つです)、瞑想の効果が語られたり、日常的に取り入れている方もいらっしゃるかもしれません。
今日はそんな「マインドフルネス」に「強みの活用」をかけ合わせることで、どのような成果に繋がったのかを分析した定量的な調査になります。
この種の調査は、実験群と対照群など用意した研究デザインが少なく、その中では希少な研究と言えるかもしれません。
ということで、早速見てまいりましょう!
1分で分かる論文のポイント
近年、産業・組織心理学において、「マインドフルネス」と「性格的強み」の両方が関心を集めている。その理由は、それらが従業員のウェルビーイングやパフォーマンスに影響を与える研究が増えていることが背景にある。
本研究では、「マインドフルネス」と「性格的強み」の関連性を考え、この2つの実践を組み合わせたトレーニングを、63名を対象に行い、その効果を検証した。
実験は3つのグループに行われた。具体的には、(1)マインドフルネスに基づく”強みの実践”(Mindfulness -Based Strengths Practice :MBSP)、(2)マインドフルネスに基づく”ストレス軽減”(Mindfulness -Based Stress Reduction :MBSR)、(3)コントロール群、の3つである。
上記対象者に対して、「仕事への性格的強みの活用」「幸福感」「ストレス」「職務満足度」「タスクパフォーマンス(上司からの評価)」の項目を、介入前・介入後、介入後1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月で評価をした。
その結果、(1)マインドフルネスに基づく”強みの実践”は、幸福感、職務満足度、タスクパフォーマンスの向上に影響があり、(2)マインドフルネスに基づく”ストレス軽減”の介入は、幸福感、職務満足度の向上に影響があり、ストレスの軽減の効果があった。
とのことです。ということで早速内容を見てまいりましょう!
マインドフルネスとは何か
マインドフルネスの定義と歴史
まず「マインドフルネス」とは何でしょうか? 論文では「マインドフルネスとは、目的を持って、判断を手放して、今この瞬間に注意を払うこと」とあります。その他、その歴史と背景については以下のような説明がありました。
元々はストレス緩和などを目的とした臨床的な技法でした。しかし、ここ15年ほどの間では、職場における従業員の健康と幸福を促進するためのマインドフルネスの導入へ関心が集まっているようです。(Klatt,Buckworth, Lalarkey, 2009)
マインドフルネスの効果
そのように、注目が集まった結果、従業員やリーダー向けのマインドフルネス・トレーニング・プログラムも開発され、その効果も検証されてきました。それらの研究によると、
などの有益な効果が示唆されている、とのこと。なるほど、注目されるのも頷けます。しかしながら、これらの研究については、まだ道半ばのところもあり、今回の研究に繋がっていきます。
研究の全体像
研究の背景
マインドフルネスについて有益な効果を示されている一方、2017年の研究によると、マインドフルネスについての40の研究のうち、信頼性を担保するランダム化比較試験は半分しかなく、 約4分の1は対照群すら利用しておらず、比較条件を用いた研究は1つしかなかったとのこと。加えて、実践の維持がマインドフルネスの効果に影響を及ぼすかどうかに関しても、不明瞭な点も多いと指摘されています。(Jamieson and Tuckey, 2017)
また、マインドフルネスと同様に、従業員の幸福感や職務満足度、パフォーマンスに影響があるものとして「性格的強み」が挙げられています。そして、マインドフルネスと性格的強みの相互作用についても、これまで研究がされてきました。例えば、”「学習意欲」「審美眼」が高い人はマインドフルネストレーニングを取り入れやすい”とか、”マインドフルネスによって「好奇心」「自制心」の強みが強化される”と述べています(Pang&Ruch, 2018)。
そのため、今回の論文ではマインドフルネスの効果を長期間にわたって検証するとともに、マインドフルネスと「性格的強み」の相互作用についても調査をしよう、となったのでした。
本研究の目的
上記のことを含めて、以下のように本研究の目的と仮説が定められました。
参加者と介入方法
それでは具体的に研究はどのように進められたのでしょうか。以下、その内容をまとめます。
<参加者>
63名(スイス)
・インターネットを通じて募集し、無作為に以下、3つの条件に当てはめられました。(1)マインドフルネスに基づく「強みの実践」の介入群、(2)マインドフルネスに基づく「ストレス軽減」の介入群、(3)コントロール群(予定が埋まっており参加できないと案内された群)の3つです。
<介入方法>
さて、本研究では以下の2つのマインドフルネス介入が行われました。「マインドフルネスによる強みの実践 or ストレス軽減」の2つの介入です。
(1)マインドフルネスに基づく「強みの実践」(Niemiec, 2013)
(Mindfulness -Based Strengths Practice :MBSP)
・マインドフルネスの助けを借りて、参加者が自分の性格的強みを様々な方法で適用すること。介入の流れとしては、「オープニング瞑想」「前回セッションの振り返りとディスカッション」「理論的なインプット」「マインドフルネスと性格的強みのエクササイズ(あるいは組み合わせ)」「クロージング瞑想」という形での介入が行われた。
(2)マインドフルネスに基づく「ストレス軽減」(Kabat-Zinn, 1982)
(Mindfulness -Based Stress Reduction :MBSR)
・非標準的なマインドフルネスにおけるストレス軽減の2時間のプログラムを行った(内容の詳細の記述なし。残念…)
また、(1)(2)共に、参加者には宿題(毎日20~40分)が提案されて、振り返り日記やオーディオテープで、各介入に従った「マインドフルネス or ストレングス」の実践を繰り返すように求められました。
分析方法(調査尺度)
研究参加者に対して、介入前・介入後、介入後1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月の合計5回の調査を行いました。
調査尺度については以下の4項目です。
●「性格的強み」(Character Strengths Rating Scales ;Harzer & Ruch, 2013)
●「幸福度指数」(WHO5; WHO, 1998)。
●「知覚ストレス尺度-10」(PSS-10; Cohen & Williamson, 1988)。
●「職務満足度調査票」(JSQ; Andrews & Withey, 1976)
●「タスクパフォーマンス質問票」(TPQ; Williams & Anderson, 1991)
研究の結果
さて、研究の結果どのようなことがわかったのでしょうか。
わかったこと1:「(1)マインドフルネスに基づく強みの実践」は、幸福感と職務満足度とタスクパフォーマンスを高めた(ちなみに、タスクパフォーマンスの影響は「介入1ヶ月後」まででした。)
わかったこと2:「(2)マインドフルネスに基づくストレス軽減」は、幸福感と職務満足度を高め、ストレスを軽減させた(こちらは、ストレス軽減は介入6ヶ月後まで上昇傾向が維持されました。)
まとめと個人的感想
今回の論文の結論では「マインドフルネス・トレーニングだけでは、課題遂行能力に影響はないが、強みの実践を組み合わせることで、タスク面にもポジティブな影響があると示唆される」と述べています。
研究としては、マインドフルネスはマインドフルネス、強みは強み、という方がわかりやすい気もしましたが、「実際に組織の現場で介入をする(研修をする)」ときは、様々な有効なものをカスタマイズして混ぜていくのが現実的ようにも思います。
その中で、マインドフルネスは何に効くのか? 強みの実践は何に効くのか?を分けて考えることで、より参加者にもたらしたいインパクトを意図して作れるようになるのでは、と思いました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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