Roasting Training Report_vol.1
はじめに
今回は私自身がどのようにしてコーヒーの焙煎を習得し、スキルを磨いているのか、その一部についてご紹介できればと思います。そもそも、私自身コーヒーは元来好きであったものの、自ら焙煎することを試みたのはここ最近のことですので、コーヒーそのものの扱い方や焙煎をいちから学んだプロセスについて一部ご紹介できればと思います。特に、自学だけでなく海外に本店を構えるスペシャルティコーヒー専門店で焙煎の座学と実践の経験を積んでもいるので、そこで学んだことをお話ししたいと思います。(本記事はかなり専門的な内容になります)
焙煎レシピの開発プロセス
まず、前提として一般消費者にとって焙煎店の焙煎プロセスはブラックボックス化している傾向があるので、知ろうという意思がない限り基本的にはわからずじまいです。(し、店側もあからさまにはオープンにしていないので、知る機会がなかなかないです)私自身は別の記事で記載した通り、もともとは会社勤めをしており、コーヒー焙煎自体全く実施したことがなかったので、知識ゼロからのスタートでした。当たり前ですが、知識ゼロの領域ではまず圧倒的な情報のインプットが必要です。これは自分の中でのルーティーンでもあるのですが、知識ゼロの領域で戦うためにはまずその仕組みを明らかにする必要があるので、幅広い文献から調査をしていきます。ちなみに、今回の場合の"仕組み"とは、焙煎豆の味が何で構成されているのか?を指します。私は、お客様(自分も含め)が好きそうな味を開発するため、まずはそれを形作る"パーツ"を理解し、次にその"組み合わせパターン"を試行錯誤してレシピとして開発しようとしていたわけです。
研究と実践を通じたスキルアップ
当然、たとえ大量のインプットをしてもそれを実践しなければ何の成果にもなりません。ある程度知識を習得したら、焙煎機を活用しながら余熱温度(Charging Tempreture)・火力(Heating Power)・排気量(Air Exhausting)・ドラム回転数(Drum Rotation)を調整しながら試行錯誤していくのですが、この過程での学びがレシピ開発に繋がっていく、という感覚をもっていただけたらと思います。私の場合は、書籍を一通り読むことと実践を続けることで焙煎理論をほぼ頭に叩き込んだ状態で、スペシャルティコーヒー専門店に修行に行きました。段階としては基本的な用語は勿論、温度変化のプロセスやその違いによる風味の差の出方等、変数とその調整方法を一定程度理解したうえで臨みました。焙煎士(かつバリスタでもある)の道が長いプロからの教えに期待していたことは、主に三つありました。①私自身が実践している焙煎理論の裏付けを取ること②一般的なスペシャルティコーヒー専門店の焙煎方法を学ぶこと③自分がコーヒーのことを学んだりアップデートしたりする拠点を作ることでした。教えてくださる指導者の方が外国人であったこともあり、お店のテスト焙煎機を用いながら英語で指導を受けました。(ちなみに日本人のトレイニーは私が初めてとのことでした)
トレーニングの内容
私の場合は、基礎的な知識と理論は頭に入っていたので、座学では基本的なことをサクッとおさらいして実践の時間を多めに取っていただきました。やることは単純で、焙煎を繰り返しながら少しずつ修正を重ねて目指す焙煎度に近づけていくのみです。目指すべき焙煎度は、あらかじめアグトロン値によって定められており、そこに向かって全マニュアル型の焙煎機を使って試行錯誤していきます。ちなみに、アグトロン値とはコーヒー豆の色の濃さを図る値(値が高いほど浅煎りに近く低いほど深煎りに近い)で、豆と粉の両方での状態でそれぞれ計測します。目指していた値は、豆で60かつ粉で70といった具合でした。(正確には忘れてしまいましたが、±2くらいずれても大丈夫だったと思います)マスターいわく、"Color is the most objective way to understand the roasted beans. We cannot judge objectively by the smell or taste because it is not good for the discussion."とのことで、アグトロン値以外での焙煎度判断は人の主観が混ざるので議論に適さないとコメントしていました。また、焙煎機のコントロールを効かせるためには、キャパシティの40~50%程度が適切とのことで、今回の実践では1バッチ毎に150gの豆を使って焙煎していきます。
