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「 改めて 『 胞子文学名作選 』 について 」
コスモテックの青木です。
今 SNS上で、 2013年にコスモテックで箔押し加工のお手伝いをさせていただいた書籍 『 胞子文学名作選 』( 出版社 港の人 )の話題が急に再沸騰したので、その理由と共に改めてご紹介します。
2024年8月、下の 有隣堂( ゆうりんどう )の YouTube 動画 『 本の装丁の世界~有隣堂しか知らない世界279~ 』 が大きなきっかけとなり、『 胞子文学名作選 』 に再び大きな注目が集まりました。
2013年に箔押し加工をお手伝いし、刊行された本。
発売当時もそのインパクトのある佇まいと内容から大きな話題となり、ジャケ買いする人も多かったと記憶しています。
本の表紙やカバー、背表紙、見返しなど外観をデザインすることを 「 装丁 」 と言います。今回は、装丁が好き過ぎて本を 「 ジャケ買い 」 するという、有隣堂の書籍バイヤー石田貴子が初登場! 石田イチオシの 「 スゴイ装丁の本 」 をご紹介します。
刊行から11年の月日が流れましたが、こうして改めて 『 胞子文学名作選 』 にスポットが当てられ、多くの皆さんの注目を集めたことは製作チームの一員として大変うれしい出来事です。そして、「 十余年経過してなお 愛される、注目される本 」 の製作・加工のお仕事に関わることができたことは本当に光栄だなと 有隣堂の YouTube 動画 を見ながら実感が湧いたのでした。
◉ 『 胞子文学名作選 』 とは?
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そこから見えるのは箔押し部分
『 胞子文学名作選 』 は、2010年に出版社 港の人より部数限定で刊行し完売となった 『 きのこ文学名作選 』( 飯沢耕太郎編 )の姉妹編です。
『 胞子文学名作選 』の編者は岡山県倉敷市にある 古本屋 「 蟲文庫 」 店主 田中美穂さんです。ブックデザインは、吉岡秀典さん( セプテンバーカウボーイ )。コスモテックは 2013年、ブックデザイナーの吉岡さんからお声がけいただき、表紙の箔押し加工をお手伝いさせていただいたのでした。
下記は 『 胞子文学名作選 』 の出版社 港の人より
苔、羊歯、茸、黴、麹、海藻……。
町の片隅、山の奥や海の底にひっそりと息づき、鮮やかな花や大きな木々のように人間たちに注目されることもなく、ときには敬遠されがちな、これらの生物たちもまた、命の営みを日々活発に行ない、私たちの暮らしや環境を支えてくれる大切な存在です。
本書は、これらの生物が登場する小説や詩を集めたアンソロジー。
ふだん見落とされがちな、自然界の密やかな存在に目を向けた諸作品を 「 胞子文学 」 と名づけ、文学の新しい楽しみ方を発見します。
◉ 表紙の箔押しについて 「 実は通常の箔押しじゃない! 」
下記は コスモテックのブログ 記事( 2013年10月 )に加筆・修正したものです。
『 胞子文学名作選 』 の表紙の箔押しの技法が出版流通の書籍、ブックデザインで使われたのは今回初かもしれません。 箔で、しゅわしゅわ の菌糸の世界を作り出しております。 「 書籍をお手に取っていただいた方、箔押しされた部分が しゅわしゅわ しているのに気づきましたか? 」
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「 箔がしゅわしゅわしている? 」 ことを発見できるはず
「 え? 普通の箔押しではない? 」
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さらに、箔押し加工時の圧を強圧にすることで、箔押しした部分は凹み、箔押し以外の紙の地の部分がモコモコっと盛り上がって見える仕様。表紙で使用している紙がキャストコート系の用紙で、箔部分は しゅわ! 紙地がモコっ! そして、キャストコートの つるっと...
もう、なんだかすごいことになってしまっているわけです。
表紙を箔の色違いで2パターン作成( 中身 / 本文等は同じものです )
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茶色のカバーを外すとご覧のとおり!
使用した箔は、通常バージョンがプラチナ箔。
限定バージョンの方は 「 グリーンレイク 」 です。
・ コスモテックの十八番 『 つばめ返し 』
両方とも鏡面で つるっとしたツヤのある箔なのですが、「 箔部分が しゅわしゅわ の 菌糸のような表現になっているから不思議! 」 この部分に気づいたあなたはかなりマニアックかもしれません...。
実は箔押しは2工程を踏んで加工に挑んでおります。
1工程目で箔押し、2工程目で表面がざらざらの特徴的な和紙を使用し、1工程目で使用した金属版をそのまま使用し型押し加工。その和紙のテクスチャーを箔の つるつるの表面に反映させ、しゅわしゅわ の箔表現を生み出しているのです( コスモテックはこの技法を 『 つばめ返し 』 と名づけています )
箔色選びの舞台裏を少し書かせていただくと、校正の段階で15種類くらいの箔パターンを吉岡さん( セプテンバーカウボーイ )に提出しました。
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クラシキイショウケイカクシツの紙モノカタログ5 「 本が好き 」 特集 に掲載
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『 胞子文学名作選 』 について( 文・田中美穂 )が掲載されている
吉岡さんは、このさまざまな色の箔校正の中から精鋭中の精鋭の胞子( 色 )を選ぶ作業に数日を費やしたそうです。 実際にカバー( 茶色 )を巻いてはその前を通り過ぎつつ、チラっと見る、表紙の箔の色をチェンジして また通り過ぎつつチラリ、の繰り返しで何度も何度もアプローチしたそうです。
・ え!? 実験が採用!?
