空前の「リュート弾き語り」ブーム到来
「吟遊詩人の楽器」というイメージでしばしば紹介されることから想像できるように、リュートは古来、弾き語りに大変適した楽器です。
16世紀から17世紀にかけて、リュートがヨーロッパの幅広い地域で花形楽器であった頃に描かれた絵画にも、弾き語りの様子を捉えたものがたくさんあることに気づきます。
↑ ロレンツォ・コスタの絵画(ロンドン・ナショナルギャラリー所蔵)。
イタリア・ルネサンス期のリュートを描いたものとしては、もっとも有名なものの一つでしょう。
リュート奏者を含めた3人が同時に歌っています。
↑ ヘンドリク・テル・ブリュッヘン(及びその工房)の絵画(パリ、Segoura ギャラリー所蔵)。
これは男性が、一人で気さくに弾き語りしている例。
先ほどの絵画からは、時代がかなり下ります。
↑ アルテミシア・ジェンティレスキによる絵画(個人所蔵)。
今度は女性がリュートを奏しています。
口元が微かに開いているのは、やはり弾き語りする姿だと解釈したいです。
さて、実は最近になって、私の周りでは空前の「リュート弾き語り」ブームとでも呼べる現象が起きています。
それを実践しているのは、自分と同じくスコラ・カントルム・バジリエンシスで学んだ(この学校についてはこちらの記事で!)卒業生、または現役の学生たち。
コロナ禍でじっくり練習時間を持てたことも大きいのでしょうが、ここから紹介するものは、どれもつい最近アップされたもので、しかもクオリティの高いものばかりなので、是非みなさんに見ていただきたいです。
まずはこちらから。
↑ エマ=リザ・ルーによる、ジョン・ダウランドの歌曲。
終始憂いを帯びたメロディラインは、まさしくダウランドの得意とするところ。
彼女の歌い方が、実にそれとマッチしていますね。
↑ イヴォ・ハウンによる、別のダウランドの歌曲。
こちらは打って変わって軽快な歌です。
少し耳慣れない感じの英語かもしれません。
実はこれ、17世紀初め頃の古い英語の発音で歌っています。
このように、歌の作曲された当時に近い発音によって歌ってみる試みが、最近はますます盛んです。
↑ 同じくイヴォ・ハウンによる、フランスの宮廷歌曲(エール・ド・クール)。
聴きどころは、優雅なメロディラインを彩る細かい装飾的な音型。
いわゆるところの、この時代独特の「こぶし」は、即興的に入れられることもあれば、実際に楽譜に記されることもありました。
歌手とリュートが一対一の関係で向き合うよりも、一人で弾き語りすると、リズムの微妙な揺らぎや、「こぶし」の入れ加減にすぐさま対応できます。
この柔軟さこそが、弾き語りをする大きな利点と言えるでしょう。
↑ フランチェスカ・ベネッティによるカプスベルガーの歌曲。
彼女が演奏しているのは、大型のリュート属の楽器、キタローネ(またはイタリアン・テオルボ)です。
キタローネは当時、歌の伴奏に最も適した楽器とされました(この楽器の説明はこちらの記事をご参照下さい)。
このフランチェスカが在学中に、同じく弾き語りをしていた仲間たちとともに結成したグループがこちら。
↑ コンチェルト・ディ・マルゲリータのPV。
女性3人、男性2人からなるグループで、各人がキタローネ、リュート、ギター、ハープ、ヴィオラ・ダ・ガンバを同時に弾き語りするという、実に豪華絢爛なものです。
よくもまあうまい具合に、これだけ集まったなあと思います。
こうして見ると、もはや歌手/器楽奏者という線引きは不要ですね。
ひと昔前なら、この手の弾き語りパフォーマンスは
「歌手が、ちょっと楽器を弾いてみた」
「楽器奏者がちょっと歌ってみた」
程度にしか扱われなかったでしょうが、今や両者の融合が高いレベルで成し遂げられていることには驚くばかりです。
今回ご紹介した人たちは、まだまだ若いです。
これからもっとレベルアップして、私たちをさらに驚かせるパフォーマンスを見せてくれることでしょう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?