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大塚家具の失敗劇

事業承継の話をするときにわかりやすい失敗例として大塚家具の話が出る。やっぱりわかりやすい失敗だよね。事業承継としての失敗とマーケティングとしての失敗と両面で問題がある訳で、色んな示唆がある。

野村監督が楽天の監督時代に『勝ちに不思議な価値あれど、負けに不思議な負けはなし 』って言っていて、不調だった選手がいきなりホームランうったりして勝つこともあり、勝ちは説明できないことがあるが、負けはやってはいけないことをやったり、ミスをしたりするから負けるわけで、不思議なことはないと言っていた。
NEWSピックの動画でホリエモンたちが『成功は芸術(アート)で失敗は科学(サイエンス)』なんてこと言っていたけど、同じだよね。


事業承継から消滅への流れについて

大塚家具がどんな経緯で消滅へ向かったのかを、まずは時系列で全体の流れを整理。

  1. 2009年 大塚勝久氏が赤字の責任をとり辞任、大塚久美子氏が社長に就任

  2. 社長就任後、積極的な接客を見直しカジュアルな雰囲気にすることで、10年減少していた入店者数を増加させ、業績改善に一定の効果が出る。

  3. 2014年 久美子氏が社長となり一時的に業績は改善するも再び赤字となり、勝久氏が業績不振を理由に久美子氏の社長を解任し勝久氏が再び社長に就任する。

  4. 久美子氏が行った店舗改革などを全て撤廃し新たなる店舗サイトは閉鎖し、高額商品を前面に出した広告を大量投入するなど、以前の手法に戻す。

  5. その結果業績がさらに低迷し、2度目の大幅下方修正になる。

  6. 2015年 久美子氏の社長就任が取締役会で承認された事により、勝久氏が自身を含む新たな取締役の就任を株主提案する。そのため委任状相談戦へとなり、久美子氏が勝利。

  7. 久美子氏が新路線を推し進め、中価格帯を狙ってポジション変更など勝久氏の方針を全否定したことで、勝久氏を支持していた取引先や従業員などが反発し、離反した。

  8. 2016年12月期で38億あった現預金が17年12月期で18億円と1年で半分以下になる。

  9. 2019年 ヤマダホールディングスから資本提携を受けるも赤字

  10. 2020年 4期連続赤字になり営業キャッシュフローも赤字になったことから、上場廃止猶予となる。久美子氏は12月1日に社長を辞任となる。

  11. 2022年 大塚家具をヤマダデンキに吸収すると発表。法人として消滅。

売上推移と現預金推移

大塚家具は2007年には売上が700億円を超え無借金で潤沢なキャッシュをもつ優良経営を行っていましたが、実際には2000年に入り売上は頭打ちになっており勝久氏が責任をとった2009年期から売上は減少になっている訳です。そして、久美子氏が第1回の社長となった2009年から20014年はリーマンショックという大きな経済危機があった中で売上は下げ止まり営業利益は黒字になっている訳だから、久美子氏のやってきたことがすべてダメだったとは言えないわけでです。

参照:https://kigyolog.com/company.php?id=1526

久美子氏の2009年の改革は正しかった。

Wiki :大塚久美子より

①日本は少子高齢化時代に入り高級耐久財は売れなくなってきている事への危機意識

こちらの永江さんのブログに高級家具が売れなくなってきている理由について分かりやすく書かれているので割愛

②新ブランドとしててテストマーケティング
久美子の社長時代に新規顧客層の開拓のために開いた北欧インテリアのショッピングモールサイト「Morgenmarked」(モルゲンマルケット)とその実店舗[19]「Morgenmarked 目黒通り」(東京都目黒区)、佐藤オオキ主宰のデザインオフィス「nendo」とのコラボレーションによるセレクトショップ[20]「EDITION BLUE 青山」(東京都渋谷区)、リブセンスとの共同事業で展開していた家具・インテリアの通販サイト「kagūno」(カグーノ)
と、既存の大塚家具のブランドは維持しながらも、新たなるブランド作りを模索していた。
この当時、イケアやニトリが一気に家具市場のシェアを伸ばしており、低価格帯に対する顧客の需要の強さと、高価格帯に対する需要の減少を強く感じていたのだと思われる。その中で、全店舗をいきなり変えるのではなく、複数ブランドを立てながら、試していくことは正しいやり方であり、自己資金が潤沢にある会社がその範囲内でテストすることで新たなる収益源を模索していた訳だ。

