「箔押しを愛する、すべての者たちへ」
おそらく過去に前例がなく、この先も二度と出会うことができない、そんな予感がするお仕事。それが、2022年6月発売『 デザインのひきだし46 』の表紙への箔押し加工です。
これはもう、『 伝説となること間違いなし 』でしょう!
・ 前代未聞!! 表紙が全1000パターン
紙が10種類、箔色は20色、腐食版と彫刻版の2つの版で繰り出す、今回の表紙のパターン数は、なんと1000パターン!
1パターンにつき14冊程度しか加工しないので、1冊1冊の希少価値が高く、どのパターンを手にすることができるのかは、まさに運次第!?
この前代未聞1000パターンの表紙の『 デザインのひきだし46 』が出版流通に乗り、全国の書店やネットで販売されるのです。この未だかつてない箔押し加工をコスモテックでお手伝いさせていただきました。
・ 純粋に見てみたい、という思いは強い
『 デザインのひきだし 』編集長 津田淳子さんと打ち合わせの際、この途方もない表紙の制作プランは突然のように生まれました。
今までの箔押し加工の経験を駆使して、例えば「 100パターンの表紙 」といえばなんとなく工程や規模を想像することができるのですが、まさかの「 1000パターン 」は雲をつかむような感じがあり、想像できる範囲を超え、はるか彼方 未開の地へ踏み込むような感覚でした。
「 できるのか、できないのかすら想像つかない。ただ、見てみたい… 」
「 一体何が起こっているのか? 現実なのか?? 」
津田さんとの初回ミーティングは、まるで学生時代の部室での会話のように『 実現できたら面白いよね 』という夢の話を互いに語り合っているようでした。しかし、この時間なくして、この驚異の表紙を生み出すことはできなかったと考えると、貴重な瞬間だったのだと今は感じます。
今回のような前例のないプロジェクトに取り込む時、一緒になって考え、取り組むことのできるチームでなくては、世に生み出すことはできません。そして今回、津田さんとコスモテックが手を取り合って踏み込んだのが「 全1000パターンの表紙 」という前人未踏の境地です。
成し遂げるためには、今まで培ったお互いへの信頼、そして両者の阿吽の呼吸が必要不可欠なのでした。
・ 臆することなかれ
普通は何かの印刷物を「 100パターン作りたい 」という相談があると、大抵の会社からは「 やれないことはないけれど大変そう 」という反応が返ってくることでしょう。しかし、「 1000パターン作りたい 」となると、ほとんどの場合、「 申し訳ないけれど、うちではできません 」と断られてしまうのではないかと思います。
それほど想像がつかない規模の仕事であり、材料や組み合わせのパターン数が増えればそれだけミスの可能性も増え、管理は非常に大変になります。今回も、「 ただただ見てみたい… 」という好奇心とは裏腹に、「 経験のない規模の仕事だぞ!ミスったらどうするんだ!? 」と心の中で叫ぶ、心配性の自分(青木)もおりました。
表紙の箔押し加工の際には、加工に使う極上な版を制作して下さった版屋さんや、たくさんの箔材を提供して下さった国内外5社で働く方たちの思い、そして、実際に加工してくれたコスモテックの加工現場のメンバーのプレッシャーを想像すると、この仕事を引き受けると決断した僕(青木)自身にも重圧が襲い掛かってきました。
特に、いざ今回の表紙のプランが進行することに決まり、金属版や、印刷された表紙、箔材などが次から次へとコスモテックの現場に搬入される様子を見ると、その重みがずっしりと肩にのしかかるのを感じました。
「 臆することなかれ。臆することなかれ。 」
と自分自身に必死に言い聞かせました。しかしそんな時、今は亡き箔押しの匠 佐藤やコスモテックも一員である印刷加工連の仲間たち、今まで出会ってきた方たちの顔がふと頭によぎり、自分が今まで体験してきたことが「 しっかりやれよ! 」と後押しをしてくれるような心強い感覚をおぼえました。
すると、ふっと気持ちが軽くなり、「 表紙1000種類なんて、後にも先にも、もう味わえない体験だ。挑戦あるのみ! 」と思い直すことができました。
・ 「 準備がすべて 」であること
箔押し加工で最大のパフォーマンスを発揮するには入念な準備が必要不可欠です。料理に例えると、下ごしらえ。ここにはしっかり時間を費やします。
