【和紙】【写真多め】高野山のお膝元《紙遊苑》で和紙漉きを体験してきました!
……スゥーー…………和紙~~~~~~~!!!!!!!!!
近頃、本noteにて和紙分が足りてなかったことを重々反省し、ここにお詫び申し上げます。
というわけで、和歌山は高野山にある《紙遊苑》で和紙漉き体験をしてきましたのでレポートを書きました!
変わったシチュエーションで和紙漉きやってみたい方、あるいは関西圏でドライブするのにユニークなところを探してる方など、ぜひお読みください!。
《紙遊苑》ってこんなとこ!
今回訪れた紙遊苑は、和歌山県都郡は九度山町にある、紙漉きの資料や体験をできる施設です。
もともと、この地には勝利寺というお寺と、住職が居住していた庵がありました。高貴な身分の人々が逗留するところでもありましたが、江戸時代末期に住む人がいなくなり放置されていたところ、貴重な遺産として復元しました。
それを機に、当地に伝わった伝統の《高野紙》を伝える施設として、《紙遊苑》として開放されることになりました。
元庵の中には、高野紙に関する資料が様々。中でも目を引くのは、巨大なくす玉! これは高野紙とゆかりの深い埼玉県の《小川和紙》で作られたもので、両地の友好のあかしとして贈られたそうです。
高野紙って、どんな和紙?
高野紙はその名の通り、高野山にちなんだ歴史を持ちます。お寺では写経などたくさんの紙が必要とされ、高野山の金剛峯寺も例外ではありません。
その強い需要に応えるため、お膝元では和紙が盛んに生産されました。ことのことから、《高野紙》という名前で呼ばれるようになったのです。その歴史は古く、1000年以上遡ります。
特徴としては、他所の和紙より頑丈で、生成りの風合いが強いこと。これは材料の楮などを大切にするため、あまり水で晒さないのに起因します。そのため、お寺に奉納される他にも、傘などの日用品を作るのにも用いられたそうです。
高野紙の製法は門外不出とされ、10か所の産地から構成された紙漉きの組合が流出しないよう目を光らせていました。……とはいえ、紙漉きは当時非常に貴重な技術だったため、我が物にしようと様々な外部の手が伸びました。
イケメンの行商人を遣って和紙漉きの家の娘を娶り連れ出すなどもあったそうで、今聞くと面白いのですが、当時の人々はさぞかし真剣だったことでしょうね。
また、前述の埼玉《小川和紙》にも、高野紙の製法と似ているところがあるのが近年発見されました。これは、高野山へ修行に来ていたお坊さんが、その後故郷に戻ったとき、現地で見聞きした技術を伝えたからではないかと言われています。先ほど出したくす玉は、そういったご縁で贈られたものだったのです。
いざ、和紙漉き体験!
観光客向けに用意されている体験コース(要事前予約、詳細は記事の最後)を申し込み、実際に高野紙を漉いてきました!
場所は、資料の展示されている庵の傍らにある、東屋。コロナになってからは客足が遠のいていたものの、本来は周辺の小学生などが遠足で体験学習しに来たりするそうで、団体向けにされている工夫なども見受けられました。
ホントに頑丈! 高野紙の強さにビビる
「漉く前に、高野紙がどんなかぜひ実感してください」
一通り説明を受けた後、そう言われて差し出された実物。試しに破ろうと指先に力を込めるも……か、か、硬い?!
そりゃ、筆者は時折瓶のジャムすら開けられなくて絶望するほどの貧弱加減ですが、それにしたって紙を破けないなんて体験はこれまでに一度もございません!
「実のところ、これは普通には破けないよう厚めに漉いてるんですけどね。通常はこのくらいですよ」
そう言って渡されたもう1枚の紙は、無事に破けました。とはいえ、その手ごたえはなかなかのもので、やはり通常の紙よりも頑丈なのが伺えます。材料の繊維が長い和紙ならではでした。
初心者にもカンタンな《溜め漉き》で、GO!
体験コースでは半紙とはがきが作れます。今回は両方とも申し込んだので、ます半紙から。
紙遊苑のスタッフの方が、まずお手本を見せてくれます。……が。
スタッフさんは漉き桁の枠をじっと持ったまま、水が落ちるのを待ちます。そのまま、しばらく経ってまた水につけて、じっと待って……を3回ほど繰り返し、枠から漉き桁を取り出しました。
「これは《溜め漉き》と言って、ゆすったりしない分、初めての方にも簡単に試してもらえるんですよ」
なるほど、とスタッフさんの説明を聞いて、早速筆者もチャレンジ!
教えて頂いたタイミングを守ることに専念し、水をすくって、じっとそのまま待って……それを何度か繰り返し、枠から桁を外します。確かに、すごい簡単!
