第2回 きっかけは山登り。キャンプでの暮らしを日常に虹野朝子さん ― 回転式コンポスト・木枠コンポスト
いろいろなコンポストを実践する人やグループを訪ね、そこで出会った人々の生き方や社会、自然とのかかわり方を綴るnoteでの連載。
初回は、行きつけのカフェの常連さん仲間、虹野朝子さん。山登りが趣味の朝子さんは、夏には東京の暑さを逃れ、サクッと上高地へキャンプにでかけていく。キャンプ用品は自宅でも大活躍! 休日には、庭に折り畳みチェアを広げて、バーナーを使ってコーヒーを淹れてみたりと、ピクニック気分を楽しんでいる。そんな朝子さんが、庭で回転式のコンポストを使って生ごみを堆肥化しているという。
「回転式のコンポストってどんなものなんだろう?」早速、見学に伺った。
朝食のサラダくずをコンポストに
まずは、野菜たっぷりの朝子さんの朝食から紹介したい。お皿にこんもりと盛られたのは、ケール、ルッコラ、セロリといった葉物野菜にカボチャやトマトといった緑黄色野菜。サラダには、レモンのハチミツ漬けで作った自家製のドレッシングをたっぷりかけた色鮮やかなサラダだ。
「毎朝のサラダで、野菜のくずや果物の皮がたくさん出るから、これを土に戻したいって思ったのね」。そう思い立った朝子さんは、早速、ネットをチェック! 数あるコンポストの中から、「なるべくシンプルな仕組みで手間のかからないものを」と回転式のコンポストを購入。コンポスト生活をスタートした。
スタートから2年。順調にコンポストライフを送る朝子さんの暮しには、山での体験が日々の生活に活かされている。
山登りから気づいたごみへの意識
「山に登るのは、自然と交わりたいから。だから、ごみをできれば出したくないのね。山に持ち込んだものは、もちろんすべて持ち帰るんだけど、ある時、山で使った大量のガスカートリッジを見て思ったの。山でごみを持ちかえったとしても、じゃあ都会でごみを出していいのかって」。
以来、朝子さんは、使い捨てのガスカートリッジを詰め替えできるアルコール燃料に変えたり、食材入れに使ったジップロックを洗って再利用するようになった。朝子さん曰く「ささやかだけど自分でできること」を取り入れる中、日常の暮しの中でも気づきがあった。
「テント暮しをきっかけに、食器洗いにヘチマを使うようになったのね。なぜかっていうと、山ではお皿を紙で拭くんだけど、だったら家の食器には自然素材のヘチマを使ってみようって。へちまは形はいびつだし、ボロボロする。スポンジと比べれば、便利ではないけれど、汚れは十分に落ちるし、使っていて不自由さはないわね。くたくたになったらコンポストに入れれば、自然に戻る。ヘチマは素晴らしい道具よ」。
台所にポンと置かれたヘチマ束子は、家の庭で育てた自家製ヘチマ。庭で栽培し、使いきり、土に還す。いわば完全循環型のスポンジだ。
回転式のコンポストで堆肥づくり
山での気づきを日常の暮しに。朝子さんは、毎朝、一軒家のガレージに置かれたコンポストに生ごみを投入し、ガラガラと回転させる。コンポストが回転することで、中身が攪拌できる仕組みだ。
回転式コンポストの使い心地を聞いてみると、
「夏場はいっぱいコバエが集まってくるし、臭いもするわね。1年目はアメリカミズアブが、卵を産んで幼虫がいっぱい生まれて、びっくりしたけれど、虫が入ることで分解が進むことを知ってからは、次の夏からはこれが来ないと寂しいなって(笑)。でもね、これって、考えてみるとすごく自然なこと。虫がわくようになると、近くでヤモリを見つけるようになったりして、自然ってつながっているんだよね」。
虫が苦手でコンポストを挫折してしまう人も多い。けれど、朝子さんは虫が分解者の一人であることをすんなりと受け入れている。また、虫が増えることでヤモリを発見したりと、庭全体の生態系へと意識を向けているのだ。
庭の恵みをジャムや化粧水に
コンポストでできた堆肥を自宅の庭の草木や花に与えている。柚子や茱萸(グミ)、ユスラウメなど、庭にはご両親が植えた実のなる木が、毎年、たくさんの実をつける。
「柚子の皮や実はジャムにして、種は化粧水に使っているの。庭で出来たものをひとつでも無駄にしたくないのね」。
お土産にもらったお手製のユズジャムは、お世辞抜きに今まで食べた中で一番の美味しさだった。朝子さんの自然の恵みを慈しむ気持ちが、ジャムのやさしい甘さにつながっているのかもしれない。
できることを少しずつ広げて
コンポストをはじめて2年あまり。「ごみの量が劇的に減った」という。なんと、燃えるゴミに出すのは、3週間に1度程度、25ℓ1袋程度! その少なさに正直驚いてしまった。恥ずかしながら、我が家の燃えるゴミの量は、1回(1週間に2回)につき30ℓ1袋。少なくてもスーパーのレジ袋1袋は出る。
「ごみの減量は、いきなりじゃなくて少しずつ、できることを増やしていった感じかな。スポンジをヘチマに変えたように、これができるんだった、あれもできるかなって。だからって、生活すべてをストイックにしているわけじゃないの。例えば、夏の暑さが厳しい時は、部屋に冷房をきっちりかけて過ごしているし、無理をせずできることはやるけれど、できないことはあきらめてるの」。
無理なく続けられる理由は、朝子さんの心地良さのルールにもあるようだ。
木枠コンポストをスタート
今春、朝子さんは庭の落ち葉を堆肥にする木枠コンポストをはじめた。
「家のまわりをコンクリートで固めてしまうんじゃなくて、ささやかだけどできるだけ緑を増やしたいと思って」。
リビングに面した庭には、ヘチマで緑のカーテンが夏の強い陽射しを遮ってくれる予定だ。
豊かな生き物たちを育む庭
取材後、庭で朝子さんがキャンプ用のチェアを出し、コーヒーを淹れてくれた。コーヒーを飲みながら、空を見上げてみる。さわやかな風とともに雲がゆっくりとたなびいていく。こんなにゆったりとした時間を過ごすのはいつぶりだろう。すると、庭のユスラウメや梅の木にメジロがやってきた。ツィーツィーと可愛らしいさえずりとともに、枝から枝へと跳ねるように飛んでいった。晴れた日には、芝生の上で日本トカゲやカナヘビ(トカゲの一種)が身体を温めている姿を見かけることもあるという。都心の住宅地という小さな空間の中に、たくさんの命が生きる環境が育まれているのだ。
山登りで感じた小さな気づきから広がっていった小さな循環の輪。その一部にコンポストがある。朝子さんの庭は、都会の一角にも豊かな生態系が育まれていること、そして私たちが自然の一部であることを気づかせてくれた。
※取材を終えて
取材から1年。「ユスラウメが実ったわよ」というお誘いの言葉に導かれて、久しぶりにお宅を訪ねてみた。1年経って、朝子さんは回転式のコンポストをお休みし、生ごみはすべて木枠のコンポストで堆肥化するようになっていた。
回転式のコンポストの場合も、投入するものは、野菜くずが中心で動物性の生ごみを投入していなかったから、木枠のコンポストでも十分、土や落ち葉とともに分解できるという。
自分に合ったコンポストを使いながら、選んでいく。朝子さんのやわらかな思考を私の暮しの中に取り入れたいなと思ったのでした。