調度品としてのリュート
私事ながら、先週に誕生日を迎えました。
で、柄にもなく(!)家族に所望して買ってもらったのがこちらの品。
なんと、スワロフスキー(Swarovski)の限定モデルの、クリスタル・リュートです!
スワロフスキーといえば、こちらの白鳥(Swan)の絵を含むロゴでお馴染みで、スイス国内でもよく見かけるブランドです。
↑ チューリヒにあるスワロフスキーの店舗。
クリスタル・ガラスを使った各種のアクセサリーやジュエリーで有名ですが、過去に楽器をかたどったものが販売されていたとは、最近まで全く知りませんでした。
↑ 某オークションに出ていた、クリスタル楽器セット(既に売却済み!)
我らが主役(?)のリュート、調べてみたところ、1990年代の始めから半ばにかけて販売されていたらしいです。実際に上のような公式の店舗に行っても購入することはできません。そういうわけで今回入手したのは、中古のものです。
といっても、それほど値段は吊り上がっているわけでもなく、いわば「話の種」に一つ持っておくのも良いかな、と思った次第です。
円筒形の入れ物に、証明書や緩衝材とともに厳重に入れられた「クリスタル・リュート」を開封して、つぶさに観察してみると、いろいろと面白いです。
長さは8センチほどしかないなのに、実際に手にとるとずしりと重みを感じます。
↑ 正面を拡大。
装飾付きのサウンド・ホールが、計3つも彫られています。
↑ 糸倉(ペグボックス)の部分。ペグは両側に5本ずつ配されています。
↑ 表面板を下に向けて置いてみたところ。
裏側にあるはずのサウンドホールの模様が、こちら側から見ると反射の関係で、それ以上あるように見えます。
さらに光の具合で、何色かの色が下に出ているのがお分かりでしょうか。
ジュエリーにはまる人の気持ちが、なんとなく分かりました。
ところで、ヨーロッパ各地の博物館や美術館に行くと、大小実にさまざまな調度品に、リュートが描かれていたり、彫り出されていたりするのを目にします。
楽器博物館などと違い、はじめから楽器目当てで足を運んだのではないところで、そうした調度品を見つけたときの驚きと喜びは、また格別のものがあります。
それらのうちから、実際に私が目にしたものをいくつかご紹介していきましょう。
まず、16世紀の南ドイツで織られたタペストリーから。
↑ バイエルン州立博物館(ミュンヘン)所蔵のタペストリー。
左手前に、無造作にリュートが置いてあるのに、お気づきになるでしょうか?ここでの主役の楽器は、小型のパイプオルガンですね。
この実物は相当大きいもので、圧倒されるくらいです。
結果、どうしても見上げるように撮影する感じになって、画面上で長方形になってくれません。
さて次は、ある意味で「2.5次元」的なもの。
↑ フレデリクスボー城(デンマーク)の接客の間にある家具。
ここはかつて、歴代のデンマーク王が居城とした場所です。上部に蓋のついた入れ物で、その側面にテーブルを囲んで音楽を楽しむ人々が精巧に彫られています。
中心にいるのがリュート奏者(誰でしょう?もしかすると・・)。
その横のヴァイオリン奏者の楽器の構えから、これが彫られたのは17世紀の前半は下らないだろう、と判断できそうです。
そして、既にタイトルの画像に載せている、こちらの品。
↑ ウィーンの王宮博物館所蔵の、「携帯式リュート型日時計」。
今のところ、類似の品はこれ以外見たことがありません。
もし同じ持っていたら、ちょっと(すごく?)自慢できるかも。
ウィーンの博物館には、他にも興味深い、リュートが現れる調度品がいくつかあります。日時計に加えて是非ご紹介したいのが、以下の2つ。
↑ リュートを弾く人物が線刻された、ガラスのコップ。
リュートを弾いているのは、その服装からも高貴な人物のよう。
対して、それに合わせて後ろで骸骨が踊っているのは、穏やかでないです。これは、この世のはかなさ、虚しさを表す「ヴァニタス (Vanitas)」という、ある種定式化されたテーマを表したものと解されます。
このコップは1500年代中頃から後半のものらしいですが、確かにペストに代表される疫病や、領土や宗教を巡る戦争の数々で、現在のドイツやオーストリアが、疲弊していた時期にあたります。
↑ ゼンマイ機械仕掛けのゴンドラ。1600年頃の作。
実際にどのような動きをするのかは、分かりません。ひょっとすると、女性が弾いているリュートの音が鳴っているかのような細工が、施されているのかもしれません。
その精巧さからも、使われている素材からも、量産型のものでないことは確かです。
最後に、ウィーンの博物館の楽器部門にある実際の楽器で、なかでもとっておきのものをご紹介したいと思います。
↑ ゲオルグ・ゲルレ製作(1580年頃)のリュート。
ほぼ完全な形で当初の形をとどめる、貴重なルネサンス・タイプのリュートです。
何より、表面板やペグなどの一部を除いて、象牙でコーティングされた楽器というのが、すごくないですか?
まさにリュート界でも至宝中の至宝と言って良い楽器で、一般にこの楽器を基にして作られたリュートを「ゲルレ・モデル」と呼び、現代のリュート製作家たちの間では、この楽器を実際に手にとって検分することは、まさにこの上ない栄誉で、夢のような話だそうです。
でも皆さんお察しの通り、いくら綿密にデータを取ったところで、これを忠実に複製しようものなら、その時点で捕まります!
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さて記事の前半では、「調度品に現れたリュート」を見てきたのですが、
見方を変えて、「リュートという楽器そのものが調度品」ということも、先ほどの「象牙リュート」を例に挙げるまでもなく、ごく早い時期から人々の間で意識されていたことだろうと思います。
これまでご紹介してきたものから時代は一世紀ほど下りますけども、かつてこんなタイトルを持ったリュートの曲集が出版されたことがあります。
Cabinet der Lauten は、日本語に訳せば「リュートの飾り棚」とでもなるのでしょう。ドイツ語でのLauteは単数ですから、この場合のLautenは複数形だと判断できます。
ですから、リュートがたくさん置かれている棚を想像しますね。
そうした棚、もしくは収納庫を我が家に持てるのは、相当財力があり、社会的ステータスも高い人物に限られるのは、おそらくいつの世も変わらないことでしょう。
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