③客数減少に対する対策
久美子は勝久の用いた接客方法が「利用客の心理的な負担になり、客足を遠のかせる」と判断、「(一人でも)入りやすく、見やすい、気楽に入れる店作り」を目指し、店舗にカジュアルな雰囲気を施して積極的な接客を控える手法を取り入れたことで10年減少していた客数を増加にさせた。

事業承継はビジネスチャンス

事業承継をビジネスチャンスになる。それはイノベーションの機会になるからだ。多くの経営者は自分の今までのビジネスを否定することはできない。そのためイノベーションのジレンマのように、新しいビジネスモデルを作り上げたことで成長してきた会社が、そのモデルを否定できずに改善に終始することで新たなるイノベーションが生めなくなると言われているが、事業を長くしてきた経営者はこの考えに陥る。現経営者は成功体験が大きければ大きいほどに自分のビジネスに対して正しい評価が出来なくなり衰退に向かうが、その時に後継者が新しい視点をもってビジネスに取り組むことが求められるわけで、企業を生まれ変われ変わらせる最大のチャンスでもある。

大塚家具の大失敗①

大塚家具の事業承継における大失敗は2014年に赤字転落した際に、久美子氏が行ってきた改革について客観的な評価を何一つせずにすべてがダメだったと切り捨てたことである。少子高齢化の中で高級耐久財の需要がなくなっていることに目を向けず、勝久氏が自分のやってきた成功体験だけが正しいとして、上述の改革を全て否定したことで、大塚家具は新しく生まれ変わるチャンスを失った。

事業承継において前社長が自分が正しいと出張ってくることがあるが、それは今でも成績が出ている場合においてのみ有効である。右肩上がりに売上が上がっている時にはそれは正しいが、売上が減少しているのに昔はこれで成功したんだと言っても、何一つ良いことはない。昔は昔である。

大塚家具大失敗②

2015年の久美子氏の委任状争奪戦によるイメージダウンはある程度仕方ないことであったが、その後に久美子氏が自身の路線に固執し勝久氏のビジネスモデルをことごとく否定したことで、既存取引先や既存顧客、社内からの大きな反発を受けたことで、大塚具の根幹を揺らがせてしまった。
・仕入れ先の離反による取引停止
・技術、能力のある従業員の大量退職
これは失敗①で勝久氏が久美子氏がやってきたことをことごとく否定し、やめさせてしまったことへの怒りだったり、そうならないために元に戻らないようにしないといけないという気持ちにさせられたわけで、致し方ない部分もあったが、結果としてこの行動により本人の孤立化も深まった。

大塚家具大失敗③


大塚家具はお家騒動後の対応として『お詫びのセール』を実施した。ただ、価格戦略として安売りは良い手法ではない。特に高級耐久財のセールは自身の首を絞める行為である。
例えば、家とか車とか高級耐久財を安く買ったとしたら次に買うのは何年後になるだろうか?家は買うことはないし、車も7年程度は買わない。結果安売りをすることは、次に買うまでの期間の需要を先食いするだけであり、短期的には売り上げは上がるが、長期的には売り上げは減少する。また、安売りで増加する顧客は安さ目当てであり、正価では買ってくれないために顧客にはなり得ない。

その結果現預金および純資産を大きく減少させることになり、会社消滅に向けて一直線で進むことになる。

参照:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20171120_02.html

大塚家具の事業承継は何故失敗したのか?

