営業は奴隷じゃねえんだよ。~骨の巻~
営業職って要はコミュリョクじゃん!
ある日、喫茶店で大学生と思われる2人組の会話が聞こえてきた。1人は細身のイケメン。もう1人はひげ面の太っちょだが、清潔感のある面持ちで、むしろお洒落な印象を受ける。
イケメン:営業とか全然ムリ。俺って声でかいケド、超コミュ障だし。
太っちょ:え、でも超友達多いじゃん。
イケメン:友達っていうか、挨拶だけしてる奴ばっかりなの(笑)。むしろお前の方が、口喧嘩強いし、すぐに論破したがるから、営業とか向いてるって。
太っちょ:えー!クソ上司の言うこと奴隷みたいに聞く感じになるのか。
就職活動中なのか、着なれない様子のスーツに身をくるんだ2人組は、将来の自分たちの姿が固まってこないのか、希望に満ち溢れているようで、不安げでもあり、どこか微笑ましくもみえる。
営業職に、実はコミュリョクは必要ないんだ。
友達は大勢いるにこしたことはないケド、論破力は必要ない。1番必要ないのはクソ上司かもしれないが、会社には絶対に先輩社員がいるものだ。
そもそも営業って何だろうか。
●営業は奴隷じゃねぇんだよ。~骨の巻~
・営業職とは。
・営業を考察するには研究の歴史から。
・世界で1番有名なマシューディクソンの営業研究。
・今日本で1番熱い研究結果。
・まとめ。
●営業職とは。
営業職と呼ばれる人は2015年の総務省の調査では853万人とされており、ホワイトカラーと呼ばれる企業の経営層は、約25パーセントが営業職の出身だという。営業職は進化するAIにとって代わる危険性が低い職業とされているため、近年注目が集まる。
諸外国、主にアメリカでは営業職というのはマネジメント(4Pという概念で定義されることが多い)の1分野でカウントされている。4Pとは、Product、Price、place、promotionのこと。日本語ではつまり、製品・価格・流通・販売促進。
上記4つの中で、販売促進が、いわゆる営業職とされている。
日本は海外と比べて、販売促進である営業職を、製品・価格・流通よりも特別視する傾向があり、理由としては「1980~00年代までの日本は景気が爆発的に良かったため、製品・価格・流通は考えずに、販売促進として商品を持って行けば買ってもらえる時代だった。商品を売りに行った回数と成績と直結していたので、努力と結果が一致しやすく、経営層からも評価しやすかった」が挙げられる。
好景気には好景気の気苦労はあったはずだが、今後の営業職は商品を運ぶ人ではいられない。
●営業を考察するには研究の歴史から。
せっかくなので営業に関する研究の歴史を紹介する。
まず営業研究で外せない下記の3名。1980年代後半から2000年代初頭にかけて、日本では積極的に経済やビジネスの研究が行われていた。中でも功績を残した研究者たちである。
・石井淳蔵さん:神戸大学名誉教授:アメリカのビジネスを研究した第一人者ともいわれる。
・田村正紀さん:神戸大学名誉教授:アメリカを意識しながらも日本の営業や経済を研究。
・高嶋克義さん:神戸大学大学院経営学研究科:データベース営業などの重要性を説く。
3名の功績は偉大であり、研究は未だに色あせるものではない。しかし、2000年代も終盤になると「売れる営業マンの秘訣」などのハウツー書籍が売上を伸ばし始めるなど、営業に対して雑誌や書籍の編集社が目を向けるようになった。
書籍が必ずしも研究より劣るわけではないが、営業を体系化する研究と違い、書籍は個人スキルをよりどころにしている内容が多い。そのせいもあって、営業の研究は2000年代後半に混沌とした。
ちょうど、今となっては耳なじみのあるPDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)のサイクルが叫ばれるようになった。この概念は、営業研究と個人スキルが混沌とした結果、現れた成果物ともいえる。
アメリカでは1986年に「売れる営業マンの極意は、賢さか、真面目さか」という論文が発表されている。つまり、「売れる営業マンの秘訣」的なハウツーが30年前には発売されていたことを意味する。
だからといって、なにもアメリカの営業職が30年進んでいるわけではなく、日本よりも30年はやく、持って行くだけでは商品が売れなくなってしまったのだ。これは日本の高い精度の製品が世界中で人気となったため、アメリカ製品が売れなくなったことに起因する。日本は30年後に、中国製品に押されて、行くだけでは商品が売れない時代に突入した。
30年前に営業職の在り方に着目していたアメリカの営業研究をみると、この分野で重要なのはたった1人しか居ないと言っても過言ではない。
