全国旅行支援のクーポン
たまたま、めちゃくちゃ長く旅行の観光をする予定を立てていた。1ヶ月だ。
奇跡的に、その時期と全国旅行支援が重なった。マジで奇跡。
自分の旅行した都道府県では、1日3000円分の金券が貰えた。自分は調子に乗って、旅行なんてほっぽってその街一番の大きな本屋に向かったのだ。70000円分の金券を持って。
入店し、颯爽とカゴを持つ。書店でカゴを持ったのは初めてだった。そのまま本棚に直行する。
力を持った富豪の気持ちだった。いつもは余裕で1時間熟考して買う本を選ぶのに、今ならどの本でもぽいぽいカゴに入れられる。なんなら夢にまで見た「ここからここまで全部ください」も可能なのだ。や、やばい。富豪。人として大事なものを見失う。
とりあえずコミックを買った。シリーズ物は巻数が多いから買うのを躊躇うのだ。棚に置いてある1巻から5巻を片手でむんずと掴んでカゴに着地させる。
快感……
図書館でしかやったことがない。図書館でしかやれないと思っていたやつを自分は今本屋でやっている。片手で本をガッて!こんなに買っていいんですか!?そのときの自分はだいぶキモい笑みを浮かべていたと思う。マスクを着けてて本当によかった。
次は小説。ずっと買いたかったけどシリーズだから揃えるの厳しいな〜と思っていたものを、片手でガッと掴んでカゴにイン。ついでに隣にあった読みたかった本も見つけたからイン。こんな横暴が許されていいのか。一気に6冊なくなった棚は見た目が寂しくなっていたが、代わりに買った人の熱量が伝わってきた。自分だ。自分の熱量がこの空っぽの空間に詰まっている。
新刊も気になっていたものを買う。発売されてからすぐ買わないと次に繋がらないから。
だからといってお財布と相談するから自分はなかなか発売日すぐには買えない。1年くらい悩みに悩んで、それでも欲しい気持ちが消えなかったら買う。作者側には迷惑極まりない消費者なのだが、金がないから許してほしい。発売日に買ってしまうとマジのガチで破産するのだ。
いつもは(いやでもな……もうちょっと考えるか……)と思う新刊も、躊躇いなくカゴに入れる。
快感……
クセになりそうだ。まだまだ買える。なんせ70000円もある。書店で一気に使った額など、せいぜい貰った図書カード5000円分だ。それも学校で必要なシャーペンやノートを買ったから満足感はそれほどなかった。今は違う。
好きな本を、好きなだけ買える。
こんなことが許されていいのだろうか。
国に税金を収めている恩恵なのだろうか。国民の税金を自分が湯水のように使っている。やばい。背徳感も満足感もやばい。自分の数少ない語彙力では言い表せないくらいの高揚を感じながら、大きな書店をぐるぐる歩き回った。書店はいつも意味なくぐるぐる歩き回ってレイアウトを眺めにやつくのが趣味なのだが、今回は獲物を前にして舌なめずりをする獣のように歩き回った。マスクを着けていても視線は誤魔化せない、その時の自分はなかなか不審者のような挙動だったと思う。
買いたい本が尽きることはなかった。歩いたらほしい本が見つかるのだ。これもほしいあれもほしい、あっこれもほしい!入れちゃお!
どんどん重くなるカゴ、比例して上がるテンション、カゴを見てぎょっとする他のお客さん。でも良いんだもん。70000円もあるから!
と思いカゴが二つになり、本を入れ続け、ついでに気になっていたボールペンや色鉛筆も入れて、1時間店内を歩き回った獣はお会計。ガバガバ計算はそれなりに役目を果たし、はみ出した額は6000円。いやけっこうはみ出したか?まあそんなことは良い。無料配送で送ってくれるらしい。これは助かる!ありがとうございます!
2人がかりで点数を数える店員さんに心の中で謝りつつ、大量の金券を差し出す。これも数えてください……すみません……
と言いつつ、今からこれが配送されるのを考えてにっこにこだったから相当なサディストに見えていたと思う。本当にすみません。
ということで、旅行もしっかり楽しみ、買いたかった本を買い、一生分の運を使い果たしたんじゃないかと思う旅行だった。納税者の皆さんすみません、自分が皆さんの税金を使いましたー!ありがとうございまーす!
ということを噛み締めて、じっくり読みたいと思う。物価は上がるのに給料は変わらないから本を買いにくくなり、紙の本は斜陽産業とも呼ばれているが、デジタルと違って紙の本は電気がなくても読める。充電もいらない。物理でずっしり感じる『記憶』の塊。本はいいぞ。