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営業は奴隷じゃねぇんだよ。~肉の巻~

あれ、お前もう帰るの?
部長の席から野太い声が聞こえた。

空耳かな?

ブラック企業じゃあるまいし、家族の誕生日にそんな声が聞こえるはずないよ…と、ブツブツ下を向いてつぶやく同僚は顔色が青白くて、口びるがカサカサしてる。

リップクリームでも買ってあげようかな。

営業だからお酒飲まなきゃね。
営業だから帰れなくても仕方がないよね。
営業だったら売上に届かなければ給料下がっても文句は言えないよね。
営業だから土日は要らないよね。

ねぇ。営業って、奴隷なの?

花形などと言われていた時代はとっくに過ぎ去り、知らないうちに営業職は企業の奴隷みたいになってしまった。しかし、「企業なんか属さなければいい」とか、「海外はブルーオーシャンだ」という、ごもっともな意見を遂行できる能力値を、誰が持ち合わせているだろうか。

だったら、夜中まで働いて家族サービスをぶっ壊すのも仕方がない?それはそれで、あんまりじゃないか。ご家族の、年に1回のスペシャルなイベントなんだよ。

だから今、営業職を再定義しなければいけないんだ。

〇営業は奴隷じゃねぇんだよ。~肉の巻~

●一般的な営業職とは。
●営業職の現状のマトメ。
●営業職を再定義する。
●具体的に営業職は何をすべきか。
●つまりさ。

〇一般的な営業職とは。

一般的に営業職と呼ばれる業務とは下記だ。

1:今年度いくら稼ぐかの目標を立てる。
2:既存顧客をケアする。
3:既存顧客と話すことで市場を調査する。
4:自社の商品を知ってもらう。
5:新規の顧客にアプローチをする。
6:売買契約を結ぶ。

大きく分けて6点。
これは日本で1980年代頃に確立されて、続いてきた営業職のスタイルだ。40年後の今も、多くの企業は上記の流れで業務を進行している。まず、1つずつ現状を把握していく。

1:今年度いくら稼ぐかの目標を立てる。
ほぼ全ての産業が右肩上がりに伸びていた80年代は前年度よりも売上を伸ばすことは大前提であり、比較的安易だった。近年、日本は全体的に景気が下がり続けているため、前年度よりも売上を伸ばす難易度は上がってきている。売上は伸びているが、安売りをしているため利益で見ると下がっている企業も目立つ。

2:既存顧客をケアする。
大部分の顧客が前年度よりも潤うっていた80年代は、既存顧客へ挨拶をするだけで一定の売上を担保できた。しかし、既存顧客が昨年よりも苦しくなっていることが予測される現代では、顧客の要求が徐々にエスカレートしていく場合が多い。

3:既存顧客と話すことで市場を調査する。
インターネット以前は口コミ以外で情報を得る方法がなかったため、既存顧客とのおしゃべりも重要な仕事だった。しかし現代は、四季報を読んだり、Google検索することで、大体の市場内容をとらることができるため、会話からの情報では、現場ならではのものや、即効性があるものが重要とされる。

4:商品を知ってもらう。
昔から商品告知の頂点は変わらずテレビCMだ。しかし、発信媒体が増えてきている近年では、SNSを利用したインフルエンサーマーケットなども人気を博すようになった。

5:既存で稼げない部分に対して新規顧客をつくる。
新規顧客は類似品をインターネットで検索して価格を調べることができる。基本的にはライバル社より販売価格を下げる以外に新規顧客をつかむ方法はない。

6:売買契約を結ぶ。
複数の企業に同じ製品を商品を販売するが、価格や条件などの、契約内容を変えることで、自社に有利に商売を行うのも営業の役目の1つだ。しかし、これは商品への予備知識がない顧客に高値で売りつける仕組みのため、どの顧客も市場価格がある程度わかってしまう時代には、複雑な見積もりを作る意味は少なくなってきている。

〇営業職の現状のマトメ。

上記の1~6で挙げた営業職の結論は下記だ。

達成困難な売上目標のために、我儘な顧客の言いなりに!我儘な顧客から解放されるために新規顧客に安売りするも、翌年には、さらに自分の首を絞めている」

過酷な印象を受けざる得ない。

解決策として、全企業がiphoneシリーズのような超ヒット商品を販売でれば営業職も少しは楽になりそうなものだが、企業によって商品は変えたくとも大きく変えることはできない。

理由として、莫大なコストがかかるからだ。

そもそも豆腐屋に自動車を作るのは難しい。商品を変えるといっても、本を作る人が雑誌を始める…くらいの変化しか起き得ないのが現実だ。天才や超大手企業以外の営業職は、自社の白い豆腐を翌年にピンク豆腐にするなど、微細な変化で戦い続けるしかないのだ。

〇営業職を再定義する。

営業職とは何だろう。
売上を守る仕事?企業と企業の接点をつくる仕事?売買契約を結ぶ仕事?何だかどれも具体性を欠いた印象である。

営業職とは、「商品の別の使い道を見つける」仕事である。

上記が今後の営業職ではないだろうか。

既存顧客は我儘ばかりで、新規顧客は価格のコトばかり。
良い商品でもすぐに価値は下がり始めるようにできている。

十数年前は、例えば静岡県で人気になった商品は、次に神奈川県で販売して、東京都ではもっと高い販売価格で売れた!そうこうしている間に5年が過ぎて、一部上場も視野に入れて…という時代だ。しかし現代では、商品の注文が山の様に入ったと思ったら翌年はゼロ…というスピード感で市場は動き続けている。