機械への適応とコントロール
当然、お店の機械は自分が普段使用するものとは違い、かつ全てマニュアル焙煎なので適応するまでに2バッチほど試行しました。焙煎前に理解していたことは、今回目指すアグトロン値で仕上げるために2ハゼ前に焙煎を完了させる必要がありそう、ということくらいでした。最初のバッチでは、標準的な焙煎を目指し、予熱温度=130度、Turning point=90度、10分弱で180~190度に達して1ハゼ目というプロファイルを目指しました。排気は中程度で終始一定に保ち、Turning pointまでを60%程度の火力で加熱、その後徐々に火力を95%程度まで強め、豆温度が150~160度でYellowingが始まったタイミングから85%程度にキープする、というプランニングをしてから焙煎してみました。すると、Turning pointでは80度まで下がってしまったうえ、計画した火力ではRoR(温度上昇/分)が7~10度程度しか出せず180度に到達するまでに予定より長く3分ほど長く11分程度を要してしまいました。焙煎時間はすでに大分長かったのですが、一応今回は2ハゼ前の"ミディアムロースト"と"ハイロースト"の間の焙煎度を目指すという観点から、1ハゼ後に少し火力を落として1分ほど焙煎を続けた後に煎り止めました。すると、豆の外見は狙い通り中煎りらしくなったのですが、粉に挽くとやや煎り過ぎ感のある焙煎度となりました。(テストなのでアグトロン値は未計測)ここからわかったことは、「表面の焼き具合はあまり変えず、内側の焙煎進行を手前で止めねばならない」ということでした。そのためには、じっくり豆の内側に熱を入れるのではなく、高温かつ短時間でぐっと入れる必要があります。それを踏まえ、2バッチ目ではより短時間高温焙煎を目指して臨み、予熱温度・火力・排気をそれぞれ想定通り調節しつつ完了できたので、焙煎機の大まかなの傾向と設定すべきプロファイルを理解できました。(ちなみに、2バッチ目は極端に高温短時間に振ったため、5分50秒で1ハゼを迎えると同時に、割と早めに煎り止めたため、豆状態でのアグトロン値69を出してしまいグラッシーな焙煎豆を生成してしまいました)
狙った焙煎度の実現
機械の特徴をつかんだうえで、次の3バッチ目の焙煎を終えてみると豆状態でのアグトロン値は59とほぼ完璧に仕上げることができたものの、豆を挽いてみると66で依然としてやや煎り過ぎ感がある結果が出ました。すでに予熱温度を185度まで引き上げ火力も開始から一貫して100%で加熱を続けていたので、さらに豆の内側と外側のアグトロン値に差を付けていく場合、予熱をさらに上げるか排気を減らす調整するほかありません。4回目以降のバッチでその二つの変数を調整し目標のアグトロン値を狙い、とうとう5回目で狙った値を叩き出すことができました。予熱温度は215度に設定したうえで、水分が籠らないようにTurning pointまでの排気量は少し多めにしつつその後は熱を逃がさないために排気量を減らしたり、Developmentが進み過ぎないように1ハゼの後の火力を引き下げ排気量を増やしたりなど多少の微調整を入れました。こうして、1ハゼまでの加熱プロセスと1ハゼ後の微調整を細かく実施することで、狙った焙煎度を出すことができました。
トレーニング(vol.1)での学び
学びとして、狙い通りの最高においしいコーヒー豆を提供し続けるためには、以下の三要素が大事であることを改めて認識しました。①豆ごとに最適な焙煎度をある程度把握しておく必要がある②その最適な焙煎度に於けるアグトロン値を把握しておく必要がある③狙った焙煎度に近づけていく焙煎技術を身に着ける必要がある、簡単そうにみえて割と難しいです。①は所謂カッピングの技術も含め、コーヒーを見て味わう審美眼であり、②はその豆自体を主観を除いて理解するための客観的視点であり、③は焙煎経験と論理的思考力が求められます。私自身はまだまだ研鑽中ですが、最高の味を提供し続けられるよう、毎日精進していきます。(きちんとしたアグトロンスケールを買わねば、と思っておりますが、高い・・・。)ちなみに、これは豆知識ですがアグトロン値が全く同じ焙煎豆で見た目が同じであっても味はことなるという現象はしばしば起こります。これは主に辿った温度曲線の傾きやトータルの焙煎時間の差によるものですが、詳しくはまた改めて解説していきたいと思います。