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例文トレ#10 本日のお題「楽(らく)」

例文トレ#10 本日のお題「楽(らく)」

先月に引き続き、学習者に説明するのが難しい語彙、または学習者がうまく使えない語彙シリーズ、本日のお題は「楽(らく)」です。

まずは辞書で「楽」の解説を見てみましょう。

1. 心身に苦痛などがなく、快く安らかなこと。また、そのさま。「気が―になる」「―な姿勢」「どうぞお―に」
2. 生計が豊かなこと。また、そのさま。「不動産収入で―な暮らしをする」
3. たやすいこと。簡単なこと。また、そのさま。「―な計算問題」「―に勝てる相手」

デジタル大辞林

「楽」=”easy”で説明してしまうことの危うさ

英語圏の学習者は「楽」=”easy”と理解している人も多いかもしれませんが、、、英語の”easy”のカバーする領域と日本語の「楽」は少しずれるところもあるような気がしています。coto講師の一人がこんな学習者の例文をあげてくれました。

  • 日本語がペラペラになったら、日本の生活が楽になります。

  • たくさん勉強したら、漢字を楽に読めます。

たしかに”easy”なんだけど・・・でも、なんだろう、この違和感・・・。
これ、皆さんなら可としますか?100%非文とは言えないけど、ネイティブとしてはちょっと違和感を感じます。

日本語らしく表現するなら

  • 日本語がペラペラになったら、日本の生活が楽になります。→ 日本の生活に困らなくなります。

  • たくさん勉強したら、漢字を楽に読めます。→ 漢字がスムーズに読めるようになります

かな。カタカナになってしまうのが学生には納得しにくいかもしれないですが・・・


「楽に読める」から私たちネイティブが想起するのは、「肉眼だと見づらいけど、老眼鏡をかけると、新聞の字が楽に読めるようになる」みたいな肉体的な負担が軽減されるようなニュアンスです。

日本人としては、「生活」という語彙に「楽」という語彙をつけると、やはり「経済的な」困難さがない状態を想起します。

日本語の「楽」と英語の”easy”の意味はもちろん重なるところもありますが、イコールではありません。コロケーション(語彙の結びつき)においても、英語と日本語ではズレが生じます。英語と日本語では意味領域・意味境界に違いがあるということを認識しておきたいですね。

「楽」には2つの機能があるかも説

辞書の解説とは別に、もうちょっと自分なりに観察してみた結果がこちら

  1. 属性描写(より客観性のあるもの)
    <意味> (物理的に)難しくない、平易、容易、簡単、easy, simple

  2. 感情描写(より主観性のあるもの)
    <意味>(心的・肉体的・経済的な)快適さ、心地よさ、緊張や苦労からの解放というニュアンス、comfortable, comfy, relaxed, smooth, peaceful, calmなど

例文はコトハジメのブログ記事をご覧下さい。


さいごに・・・

学習者に説明するのが難しい語彙、または学習者がうまく使えない語彙、たくさんありますよね〜。是非ともリストを作りたいっ!

「楽」のように基本語彙として初級で出る、また日常的にも頻繁に使われる語彙は一見、習得が容易であると考えられますが、学習がある程度進んでも、その意味領域・意味境界に関する知識が不十分ということも多々あります。日本語教師自身が領域の違いや境界の存在に気が付いていないケースもあります(けっこう多いかも〜)。

もちろん全てを把握することはできないので、誤文が出てきた時や違和感を感じた時に自分なりにどう解決するか、その方法を身につけておくといいですね。

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