よそで何度か紙漉き体験をしたことがありましたが、やはり漉き桁をゆするのが難しいんですよね(それが醍醐味でもあります)。でも、溜め漉きはシンプルな工程で、結構綺麗に紙が漉けるので、これは初心者にも嬉しい製法だと感じました。
あっという間に半紙を漉き終わり、次ははがきに! はがきは通常の紙より強度が求められるので、水につける回数を増やして行いました。
漉いた紙を乾燥させる、現代の知恵――カギはベビーパウダーとヘラ?!
「それじゃあ、漉いた紙を乾燥させるため、板に移しましょうね」
スタッフさんがそう言って、乾燥用の板を持ってきてくださいました。おお、和紙漉きっぽい……! しかし、そのあと出てきたアイテムに思わずびっくりしました。
「これをつけておくとね、板から紙が離れやすくなるから」
そう言ってスタッフさんが取り出したのは………………えっ?
ベビーパウダー……だと……?!
手慣れた調子で板にベビーパウダーをはたいたスタッフさん。言われるがまま、板に漉いた紙を張り付けていく……のですが、そのままではどうしても気泡が入ります。このままでは紙の仕上がりがべこべこになってしまう!
そんなとき差し出されたのは……お好み焼きのヘラ!!!
ヘラで気泡を潰しながら、こうしたメソッドはどのように生まれたのかあまりにも気になってスタッフさんにお尋ねしました。
「紙遊苑にこれまで勤めてきた人たちで試行錯誤したんですよ。それでベビーパウダーやヘラを使うのがいいってなってね。それで代々受け継がれてきました」
聞けば、高野紙を生業として生産していた職人さんは、紙遊苑ができる前に引退されたそう。紙遊苑の苑長さんやスタッフさん方は道具や知識が不十分なまま手探りで運営を続け、現在に至るとのことです。ベビーパウダーやヘラは、その過程で見いだされたんですね。
和紙の製法が体系化され伝統とされるまでには、長い年月がかかりました。その中で、人知れず廃れたメソッドも多数あったことでしょう。それでもそのときそのとき、場所柄や状況に応じて、最適な方法を人々が模索したのは想像に難くありません。
そう考えると、このベビーパウダーやヘラも、現代に残る、生きた和紙漉きの一部、と感じられました。和紙も、文化である前に技術。そして、技術は使う人の手によって形が変わっていく。そう改めて深く考える貴重な体験でした。
素敵な和紙漉き体験をさせてくださったスタッフの方にお話を伺いました!
「人と話すのは苦手だったけど……」スタッフ・栗川さんの想い
今回、和紙漉き体験を教えてくださったスタッフ・栗川万須美さんにお話を伺いました。
栗川さんが紙遊苑に勤め始めたきっかけは、前任の方に誘われてのこと。ちょうど退職して畑をいじるくらいしかやることがなく、せっかくだからと引き受けたそうです。
実は、まだ勤め始めて3年目。それでも教える動作はテキパキされて、説明も堂に入ったものでした。お話も、高野紙のことを始め、地元や高野山にまつわるエピソードなど多岐に渡り、非常に勉強になりましたが……意外な一面も。
「実は、人と話すのは苦手と思っていました。でも、ここ(紙遊苑)に来る人は熱心に聞いてくれる……もっと話していいんだって、思えたんです」
現在、紙遊苑を切り盛りするのは栗川さんと苑長である下西さんのお二方のみ。限られた手数の中で、それでも来た人に楽しんでほしいという栗川さんの気持ちが伝わってきました。
絶景も楽しめる! 紙遊苑で和紙漉き体験してみませんか?
体験は要予約! 事前にお電話を!
前述通り、現在紙遊苑は2名体制で切り盛りされています。そのため、和紙漉き体験は事前の予約が必須です。
今回ご紹介したもののほかに、材料の準備から丸っと体験できるコースもあります!(詳しくはこちらの記事にて!) ただ、こちらは日程の調整が必要になります。くれぐれも余裕を持ったご予約を!
山の上にあるからこその絶景……アクセスには九度山タクシーがオススメ
グーグルマップで見ると徒歩30分なんですが、高度がガン無視されていますので罠です。最初の15分は鼻歌交じりで歩いていられますが、後半15分はそこそこガチめの山なので、タクシーを使われることを激しくおススメします(調子に乗って行きかえり歩いて翌日死んだ筆者より)。
タクシーは駅前で拾えないこともあるので、地域に根差した九度山タクシーがおすすめ! こちらもできるだけ事前にご連絡ください。
一味違った和紙漉きを体験できる紙遊苑に、行ってみよう!
江戸時代から残るお寺や庵というシチュエーションや、よそではなかなかできない体験も用意されている紙遊苑。パッケージングされた観光とは違った体験をしたい……そんな方に、とてもおススメです!
資料館となっている建物は茅葺で、見ごたえがあります。一度葺き替えたものの徐々に老朽化が……ふるさと納税で支援できるそうなので、伝統的な建物をおすきな方はぜひご検討ください。