そして、土曜日のお昼頃だったでしょうか...
私の携帯に吉岡さんから着信があり、 「 実験的に作ったサンプルの表現が一番しっくりくる! 」 とのご連絡が。 実験的に作ったサンプルの表現... というのは 『 箔の菌糸表現 』( コスモテックの 『 つばめ返し 』 仕様 )のこと。
実は今だから明かせますが、箔のサンプルを提出する際、コスモテックの箔押しの匠( 佐藤 )と遊び半分で勝手に実験したサンプルを、参考までにと ご依頼を受けた校正箔のパターンに添えておいたものだったのです。
「 つるつる のキャストコートに、しゅわしゅわ の箔って、なんだか紙に菌糸がくっついているみたいじゃないですか? 」 といったノリで作ったものが、まさかまさかの採用になるとは…。
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通常バージョンと同様に箔の しゅわしゅわ感が見てとれる
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下 通常バージョン | 上 限定300冊の苔( こけ )バージョン
また、300冊の限定版に使用された箔 「 グリーンレイク 」 採用の裏にも、吉岡さんとコスモテック間での箔押し校正のやりとりがきっかけになっている部分があるそうです。
吉岡さん 「 通常版の しゅわしゅわは 神々しいっっっ! 限定版の しゅわしゅわは 文学っぽいでしょっっ? 」
◉ 私にとって大切な本であり、時間
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コスモテックの箔押しの現場にて加工立ち会い
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2013年 『 胞子文学名作選 』 に携わらせていただいた出来事は今も私の中にある大切な経験であり、時間です。
セプテンバーカウボーイの吉岡さんから難易度の高い箔押し加工をお任せいただいたこと、そして今は天国にいる箔押しの匠 佐藤と共に遊び半分で校正に忍び込ませていた 『 つばめ返し 』 の箔表現が採用となり、出版流通の本の表紙を飾らせていただいたことなど…
有隣堂の YouTube 動画 『 本の装丁の世界~有隣堂しか知らない世界279~ 』 を視聴した時、製作時の光景や思いが ぐわっと目の前に蘇ってきました。 当時は目の前にあるものをしっかりと形づくることに必死で、今改めて振り返ってみると 「 やはり、ものづくりの仕事っていいな 」 ということに気づかされます。
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写真からも圧によって もこもこした雰囲気が伝わってくる
吉岡さんにお声がけいただかなければ、そして、箔押しの匠( 佐藤 )と私とで加工に仕事に真剣に向き合いつつ、良い意味での遊び心がなければ、「 きっと生み出されなかった箔表現なのでは? 」 と思うと、ぐっと込み上げるものがあります。
いろいろなご縁から仕事につながり、加工の現場や仕事内で 「 うう… 本当に難しい加工! では、こうしてトライしてみようか!? 」 と悩みながら解決策やさまざまなアプローチ方法を考え、「 これならどうだ!? 」 とプラスに考えて勇気ある一歩を踏み出してみることなど、『 胞子文学名作選 』 製作の裏側で得た体験は私にとって とても大きいです。
校正でやっとOKをいただき、量産の箔押し加工の際、吉岡さんはお忙しい中お時間を調整して、コスモテックの箔押しの現場で加工に立ち会って下さいました。そして、それに応えるように加工に挑む箔押しの匠( 佐藤 )。
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予想もしなかった 『 つばめ返し 』 が採用され 加工に挑む姿は真剣そのもの
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一体どこまでいってしまうのか…( 箔押しの押し圧加減 )
セプテンバーカウボーイの吉岡さんと箔押しの匠 佐藤
吉岡さん 「 もう気持ち圧を強めに。もうひと越えを! 」
箔押しの匠 「 このくらいかなぁ。いかがでしょうか? 」
目をつぶると蘇ってくるのは、ごくありふれた日常の加工立ち会いのワンシーンなのですが、私の記憶にしっかり残る 『 胞子文学名作選 』 の製作・加工の光景なのです。
吉岡さん、編者の田中さん、港の人さま、お手伝いをさせていただき改めてありがとうございました。そして、有隣堂さま 当時を思い出させていただく機会を与えてくださり、ありがとうございました!
【 連絡先 】
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