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【アゼルバイジャン暮らしの日記】冬ごもりの一日。
2024年1月5日
「なんだか喉が痛いな」起きぬけに夫はそう言って、少しだるそうな様子。秘蔵のパブロンを飲んで、のそのそとまたベッドに戻っていった。少しして、寝室を覗くと、すやすやと寝息が聞こえる。体調が悪い時、彼はよく眠る。やはり風邪なのだろう。
だから朝食はスウプにした。キャベツやニンジンやポロ葱なんかをくたくたに煮込んで、少しだけトマトを。茅乃舎の野菜だし(とてもお気に入り)と一緒に煮る。使うのはル・クルーゼの黒い鉄の鍋で、これはウズベキスタンに住んでいるときに、デンマークから通販でわざわざ取り寄せたもの。もうかれこれ15年以上の愛用している、本当に良いお鍋。蓋をぴっちりと閉めて、少なめのお水で蒸すみたいにして煮込む。最後に、ジョージアで買ってきた美味しいソーセージを加えて少し蒸して、できあがり。味はシンプルに塩と胡椒のみ。バジルのソースや、パルミジャーノなんかを足してもいいね、きっと。市場が開いたら、バジルを買いに行こう。
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冬のキャベツはかっちかちなので、スウプなどの煮込み料理にする。ロシア人の友人たちに習ったボルシ(ボルシチ)も作ろうかな。ビーツもたくさん入れて。旧ソ連の一員であったアゼルバイジャンでも、ボルシは定番の料理で、食堂的な店では大鍋に煮込まれて、いつも温かな湯気を上げている。かっちかちのキャベツは、日本みたいにざく切りにはできなくて、ナイフで薄くそぎ切りのようにする。と言っても、ボルシというのは家庭料理なので、その野菜の切り方一つをとっても様々で、レシピはその家によって実に多様で、だいたいみんなそのレシピには一家言ある。なので主婦が数人集まってボルシづくりをしようとすると、喧々諤々の諍いになる不穏な料理だ。特にトマトを入れるか入れないかは、ウクライナ対ロシア間の永遠の命題で、私は常に、日和見的に中立の立場を保っている。先日、アゼルバイジャンの友人が、「アゼルバイジャンは牛肉が美味しいのでアゼルのボルシが一番美味しい」という新主張を繰り出したので、私は曖昧に微笑んでおいた。ぽってりとスメタナ(サワークリーム)をのせて、それを溶かしながら匙で口に運ぶ、その幸福。
いずれにせよ、ボルシはたっぷり仕込むのが基本で、少量作っても美味しくない。台所に湯気の上がった温かなスウプの大鍋がかかっている姿は、なんとも安らかだ。ことことという音を聞きながら、編みものをしたり、書きものをしたりする、冬の午後は素敵。
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湯気はごちそうなので、冬になると私は蒸籠を引っ張り出してくる。小ぶりの三段のもので、オランダの中華街で購入した。野菜と肉を並べて蒸しものを作ったり、ごはんを温め直すときに、ちょこっとアクセントになるもの(梅干しとか、ケイパーとか、ドライトマトとか)をのせて一緒に蒸したり、なかなか楽しい。おかずを温め直すのも、めいめい小皿に取り分けてから蒸篭に入れて、ゆっくりと蒸す。昨晩は、お正月に作った豚の角煮の残りを、蒸籠で温めた。電子レンジよりもふっくらとして、芯まで熱々になる。湯気まで美味しい。
それから、新年の目標で、食生活に少し気を配ることにした。手始めに簡単にできることから、果物をたくさん食べるようにする。アゼルバイジャンのひとは、本当に果物をよく食べる。果物が豊かにたくさん実る土地柄というのもあるけれど、本当にみんな果物が好きだ。マーケットでもキロ単位で購入していく。日本の私は、果物は少しをデザートに食べるくらいで、毎日あんなにもりもり食べる習慣はないのだけれど、せっかくアゼルバイジャンにいるのだ、たくさん楽しみたい。冬の果物は、みかん、林檎、梨。それに秋の柿がまだ少し残っていて、南のランキャランで採れるキウィも美味しい。
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私は全部それを細かく切って混ぜ、フルーツサラダにする。と言っても本当にただ刻んで混ぜるだけなのだけれど、いろんな果物の風味が混ざってとても美味しい。仕上げにルビーみたいな柘榴のつぶつぶを少し足す。オランダの蚤の市で見つけた、お気に入りのアンティークのクリスタルのボウルに盛り付けて、ごきげん。
夕方、同じアパートの友達が明日フランスから帰ってくるので、暖房をつけておいてあげる(鍵を預かっているので)。長い年末年始のお休みも、もうすぐ終わり。