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私の窓からお行き
新年おめでとうございます。
日本では既に年が改まり、紅白での生B'z降臨に人々が熱狂している頃、こちらは時差の関係でまだ大晦日のスイスで、礼拝の奏楽のリハーサル中でした。
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ジルヴェスターの礼拝もまたクリスマス行事の一部をなしていて、この雰囲気が私は好きです。
礼拝に際して我々が演奏したバッハのカンタータのテクストは、一年の締め括りに来し方行く末に思いを巡らせる、というこの日の趣旨にまことに合ったものでした。
礼拝が済んだのが夜の9時半にかかろうかという頃で、そこから列車を乗り継いでバーゼルの自宅まで約2時間。
なんとか年の改まる前に帰宅することができ、家族と新年の瞬間を共に過ごすことが叶いました。
さて、年末に久しぶりにYouTubeチャンネルに演奏動画をアップしました。
今年の私の大きな目標としては、こちらのリュートをいよいよ本格出動させようと思っていて、いわばその決意表明でもあります。
例によっての一発録り!
作曲者はシェイクスピアらと同世代人の、トーマス・ロビンソンです。
曲のタイトルの『Goe from my Window』はいろいろな日本語訳がありますが、ここでは『私の窓からお行き』としておきます。最初の動詞の命令形を「Goe」という古い綴りにわざわざしたのは、1603年にロンドンで出版されたオリジナルの譜面にそう印刷されているからです。
(なので、Go from my Windowで検索しても、この動画はヒットしない確率が高いです!)
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ちなみに、ロビンソン「作曲」というのはやや語弊があり、このメロディ及び歌詞はブロードサイド・バラッドとして当時の英国の人々には広く膾炙(かいしゃ)したものでしたから、ロビンソン「編曲」とした方が親切でしょう。
この旋律の由来とか、歌詞の意味するところなどを深堀りするとそれはそれですごく面白いのですが、今回は割愛させていたくことにして…
せっかくですから、私がここ10年来、定期的に共演を重ねているジョエル・フレデリクセン氏のでお聴きください。
驚くほど印象が違うと思います。
話をリュートに戻すと、この楽器はこちらの記事で書いた通り、昨年の上半期にほんの偶然といって良いようなタイミングで、私のもとにやってきたのでした。
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何しろ前の持ち主が超大物、それにこれを使って既にに世に出た録音は軒並み名盤ばかり… となると、楽器を受け継いだほうとしてはなかなかプレッシャーがかかります。
「そんなのに負けてどうする!もう自分の楽器となったからには、自分の好きなようにやってやる!」
という思考には決してならないのが、私のチキンなメンタルとでも言いましょうか。
結局楽器を手にして半年近くが経って、少し弦のセッティングを替え、様々なピッチを試し、さらには練習の仕方そのものも変えたりして、冬を前にしてようやく楽器が自分の体に馴染んできました。
これまで私が弾いてきたリュートと比べて弦長が長く、ボディも大きいので、豊かな残響と低音の充実感は言うまでもありませんが、それに加えてこの名工(ポール・トムソン)のリュートのトレードマークと言える、高音域の抜けるような音通りの良さまで備えた素晴らしい楽器。
楽器によって教えられることがあるといいますが、本当にそうです。
これを使って今後開拓したいレパートリーは山ほどありますが、まだ焦らずに当面は、じっくり楽器の音を引き出していきたいと思います。
(既にこのリュートで収録済みで、そのうち出す動画もあるのでお楽しみに!)
先の『Goe from my Window』の演奏は、私のリュート・ライフに、文字通り新しい「窓」を開いてくれたこの楽器と、前の所有者への感謝の気持ちを示すものでもあります。
さて、当のナイジェル・ノース氏もこの曲を録音しているか、気になるところですよね…
実はそのものずばり『Go from my Window』というソロ・アルバムを出しているのです。2003年のリリースで、一部の曲にこの楽器も使用されているのですが、『Go from my Window』については私の演奏しているロビンソン版ではなく、エドワード・コラード及びジョン・ダウランドという、2人の有能なリュート奏者兼作曲家(この2人の組み合わせは因縁…)が収録されています。
より規模が大きいダウランド版をご紹介しましょう。
このアルバム全体が、リュート好きにはたまらないラインナップです。
ナイジェル氏は、録音の時々でこの楽器をセッティングを変えていて、これは高めのピッチを使用したときのもの。
私の演奏と聴き比べると、とても同じ楽器だとは思われないかもしれません。
それから20年以上経って、今や「ヴィンテージ・リュート」となって音色に深みと渋みが出た!と、言ってもらえれば譲られた側としてはありがたいですけども、中には私の演奏動画を見て「やっぱり元の持ち主の演奏の方が良い、こんな奴に売らずにずっと持っておくべきだったのに!」なんて感想を持たれる人もいないとは限りません。
そんな風に思っていても、どうかコメント欄には書かないで、ひっそり胸にしまっておいて下さいね。演奏者は意外と傷つきやすいですから….
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さて、そんな大先輩ナイジェル・ノース氏に、年も押し詰まった12月29日にオンラインでのロング・インタビューを行いました。
昨年2月にベルギーの新居を訪問した際に、将来的に日本のリュート愛好家の方々向けにインタビューさせてもらえないか打診したところ、なんとその場で快諾をいただいたのです。この度年末の忙しい時間をわざわざ割いていただいたことに感謝!
インタビューはQ&A形式で行いました。あらかじめ日本の方々から募ったナイジェル氏への質問に、私個人で気になる質問をプラスして、そのリストを前もって英訳してお渡ししたところ「とても独創的で面白い質問が多くて、答えるのが楽しみ!」との返信が。
そして、実際にはこちらが用意した質問全てについて丁寧に答えていただき、関連するエピソードその他、私たちが期待していたのを遥かに超えて、充実したコメントの数々を引き出すことができました。
インタビュー内容は、日本リュート協会の会報に近々掲載予定です。
締め切りまで、目下絶賛文字起こし中… 早くこれを皆さんの手に届けたくて仕方がありません!