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【コーミンで働くひとインタビュー③】地域包括支援センターの作業療法士

―――美野さん(仮名)は、コーミンが運営する大東市地域包括支援センターで作業療法士をされておられます。

はい。おもに身体障害、精神障害、老年期障害、発達障害にまつわるリハビリテーションを担当するのが作業療法士ですが、今は、オレンジ倶楽部など、特に認知症の方のケアに関わらせてもらってます。

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―――お仕事で心がけておられることは、何ですか?

関わらせてもらう方と同じ目線で寄り添わせてもらうことですかね。「この人は自分のことをわかってくれそうな人や」と思ってもらうこと。いつも相手の立場で考えたいと思っています。リハビリは「やりたいけれどやれないこと」を「なんでやれないのか?」を一緒に考えて「やれるようになるにはこうしよう」というプランを立ててやっていく、という仕事です。なので、利用者さんができるようになった時は、自分ゴトのように嬉しいですし、それがやりがいですね。

先日も、担当させてもらってる方の奥様からお電話をもらったんです。旦那様は障害があって、ずっとご自宅にひきこもり気味になられてたんですが、定期的にご相談に乗らせてもらっていたところ「さっき、お父さんが近所の郵便局まで行って帰ってきた!」って。とても奥様うれしそうに「ありがとう!」って電話口で。そういう場面にかかわれると感動します。

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―――大東市地域包括支援センターに入られた、きっかけは?

ずっと東大阪市にある精神科の病院で、認知症によって入院された方のリハビリをやらせてもらってました。認知症で入院されるというのは、重度に認知症が進んだ方がほとんどでして。認知症というのは今のところ『基本的には治らない』とされていて。で、重度になってしまった方のリハビリには限界があるなぁ…と、前々から感じていたんです。そして、重度になられた方の家族さんもかなり疲弊されてるんです。例えば、ご本人が「家に電話かけたい」とおっしゃるんですが、家族の方は「かけさせないでほしい」と。やっぱり、そこまで疲れて追い込まれてしまうんです。そんな時「ここまでになるまでに、なんとかならんかったのかな」と思うこともあったんです。

ちょうど1年前に、コーミンの地域包括支援センター職員の募集を見て、地域で暮らしておられる認知症の方に関われることを知りました。認知症であっても、早い段階で関わることができれば、その方のその後の人生がもう少しいい方向に持っていけるのではないだろうか…と思い、そういうところに携わりたいと応募しました。そして私自身も、もっと勉強させてもらえるとも思えましたし。

―――素人で恐縮なんですが、やはり、早い段階でなんらか手を打てば、改善できたりするんですか?

お薬もあるんですが、お薬というのは飲み始めた時の状態をかろうじてキープできるぐらいのもので。できるだけ早い段階で「今ある能力を長持ちさせる」ケアをするほうがいいと言われています。それが、いま所属している大東市地域包括支援センターの「認知症初期集中支援チーム」のミッションのひとつです。

―――具体的には?

「あの人、なんか最近様子がおかしいよね。認知症じゃないかな」というような、近所の方などからのご連絡をもらったら駆けつけて、お話を聞いて、適切なケアや病院、介護サービス等をご紹介させていただいてます。

―――早めに発見・対応するために取り組まれていることはありますか?

周囲の方に早めに気づいてもらうためには、それなりの視点が必要なので、認知症にまつわる知識をご近所さんとかに持っていただけるように『認知症サポーター養成講座』を地域で開かせてもらってます。認知症ってこういう病気ですよ、とか、認知症の方はこんなふうに接してあげると安心されますよ、とか、お近くにいらっしゃったら、ここにご連絡ください、とかお伝えしています。

今後は、例えば、小学校の子どもたちに対して講座を開きたいと思ってます。認知症ってこういう病気なんだよ、おじいちゃんやおばあちゃんとこういうふうに接したら安心されるよ、とか、そういうことを伝えられたらなと思っています。

―――核家族が増えて、子どもたちもお年寄りと関わる機会が減ってますもんね。

そうですね。地域の路上とかで困ってるお年寄りがいたら、子どもたちでも声をかけやすくなるといいですね。

―――私は曾祖母が認知症になった姿を家庭内で見てたので、心構えはできてるほうかもしれません。

まったく何も知らない状態でそうなるより、やっぱりある程度の知識や経験があるのとでは、いざという時に違うと思うので、事前に知識をお伝えする活動をしています。

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―――認知症カフェ「オレンジ倶楽部」の取り組みについても、教えていただけますか?