製作する表紙が1000種類にもおよぶため、紙と箔色の組み合わせはしっかり考えて、把握しておかないといけません。津田さんから使用する紙と箔のリストをいただいた日、会社から帰宅後の真夜中にエクセルで組み合わせ一覧を集中して一気にまとめました。
いくらコスモテックの箔押し現場でも、加工するその場で1000パターンを決め、情報を整理する間もなく挑むのは不可能です。まずはしっかり組み合わせを決め、加工開始までの期間、僕と現場とで じっくりと情報を共有しないといけません。
紙の質感や色、箔色の特徴やその接着材の性質など、実物の紙サンプルや箔の見本帳と睨めっこしながら、一つ一つの情報を集約しつつ、加工方法や管理の仕方をシミュレーションしました。これから取り掛かる前例のない加工を考えると、静かなる熱狂の渦に飲み込まれ、眠気を感じる間もありませんでした。
「 誰にもできない体験を今させていただいている 」という感謝の気持ちと共に、「 絶対にやり遂げてやる 」という強い思いに突き動かされていたのです。
・ やり遂げる
ご存知の通り、コスモテックは箔を押す会社です。それ以上でもそれ以下でもなく、シンプルで小さな箔押し屋さんです。僕が入社当時から今もずっと変わっていません。
もしも昔と今で何か違いがあるとすれば、『 今まで出会ってきた人たちによってもたらされた学び多き時間や体験 』がコスモテックや僕を変えてくれたおかげです。
入社した時は何も知らず、何もできなかった ど素人の自分が、どうにか歯を食いしばって踏ん張り続けて今に至っています。今のように頼りにしていただけるようになるまでの過程には編集長の津田さんをはじめ、たくさんのデザイナーさん、同人作家さん、協力会社の仲間たち、そして多くのお客様との出会いや やりとりがありました。それらの出会いや体験なくして、「 1000パターンもの表紙を実現させるのだ 」という気持ちには、とてもなれなかったことでしょう。
そして、何かをやり遂げるためには様々な条件を満たしたり、ちょうどいいタイミングを選んだり、いくつものハードルを飛び越えなければなりません。今回のような大きなプロジェクトでは特に、すべてのハードルを安全に越えられるよう入念に準備する必要がありました。この準備があってこそ、1000パターンもの表紙製作をやり遂げることができました。
また、弱気な気持ちに飲み込まれそうになった時には「 どうやってできるか考えている時が面白いんじゃないか! 」と励まして下さった箔押しの匠の叱咤激励を思い出しました。もし、入社当時の駆け出しの頃の自分のままであれば、「 こんな途方もない仕事、絶対実現できない 」と始める前から諦めていたかもしれません。
・ 箔押しを愛するすべての者たちへ
僕は、何か大きなことをやり遂げるためには、多くの出会いと体験、信頼できる仲間、最適なタイミングが大切だと考えています。
編集長の津田さんが、加工立ち会いを終えた帰り間際に僕に話してくれた言葉は「 まさか本当に実現することになろうとは思いませんでしたよね 」でした。その言葉に対して、僕は「 夢を見ているようですよ、本当に。 」と答えました。
この一瞬の会話から、今回の1000パターンもの表紙は、たくさんの出会いと体験を経た、今このタイミングで必ず生まれてくるべきものだったのだろうという、運命のような、ご縁のようなものを強く感じました。
真剣に長年培ってきたこと、コツコツと積み上げてきたことがあるからこそ、ふっとアイデアを閃くタイミングがあり、一緒に取り組める仲間がおり、その時がまさしく「 機は熟した 」と思えるのではないでしょうか。
入社した頃は箔押し加工について右も左も分からなかった僕ですが、今ならきっと「 箔押し大好き! 」 と、自信をもって言えるでしょう。こんなにも自分がこの仕事、箔押し加工にハマるとは思いもよりませんでした。それもすべて、今までのたくさんの出会いや体験のおかげです。
たくさんの方の支えの中で生み出すことができた1000パターンの『 デザインひきだし46 』表紙、ぜひ「 箔押しを愛するすべての方たちへ届いてほしい 」と切に願います。そして、今回も驚きの仕様で多大なるチャンスと挑戦の機会を与えて下さった、『 デザインのひきだし 』編集長 津田さんに心からの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました!
『 1000パターンの箔押し表紙よ。 伝説となれ! 』
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