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芸術研究特殊講義III
芸術研究特殊講義III メディア授業課題
*これは、近隣の図書館の蔵書の中で、美術系の書籍を分析する課題で、図書館には通っているが700番という書架をじっと眺めたことはなかったので、そこが面白かった授業だった。読みたい本がいろいろ発見できた。
以下レポート。
市内の二つの図書館で、700番の書架の701.1の資料を探したが合わせて10冊に満たなかったため、書庫で貸し出し可能な資料も取り寄せ、目を通した。大きく分けて、評論文の書籍と図版の書籍に分かれる。図版では「シンボル」をテーマにした大判の書籍がいくつかあった。リストにあげた中で、今後の研究において参考になると思われた資料をまとめた。
『「いき」の構造』、日本の「いき」、いわゆる「粋」であろうと思われる言葉の内包する意味を、他国の言語を含めた様々な言葉とその意味で照らし、同種や反対の言葉と並べて対比させ、分析している。「いき」が形態として「媚び」や「女性の仕草や状態」へと渡って説明される。美とは何をどこまで表すのかという問いにあらためて向き合うとそれは永遠に答えが無い問いなのでは?という思考に至った。それ故に誰もが追求を続けるのだろう。
『美学への招待』、特に美術に興味を持たない読者が手に取っても入り易いと感じられたのは「ですます調」の文体と、一般の人の立場に立って説明されているのが理由ではないか。簡単で平易とみられる疑問が、深い場所に入ってゆく解説文は研究文を思索する上で非常に参考になる。
『美と芸術の理論』 芸術とは、文学、美術、音楽などの個々の性質を持っているが、それは何かを芸術の本質を問うことにより明らかにできるだろう、と述べる。またその分類が、自由芸術、応用芸術、またその中間にあるもの、音楽と文学との中間、絵画と音楽の混ざったものがあり分かちがたいものでもあるが、結局は文学、美術、音楽という三分法になる。それは内容的なる芸術と形式的なる芸術という二つにも分類できるとし、その形式の中で個別のモチーフ、例えばオペラや小説や詩、風景画や建築がどのようにその分類の中に入るのかを細かく論じている。自分の興味のある美術がどのあたりに分類できるのか考えた。
『反映と想像』 芸術創作は作者の意識の表現であり、対象化であり、鑑賞者は作品自体からイメージを自分に取り込む。芸術の過程をどこで締めくくるかで芸術の本質は変容すると述べ、表現と認識の間の議論が、創作と鑑賞の分裂を反映しているとする。中野徹三に対する反論と、ヘーゲル、カント、レーニンにおける反映論を引用し、「反映」とは何かを起点として様々な場面における反映を論じている。反映とは、思考の拡張なのかと考えた。
『美学辞典』 美学、美、自然美、芸術を基礎的な諸概念、表現、想像力などを生産に関する諸概念、様式、美的範疇などを対象に関する諸概念、美的態度や美的判断を消費と再生産に関する諸概念とし、その四つのカテゴリーの中で、それぞれの分類項目を定義、歴史に分けて説明し、文字通り辞典として検索できるようになっている。何か疑問が沸いたらこの本を紐解くと良いと思えた。
『美と詩の哲学』2章4の「美の位置」の項目における「美の射程」の中で、「美」とは「驚嘆」を呼び起こすものと語られているのが印象的だった。「心の底から震撼させる美の放射」について、美の歴史を辿っている。またドイツ前ロマン主義の詩人シュレーゲル(1772ー1829)が取り上げられ、その作品『ルツィンデ』の文学的成熟への過程は興味深く、一つの芸術作品を多方面から理解する方法論として実習できる。
『西洋美学のエッセンス』では、プラトンを筆頭に、カントやヘーゲルなど、美学について語った哲学者についての論文が編纂されており、美学の歴史を辿りながら哲学者の傾向を比較できる。
『中井正一とその時代』、文体が読みにくく難しく感じた論文だったが、中井正一が辿った美学の歴史を知ることができる資料として興味深く、ひとりの作家の調査を、時代をテーマに掘り下げる資料としても参考になると感じられた。
『美を脳から考える』美学を視覚的芸術、聴覚的芸術、人体の造りから分析する。人間は美を脳で感じているという当たり前、または無意識で感じ取っている部分に光を当てている。人は目で見ていると思い込んでいるが、目という機能を使って脳で感じ取っているわけで、美学は文系だと思い込んでいたが実は理系なのかもしれないと感じた一冊である。
『講座美学3美学の方法AESTHETICA』の「カロノジア」の章で、芸術とは「一つの思想の表明」であり、それ故に「一般的には美は消えてゆく」ことがあるとの記述と、「芸術学の美との決別」において「芸術の学は、美を研究しない」との記述には大いに思考するところがあり、自分の中での新たな問いの発見となった。また、日常の中に美を探すことの意義、美が義や善を超える「卓越した価値」であるとの記述にも考えさせられた。
自分は今まで自分の思考の赴くままに作品作りの方へと進み、それを離れて(作品自体を客観視することはあっても)思考することはほぼ無く、哲学が深く関わる芸術評論においては極めて難解な理論であると捉えていたが、例えば一つの作品と向き合った時に様々な観点から思考を重ねて行くこと、表現された中を思索し、深く入って行くことは、「美学」という思想を中々正確に把握できていないとしてもその知識が有るだけで、そこには何か変化が生まれるのでは無いかと気付いた。
資料リスト
*「いき」の構造―他2篇 九鬼周造 岩波書店 1979
*イメージの修辞学―ことばと形象の交叉 新装版 西村清和 三元社 2017
*絵でみるシンボル辞典 水之江有一 研究社出 1986
*芸術は世界といかに関わるか―シェリング、ニーチェ、カントの美学から―
ディーター・イェーニッヒ 神林恒道訳 三元社 2018
*サイン・シンボル大辞典 ミランダ・ブルース=ミットフォード 小林頼子・他 監訳 三省堂 2010
*新編美の法門 柳宗悦著 水尾比呂志編 岩波書店 1995
*美学 ドニ・ユイスマン 吉岡健二郎 他訳 白水社 1992
*美学への招待 佐々木健一 中央公論社 1987
*美学入門 中井正一 朝日新聞社 1987
*ヨーロッパ中世象徴史 ミシェル・パストゥロー著 篠田勝英訳 白水社 2018
*美を脳から考える インゴ・レンチュラー他編 野口薫他監訳 新曜社 2000*美学辞典 佐々木健一 東京大学出版会 1995
*美と詩の哲学 渡辺二郎 放送大学教育振興会 1999
*中井正一とその時代 高島直之 青弓社 2000
*反映と創造 芸術論への序説 永井潔 新日本出版社 1981
*美と芸術の理論 深田康算 白鳳社 1982
*講座美学3 美学の方法 AESTHETICA 今道友信 東京大学出版会 1984
*西洋美学のエッセンス 今道友信 東京大学出版会 1987