最大のポイントは成功体験の固執である。これは会長が2014年に復帰した時も、2015年に久美子氏が委任状争奪戦で勝利した時と両方で自分のやり方が正しい。相手は100%間違っていると決めて『ALL OR NATHING』というやり方になってしまった。その結果、ノーサイドなんて言ってはいても、言葉とは裏腹に利害関係者が離反していった。
・勝久氏 (主要株主の離反による退任)
・久美子氏 (取引先と従業員の離反による根幹の崩壊)
とそれぞれが、ダメージを負うことになってしまった。会社自体も右に左に方針がぶれればそれは当然信用を失うわけで、顧客から見た時にお家騒動の問題と別に、ブランドの方向性が見えなくなったことも顧客離れの大きな要因である。

経営の承継は理念の承継
会社経営において利益を生み出すビジネスモデルを作り上げていく必要があり、そのビジネスモデルは会社の経営方針や理念に連動している。つまり会社がうまく利益を出している理由はどこかで経営理念とつながっていくわけだ。逆に経営理念がある中でその理念や方針を変える場合に、会社の状況をしっかりと見定めなければならず、例えばその技術を支える人的資源やそのモチベーションを支える人事評価制度などが複雑に連動して会社の競争優位性になっている。こうした仕組みを無視して経営方針を変えることは、そもそもその会社である必要がなくなり組織として崩壊につながる。

マーケティング的な失敗

①顧客動向の判断ミス
外部環境を見た時に、顧客の動向は非常に重要な要素である。売上が減少している要因を正しく分析することが求められ、例えば客数が増えているのに売上が減少していれば、客単価が落ちている。魅力的な商品提案ができていないとか、クロスセルで購入点数を増加させる必要があるが、客単価は落ちず顧客数が減っているのであれば、来店数を増やす必要がある。

ここは、2009年の久美子氏の戦略は正しかった。売り上げの下げ止まりと、客数の増加につなげたわけだ。
そしてその根本的な原因として、デフレ下により高価格帯の需要が減り、人口減少において高額耐久財の絶対需要が減少した。またイケアやニトリに代表される低価格家具の台頭で、一生使うものから気分に応じて変えていくものに家具の定義が変わってきた。つまり顧客の嗜好が変化している訳でその変化に対応しなければならない。

②ポジショニング戦略の選択ミス
一般的なポジショニング戦略では圧倒的な差別化か、低価格化の2つの競争優位に進める戦略がある。ニトリ、イケアは低価格化戦略でそこその商品を安く売るというビジネスモデルを作り上げた。それに対して大塚家具は良い商品を高価格で売るという差別化戦略でビジネスモデルを作り上げてきたが、イケアでは満足しない中価格帯が空白のポジションであるために、ここに狙いをつけたわけだ。
ただ、ポジショニング分析をする上で、他社との競争回避をするために空いているポジションを探すことはよくあるが、なぜ、そのポジションが空いているかを考える必要がある。つまり需要が全くないから誰も手を出さないのか、ブルーオーシャンとして完全に空いているのでは、全く意味が異なる。そして残念なことにこの中価格帯については需要があまり認められなかった。

③商品戦略と販売促進のミスマッチ
もともと、大塚家具は高価格帯の家具を会員制で営業がマンツーマンでつくことで満足感を高めて戦略をとっていた。ある一定の価格を超えたものは価格と満足度は一致しなくなる。つまり商品や価格ではなく売り方や売る場所に納得感を持つようになってくるわけだ。しかし、低価格になると価格と満足度は比例するようになり、高価格のモノは良い商品という認識を持つ。
大塚家具は気軽に入れる雰囲気を持たせることは、客数増に貢献する策としては良かったが、会員制を廃止したことで顧客との設定んがなくなり、低価格化を進めたことで、商品と接客に対する満足度は低下しやすくなり、自社の長年培ってきた営業ノウハウなどは全く使えなくなっていた。

まとめ


大塚家具のすべての失敗は勝久氏が2014年に強硬的な手段に出たことではないだろうか?久美子氏の戦略が間違っていなかったわけではない。溺れる者は藁をもつかむというくらいに、ダメな対応、意固地な対応が多々あったが、そうした問題のきっかけになったのは勝久氏のビジネスモデルの変革期に自分を否定されたと久美子氏のやったことを全部ひっくり返したことに思える。
久美子氏が社長になった2009年頃にもっと事業承継者がしっかりとコミュニケーションをとっていれば、こんな事態にはならなかったのだろう。
事業承継における経営の承継は、理念の承継とビジネスモデルの承継が必要であるが、過去の成功体験に縛られた機能しないビジネスモルが対象の場合には、変革が必要となり承継は変革のチャンスになるが、もめごとの種にもなってしまう。

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