見出し画像

映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」~すべてはメタファーのように

私は人生で一度も鬼太郎をちゃんと通ったことがない(例外は朝ドラ「ゲゲゲの女房」)。なぜなら子どもの頃の私にとって「ゲゲゲの鬼太郎」は怖いアニメであり、そのころの私はとても怖がりだったからだ。
昨夏に公開されたこの映画もなかなか怖かったけれど、怖さ以上におもしろかった。

昭和31年、製薬会社が生み出す秘密の血液製剤の謎を追うため、会社の本拠地である山奥の村を訪ねる主人公、水木。世俗と隔絶されたその村で連続殺人事件が起こるという、「八つ墓村」を代表に本邦でおなじみの怪奇ミステリー的な展開だが、アニメでこういう雰囲気を見るのが懐かしくかえって新鮮だ。

この作品が卓抜しているのは、「怪異よりももっとおそろしいのは人間」という筋書きに、実際の戦争を紐づけていること。

野心あふれるサラリーマン、水木が帯びている影は、若き日に第二次世界大戦に従軍し玉砕に至るまでの戦闘を経験したことによるものだ。

水木がゲゲ郎と呼ぶもう一人の主人公は、着流しに長髪で茫洋とした青年だが、その正体は‥‥。

ゲゲ郎の同朋たちが、山奥の一族にどれほどおぞましい目に遭わされたか、そこに村人たちがどう加担したか、そのような村の中で若い女子や子どもたちにどんなしわ寄せがいくか、すべてかつての戦争で日本がおこなったことのメタファーとして読める。

日本は自国の歴史との向き合い方が半端だから、それらのメタファーに気づく人が多いわけではないだろう。けれど、人はこういった物語から、「歴史そして今まさに進行中の人間の残酷さをどう捉えたらよいか」、その認知の仕方を身に着けていくのだと思う。この世の多くの戦争や紛争、弾圧において、人間が繰り返してきた残酷さは似通っているものだからだ。

この作品を経て鬼太郎の誕生をどのようにとらえるか、いろんな人に聞いてみたい。

往年の鬼太郎ファンからの評価は分かれそうだが、少なくとも、悲惨な従軍経験をもちそれをマンガにも描いた水木しげるに顔向けができないような作品ではないはず。ゲゲ郎の軽みとつかみどころのなさが魅力的で、だからこそ切ない。

配信で見るとエンドロールが始まるやいなや「次におすすめの作品」が出てきたりするけど、ぜひ最後の最後まで見てください。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集