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料理の想像力
一人暮らし1日目の初めての夕食というのは鮮明に覚えていて、その日駅の書店で「かんたん一人暮らしレシピ」みたいな本を適当に買って、その足でスーパーに寄って調味料一式と食材を買い揃え、鯖の味噌煮と、豆腐と油揚げの味噌汁を作って食べたのでした。若き18の、暖かい春のこと。
その年の正月に帰省してその話をすると、よほど珍しいと思ったのか親戚の伯母さんに大笑いされて戸惑ったことまでセットで覚えている。別に感心されるとか褒められるとか思っていた訳ではないけど、戸惑ったというのは、僕にとって一人暮らしとは衣食住すなわち洗濯・炊事・掃除を自分の手できちんとすることだと信じ込んでいて(もちろん今でも生活とはそういうものだと思ってるけど)、鯖の味噌煮とはその中の料理というものの一つの象徴だったからだ。料理をすることがなぜ可笑しい??(…もちろんいま思えば彼女は単純に鯖の味噌煮というチョイスが面白かったのだと思う。僕だって改めて考えると、なぜ鯖の味噌煮が象徴になっていたのか今をもって謎なのだから。)
料理という営みがどうやら性質に合っていたらしく、僕は最初に買ったその本で基礎的な技術とレシピを身に着け、一通り制覇したあとは、味の素レシピ大百科のような(一般ユーザーのレシピ投稿サイトではないという意味で)正統的なレシピを見て幅を広げ、習得していった。
包丁の入れ方や火の通し方、調味料の入れる順番で味が大きく変わることを知り、ブロッコリーをお湯に入れたときの鮮やかな緑に変わる瞬間の美しさや、煮詰めた角煮に照りが出る瞬間の音と香りを知った。
そうやって吸収してきたレシピの中に、小説の一節を読んだだけで完全に覚えてしまったものがあるので、紹介します。僕は一回これを読んだだけですっかり脳内でイメージできてしまって、何も見ずとも作れるようになってしまいました。
お兄ちゃんはまずにんにくの皮をむいて潰して鷹の爪の種を抜いて刻んで冷凍してあったベーコン取り出してラップとってナスを切って皿に載せてレンジに入れて玉ねぎの皮をむいてみじん切りにしてフライパンを火にかけてオリーブオイルたっぷり引いて熱くならないうちににんにくを放り込む。それから鷹の爪とベーコンと玉ねぎを放り込んで炒めてレンジから柔らかくなったナスを取り出してそれも炒めて最後に缶詰のホールトマトを潰して混ぜて、塩コショウコンソメにちょっと醤油をたらし、砂糖を加えて味にまとまりをつける。それから火を消してそのソースを冷ます。冷ましている間に水を火にかけて沸騰したらそこにパスタを入れて茹でる。パスタが茹であがりそうになったらもう一度ソースを火にかけて、熱さを取り戻したソースに茹でたてのパスタをお湯から上げて混ぜ込む。で出来上がり。
ソファの上で寝転んだまんまの私はオリーブオイルが温まる匂いとそこに放り込まれたにんにくが炒められて放つ香ばしい匂いと、具の放り込まれたソースがいったん冷やされる間にトマトソースっぽい風味が緩やかに全体に浸透する匂いをゆっくりと嗅ぐ。やべーマジで美味そうだ。
今だとレシピ動画サイトなんかが主流だけど、こういう頭の中で作れちゃう想像力を掻き立てる文章が好きなのです。だから檀一雄の『檀流クッキング』とか小泉武夫センセイの文章とかも好き。(オススメあったら教えてください。ちなみに、上で引用した『阿修羅ガール』自体はイマイチなので薦めません。。)
ということで、流れ的にはもう完全に蛇足だけど、上のレシピを(若干アレンジしつつ)写真でお送りします。
ナスと鶏肉のトマトソースパスタ
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もちろん、具を変えれば自由自在にアレンジできます。しめじはもちろんマッシュルームでもエリンギでも舞茸でも良いし、
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ナスはズッキーニに代えても。あるいはパプリカを加えても美味しいです。
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めちゃ簡単です。それではまた。