世界有数のアドバイザリー会社CEBにおいて、エグゼクティブ・ディレクターを務めるマシューディクソン。知る人ぞ知る「日本のおもてなしは、おせっかいだ!」で有名な人物だ。現在の世界中の営業研究は彼の研究の上に成り立っているといってもよい。
マシューディクソンの実績について簡単に紹介する。
●世界で1番有名なマシューディクソンの営業研究。
なぜマシューデイクソンの研究が1番有名かというと理由は1つ。調査した人数が圧倒的に多っかったからだ。
インターネットが普及する以前や初期は、調査と言っても各企業ごとの営業職のことしかわからなかった。しかし2013年に、ディクソン達は、企業の垣根を越えて6000人以上の営業を対象とした大規模なアンケートを実施している。
結果を説明すると、営業職は5タイプがに分けることができた。
①勤勉型
②挑戦者型
③関係構築型
④一匹狼型
⑤受動的問題解決型
営業職とは上記5タイプに分類される。
中でも、圧倒的に営業職として成果を出すのが、挑戦型。次点で一匹狼だという。挑戦者型の人の特徴としては、議論好き、強引、顧客のビジネスを理解しているなどだ。つまり、日々ルート営業を行いながら、「持ち帰って検討します」などと悠長に構えている場合ではない。
一方で、これはあくまでもアメリカの研究のため、日本としてのデータも欲しい。
そこで紹介したいのが、今も現役でマーケティングを研究されている北中英明さんの研究だ。個人的には、日本で1番熱い営業研究だと思っている。
●今日本で1番熱い研究結果。
北中英明さんの研究内容をざっくり説明すると、人材・情報ビジネス系企業の社員をタイプ分けして、全体のデータと成績優秀者とのデータを見比べたものだ。調査規模は15社417名。
まず、回答者には92の質問項目に回答してもらう。質問は大項目3個・小項目10個に分別されており、回答のかたよりから回答者を5タイプに分別。分別した5つに「優等生」「お荷物」「城」「ルーキー」「現場至上主義」と名前をつける。
研究の目的は、通常業務で成績が優秀な社員は、5つのうちどのタイプなのかを判断することだ。
【5タイプのステータス】
【研究結果】
●優等生:全体の26・1%/成績優秀者の割合43・5%
●お荷物:全体の19・4%/成績優秀者の割合11・8%
●城:全体の23・0%/成績優秀者の割合21・2%
●ルーキー:全体の12・5%/成績優秀者の割合7・1%
●現場主義:全体の18・9%/成績優秀者の割合:16・5%
上記が回答だ。
成績優秀者は「優等生」タイプに多く、「お荷物」タイプには少ない。しかし、優等生がお荷物よりも優秀でした…では研究とは呼べないため、気になった点をまとめる。
・「優等生」タイプは約4割が成績も優秀だが、3/4は「優等生」タイプではないため、企業は他のタイプで成績優秀者を見つける必要がある。
・「城」タイプは、モチベーションや挑戦心が少なく知識とスキルも平均程度の人を指すが(※上記5タイプのステータス表を参照)、成績優秀者が多い。
・「現場主義」タイプはスキルとモチベーションが高く知識が少ない。モチベーションや挑戦心が少なく知識とスキルも平均程度である「城」タイプは、成績優秀者が現場主義タイプよりも多いため、モチベーションとスキルよりも知識の方が成績に直結するという見解がうまれる。一方で、モチベーションが高い人はモチベーションが低い人よりも約15%成績優秀者が多い。
また、上記の表からは見てとることができないが、北中英明の参考論文の中で「現場主義タイプが多い企業はお荷物タイプも多い」という結果も出ているため、知識が少ないと仮に仕事ができても、人を育てることが難しいという因果関係を推測させる。
●まとめ。
過去の研究から大まかに営業職に向いている人物像は、「おしゃべり、強引、営業という仕事が好き、販売物の知識がある」ということになる。
イケメンと太っちょは将来どうなるのだろうか。
太っちょは論破しまくるらしいから、おしゃべりが続かないことに気を付けて。イケメンは、挨拶する仲間に囲まれていることは素晴らしいことだけど、営業職は一匹狼として判断しなければいけないことも多いみたいだ。声がでかいのは魅力かもね。
営業職になったら、嫌なこともたくさんある。
でも、プログラミングできなくても、自動車を作れなくても、料理ができなくても、アプリや高級車や飲食店のことを説明できるし、理解できるという魅力がある。もし営業職を選んだのであれば、キミ達に多くの幸せが降り注ぐように願っている。
【追記】
営業職に関してまとめている「営業は奴隷じゃねぇんだよ。~肉の巻~」も合わせてご覧いただけますと幸いです。
参考文献は研究者「北中英明」さんの研究を参考にさせていただきました。
研究日時:2018年3月
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