もともとはヨーロッパが発祥のもので、今は日本全国でやられてる取り組みです。自分の家族が認知症になってしまったご家族さん同士が集まって仲間づくりをする場所です。ご本人はもちろんですが、ご家族さんも何も情報が無いなかで大きな不安を抱えていらっしゃって「この先どうしていったらいいんだろう」という状態です。なので、当事者同士で交流したり、経験者さんをお呼びしたりもして「今こういう状態なんやね。じゃあ、そういう時はこうしたらいいよ」というアドバイスをもらったりしています。経験者からのアドバイスや同じような境遇の人がいると思えるのは、大きな安心につながります。

会場もさまざまで、喫茶店や銀行のスペースをお借りしてたり、コーミンがあるアクティブスクウェアでもやってますよ。「ここに来ればわかってくれる人がいる」と思える場所として、もっと大東市内で増やしていきたいです。

―――大阪市立大学とIoTを活用した取り組みもおこなわれていますね?

はい、大阪市立大学と大東市が包括連携協定を結んでるんです。まだ流動的なんですが、独居の高齢者さんのおうちに、IoTを使って生活や精神状況がどうかわっていくかをみたり、ひとり暮らしが出来る要素を調べて指標のようなものをつくるという研究をして、研究成果を2025年の大阪万博で発表できれば…なんて話もあったりします。このような研究に関われるのは、コーミンの職員である魅力のひとつだと思っています。

―――いつも高齢者にまつわる先進的な取り組みを大東市さんはされていますね。

こういう取り組みって我々だけでどうかなるものではなくて、やはり地域の方々の御協力や主体性があってのことです。特に、大東元気でまっせ体操は住民主体でやっていただいていて、すごく意識が高いと思います。我々はサポートをやらせてもらっている中で、とてもそう思います。「あの人、最近体操来ないね。ちょっと様子を見に行こか」みたいな感じで、安否確認の場所としても体操グループが機能してるんです。

―――もともとそういう地域文化があったんでしょうか?

健康寿命をのばそう、自分のやりたいことをいつまでもイキイキと続けられるようになろう、ということで大東市が推進してきた大東元気出まっせ体操。15年前からやってますから、地域に根付いてきたと言えるのかもしれませんね。全国的に見ても際立った効果が出ていて、厚生労働省から「地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防の取組事例」として紹介されていて、他市からの視察も多いです。

―――体操会場、多いですね。

どこの地区に住んでおられる方でも徒歩10分以内で体操会場に行ける体制にしようと、今も会場をどんどん増やしています。我々が自転車で街を回り「ここがいいね」って思う場所を探してます。お寺とか、車のディーラーさんの敷地とか。飛び込みで「ご協力いただけませんか?」って交渉しています。

―――まさに飛び込み営業(笑)

会場が決まったら、そのエリアの方を対象に「介護予防相談会」というイベントを開催して、ご自分の今の体力を知ってもらいながら、健康寿命についての知識も得ていただいて、体操参加をおすすめする、という流れです。あと、重要なのが、住民主体ということですので、参加者の方々で役割をもってもらい自主運営していただいています。現在、大東市内で125グループぐらいあります。

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―――休日はどんなふうに過ごされてますか?

3人の子どもの習い事が詰まっていて(笑)、ピアノとかサッカーとか英語とかの送り迎えをしてますね。あと、大学院でリハビリに関する研究をやってます。なかなか進んでないんですが、主に日曜日にゼミに参加したり、子どもが寝た後に勉強したり…ですね。

―――オフの時間もリハビリ研究を。どんなテーマですか?

重度の認知症の方に対する「ドールセラピー」の研究です。いま唯一「音楽療法」だけが重度認知症の方に効果があるとされてるんですが、音楽以外の手立てがないものか…と思ったんです。やわらかくて、それなりに重さもあるドールセラピー用の「たあたん」という赤ちゃん人形を抱っこすることで、ご様子がどう変わるかを調べています。ムスッとしてた男性の方でも、その人形を抱くと急に笑顔になったりするんです。

―――子守り等、高齢な方にも役割を持ってもらうことは大切なんですね?

はい。それによって「自信を回復してもらう」というのは、精神的にとてもいいことです。かつて農業をやってた方が、若者に田植えを教える立場になった途端に、イキイキとされたりとか。

―――ちょっと前に話題になった“注文を忘れるレストラン”という取り組みも同じですね。

私も子どもを連れて行きましたが、とても素晴らしいプロジェクトでした。ふだんは車いすを使用しているおばあちゃんがシャンとされてるんですよ。はつらつとレストランの店員役をやられてて、子どもたちにも「おいしいよ、しっかり食べてね」って声をかけてくれたり。おっしゃる通り、あれもご本人の自信回復につながる仕掛けですね。「認知症になったけれど輝ける場所」を大東市にもつくりたいな…と思っています。

nukui山中さん

インタビュー③おわり/インタビュー④につづく


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