映画「ハリーポッター」:純血主義の深層考察 ~ファンタジーとリアルの境界⑦
ハリーポッターとファンタスティックビーストのシリーズには、魔法族の純血主義という物語のテーマがあります。魔法系のファンタジーは数あれど、こうした重いテーマを採用している作者の意図を探ってみるのもおもしろいので、掘り下げてみたいと思います。
純血主義の背景と理由
ホグワーツ魔法学校の4つの寮の一つ、スリザリン寮は、その創設者であるサラザール・スリザリンの思想を受け継いでいます。スリザリンは、魔力を保持するためには純血の魔法族同士で結婚し、魔法の血筋を守るべきだと考えていました。彼は、魔法の力が薄れることを恐れ、純血の魔法族だけがホグワーツで学ぶべきだと主張しました。この思想は、スリザリン寮の生徒たちに深く根付いており、彼らの行動や価値観に大きな影響を与えています。
ヴォルデモートの秘密
ヴォルデモート(本名:トム・マールヴォロ・リドル)は、スリザリン寮の出身で、サラザール・スリザリンの直系の子孫とされています。ヴォルデモート自身はハーフブラッド(半純血)でしたが、それを隠しつつ、純血主義を徹底的に推し進め、これを自らのイデオロギーとして利用しました。トム・リドルは自分の出生や名前を嫌い、「ヴォルデモート卿(I am Lord Voldemort)」というアナグラム名を名乗り始めます。フランス語で「死からの逃走」(vol de mort)を意味し、彼の不死への異常な執着を表しています。
アナグラムや謎かけの起源は、古代の神話や神秘的な伝統にまでさかのぼります。歴史上最初に記録されたのは「スフィンクスの謎」であり、アナグラムには、人の運命を予言する秘密が含まれていると信じられていました。
日本の古神道にも同様の信仰があります。特に赤ちゃんの命名に関しては、生命力を与える言霊と深く関わりがあり、慎重に名を付けます。現代のキラキラネームは、この伝統からは大きく逸脱しており、言霊の視点から考えると違和感を覚えます。
名前を言ってはいけない人
ヴォルデモートは「名前を言ってはいけない人」として魔法界で恐れられ、タブー視されています。これは言葉に大きな力があるという古代からの信念に基づいています。中世ヨーロッパでは、「悪魔の名を口にすると、悪魔を召喚してしまう」という迷信がありました。ヴォルデモートの名前を言わないことも、彼の神格化と畏怖の象徴です。しかし、ダンブルドアとハリーはヴォルデモートを恐れないことの表れとして、彼の名前をあえて口にします。
純血主義の矛盾
ヴォルデモートが行った分霊箱(ホークラックス)の作成は非常に高度な闇の魔法でしたが、ハーフブラッドである彼がそれを成し遂げたということは、純血主義の矛盾を浮き彫りにしています。
また、ハーマイオニーのようなマグル出身の魔法使いが非常に優れた魔力を持つ一方で、純血の魔法族であっても魔力が覚醒しない者もいます。このように、純血主義が魔力の強さと直接結びついているわけではないことが明らかになり、物語に深みを与えています。
皇統の純血主義
日本において、皇統が純血主義を重視してきた歴史があり、私たちには比較的理解しやすい概念かもしれません。伝統的に天皇は国家の呪術的な役割を果たしてきましたが、近親交配をしてまでも純血を保つことには重要な理由があるのです。例えば、天皇しか行えない国家的な呪術的儀式があります。西洋でも、ユダヤ教のレビ族のみが行なうカバラの魔術や儀式が厳格に定められており、神が認めた遺伝子を持つものにしか行えないということで共通しています。なんといっても闇深い世界ですし、これが末世の混乱の因になったといっても過言ではありません。
※預言書「日月神示」に純血主義についての帖文があるので、参考までに引用します。
まとめ
スリザリンの純血主義には、魔法の力を発動する遺伝子を守るという一見納得できる理由があります。その一方で、スリザリンの思想が差別や排除の根拠として利用されました。
ヴォルデモートは、自身がハーフブラッドでありながら、純血主義を権力維持のイデオロギーとして巧みに利用し、魔法界を分断し、恐怖支配によって多くの魔法使いを従えました。彼の成功の背景には、魔女狩りや異端審問といった歴史的な迫害により、マグル(人間)に対する不信感が根強く残っていたことが考えられます。
日本には魔女狩りの歴史がないため、魔法族が持つトラウマまで想像しにくいかもしれません。しかし、このような背景を考慮すると、物語全体がより深深いものに感じられ、登場人物たちの行動や思想に隠された複雑な動機が浮かび上がってきます。物語を通じて、私たちは偏見や恐怖がどのように利用され、イデオロギー操作されるのかも考えさせられます。
ファンタジーとリアルの境界、みなさんはどんなふうにご覧になったでしょうか。民族間の混血が進んだイギリスで、純血主義をファンタジーの要素として取り込んだことは、とても興味深く感じます。分霊箱もユニークですが、それはまたの機会に。
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