商品の大幅な変更が難しい以上、商品価値を守る以外に方法はないが、どうすれば商品価値は守られるのだろうか。回答としては、同じ商品の、別の使い道を提案すること。

例えば、京都の古民家は新築が立ち続ける京都近辺で「不便より風情」という概念で浮上してから5年程しか経っていない。
例えば、トマトはスペインのトマト祭りの時期になると「投げて遊ぶ」という使い道を与えられ、その日だけで約27万個の売上が見込まれる。トマト祭りが世界中で認知されてきているためにトマト使用量はまだまだ増えていくだろう。
例えば、最近になってCDは「アイドルライブの握手券」に内容を変え、1000枚単位で購入する人が続出。

上記した商品は、従来の使い道以外に当初予測もしていなかった価値が見つかり、売上としても伸ばしている。消費者が勝手に使い方を見つけて、イチ早く企業や団体が寄り添ったというビジネスモデルだ。

構想こそあったかもしれないが、市場に合わせてイチ早く売り文句や販売方法を変えること。これこそが、活きた情報に常に触れ続けている営業職に求められることではないだろうか。

【実際に身近で起きた事例】
年間でも2~3着程度しか販売できていなかった「甚平(じんべい)」という商品が、ある父の日に400着近く売れたことがあった。どうやら「父の日に何をプレゼントしたらいいかわからない…」と悩む人が甚平をお父さんが喜んで着ていた…と発信したのが原因だという。すぐさま商品名を「お父さん甚平(じんべい)」と変名したら、毎年約300~400着売れ続けるロングセラーとなった。これは「花火の日だけの着衣」が、「お父さん世代が喜ぶ無難なプレゼント」に使い道を変えて浮上した例である。

前記している通りだが、新商品はポンポン出てくるものではない。大前提として商品はほとんど変わらない。ならば今いるエンドユーザーの声に耳をかたむけ続けて、少しでも新しい使い道の糸口をつかむ。

まず、営業職は、常に顧客と同じ目線で一緒に楽しむ必要があるのだ。

〇具体的に営業職は何をすべきか。

1:販売価格を変えない。
そもそも販売価格(卸し価格も同様)を顧客によって変えるのは、商品知識が少ない人に「とても珍しい物だ」と言い聞かせて高く売るための技法だと考えられる。

その証拠に、インド人は日本人に対してインドカレーをやけに高く売っているし、寿司は外国で食べると日本よりも高価格だ。

販売価格を一定にするメリットは、社内の誰でも企業からの電話に迷うことなく回答できる。販売価格を企業ごとで変えまくっているから担当の営業マンしか正確に営業トークができないのだ。販売価格の変更は数パーセントの利益以上に混乱を生じさせている。

明らかに売れないと判断したら、その時点で足並みを揃えて安くすればいい。

2:既存顧客と一緒に別の使い道を考える。
既存顧客に「もっと買ってくださいよ」と迫るのは現代向きではない。爆発的に伸びている顧客でない限りは顧客だって経理が火の車なのだ。

前記した通り、一緒に別の使い道を考えるのが良い。

【実際に身近で起きた事例】
電灯を作る職人さんの軍団が東京に居る。海外諸国の安い賃金で働いてくれる職人さんに仕事を奪われ、さらにLED電球の登場で、一般家庭で電灯を変える回数が劇的に減った。しかし、ある日百貨店に電灯を納品した時に、「ワインを美味しく飲むにはガラスが薄い方がいいんだが、なかなドイツのガラスを使った食器ブランドが商売してくれないんだ」と愚痴を聞いた。結局、電灯用のガラスはドイツの食器ブランドよりも、はるかに薄いガラスで食器になり、電灯は百貨店おかかえの食器ブランドになった。

商品の、別の使い道を考えるには、既存顧客と話すのが1番の近道だ。既存顧客は間違いなく自社商品を利用している上に、アイディアは潜在的で、即自的なコトなので、「あ!それやりましょうよ!」という流れからスタートするケースは多い。

インスタグラムやTwitterなどの日常使いのアプリケーションを使うのも、お勧めだ。顧客が自社商品を日常的に使用しているリアルな感想を知ることができる。

3:新規営業はできるだけ関係者を減らす。
商品がエンドユーザーの手に渡るまでの間に、会社が何社も挟まっていないだろうか。実際日本の企業形態は、商社がかなり強い。しかし、商品とエンドユーザーの間に商社などの他企業が挟まりすぎると、それぞれの企業で情報確認をするタイムラグが出てしまう。

少し前まで常套句だった、「ちょっと社に持ち帰って」でうまくいかなくなるケースは確実に増えていく。何故なら顧客は「今」それが欲しいからだ。

適当な判断をしていいということではなく、販売価格を変動させなければ、社内誰もが分かり易く即決で回答できる。顧客の「今」に対応することが重要なのだ。

部長に確認して、来週まで出張している社長からハンコをもらって、商社に説明して、顧客に回答したのでは間に合わない。Amazonプライムで類似品が顧客の手元に夕方には届いてしまうかもしれない。

〇つまりさ。

同僚はいい奴だ。家族想いで、愛想が良く、顔も恰好いい。どことなく心温まる肉じゃがの様な男だ。

結論としては、帰ればいいんだ。一緒に帰っちまおうかな。

家族と一緒に自社商品を使えばいい。本なら読んであげればいいいし、飲食なら一緒に食べればいいし、家電なら一緒に楽しめばいいし、仮想通貨なら教えてあげればいい。

使えば使うほど必ずアイディアが浮かぶ。

ほくほくの肉じゃがは、翌日カレーになって、最後はリゾットになって顧客を楽しませ続ければいい。肉じゃがを売り続けるよりも、よっぽど肉じゃがの価値を上げるから。

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