いちばん好きな映画は?と聞かれたら『運動靴と赤い金魚』
初めて観て以来、思い出すたびに観たくなる作品がある。
日本では1999年に公開されたイラン映画『運動靴と赤い金魚』。
貧しい家に生まれ育ったかわいい兄妹、アリとザーラの物語。
イラン映画として初めてアカデミー外国映画賞候補になった作品だそうです。
ふたりの家がどれくらい貧しいかというと、家賃の支払いをため込んでいて、大家さんにチクチク言われるほど。
当然、アリとザーラは靴を1足ずつしか持っていない。破れたり、壊れたりしたら、可能な限り修理をして、文字通りぼろぼろになるまで大切に履く。
けれど、ある日、アリはザーラの靴を修理してもらった帰りにその靴を失くしてしまうのだ。
さあ、どうしよう。
アリは家計の苦しさを理解しているから「新しい靴を買ってほしい」なんて到底言えっこない。何より妹の靴を失くしたなんて言ったら、きっとお父さんにひどく叱られる――そこでアリは、ザーラに自分の靴をかわりばんこ(※)に履いて登校することを思いつくのだ。
※かわりばんこって、どういうこと?と思って調べたら、イランでは小学校から高校まですべての学校が男女別学なのだそう。映画では午前中に女の子が学んで、午後に男の子が学ぶ、という形式でした。
で、ザーラはアリの靴を履いて学校へ行き、終わったら急いで家から少し離れた待ち合わせ場所に駆けつけ、アリがそれ履いてダッシュで学校へ行く…という日々が、はじまるわけです。
ある日、小学生のマラソン大会が行われることになり、3等の商品が運動靴と知ったアリはザーラに靴を贈る(というか、返すというか)ために、出場を懇願。
毎日ダッシュで学校へ通っていた甲斐あって、アリの足はずいぶん鍛えられていたのだ。
やがてマラソン当日、3等を目指して必死で走るアリ。
ラストシーンは書かないけれど、いつ観ても、最後はふふっと笑ってしまう。
足に合わない、それも男の子用のズック靴を履いて学校に行くザーラはどれだけみじめな気持ちだっただろう。
妹への申し訳なさ、自分ではどうにもならない貧しさへの苛立ち、毎日猛ダッシュで駆けつけても遅刻してしまって叱られるアリは、どれだけ悔しかっただろう。
幼いふたりの眼差しから伝わるいろんな感情に、胸がギュッと締めつけられる。
けれど、アリにもザーラにもまったく卑屈さはなくて。
むしろ貧しさのなかで培われたふたりの逞しさ、優しさがとても愛おしい。
お父さんだって口調は怖いけれど、実はすごく家族思いで。
何よりも、家族に貧しい思いをさせているお父さんがいちばん悔しいはず。
老若男女問わず、これから出会う人に、できるだけ優しく接しよう。
いつも最後は、そんな気持ちになる。
最近、マジッド・マジディ監督の作品を日本で観ないけれど、いまも活動されているのかな。
その後に公開された『少女の髪どめ』も好きでした。