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ハラスメントの事実認定(1)解決には必須!聴き取り調査で絶対に押さえるべき2つのポイントを解説
こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
ここまで、ハラスメント対応に必要な視点や基準、心構えについて、かなり実践的にお話してきました。
ここからは、2回に渡り事実認定の実践方法についてお伝えします。
被害者が訴えるハラスメント行為について「本当にあったのか、なかったのか」を、どのようなプロセスで認定するのかということです。
最も重要でありつつも、正直、事業主やハラスメント窓口の担当者にとって最も難しい点でしょう。これを、いくつかの視点からお話しようと思います。
まず今回の記事では、聴き取りをする上で絶対に押さえたいポイントを2つお伝えします。
中小企業や非営利組織においてハラスメントが発生した場合、まず被害者や・加害者への直接対応を行うのは、通常、事業主かハラスメント窓口の担当者などです。ハラスメント対応に明るい弁護士が最初から対応することは、そうそうありません。
私(弁護士)の下へSOSが届くのは、初期対応のまずさから拗れに拗れてしまったあと、ということがほとんどです。最初から弁護士に任せてもらえれば……とも思いますが、お金もかかりますし、心情的に難しい気持ちもよくわかります。ですから、事業主の方は、このnoteをよく読んで、対応方法を学んでくださいね!
必要なのはファクトベースの聴き取りと調査
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ファクトベースという、考え方があります。もともとは、「事実に基づいて考える」ことを意味するコンサル用語です。対義語は「感覚ベース」というと、イメージをしやすいかもしれません。
ハラスメント調査におけるファクトベースもだいたい同じ意味ですが、単に「事実に基づいて考える」というより、評価をできる限り取り除いた、ファクト(生の事実)にこだわるところが特徴です。
わかりやすいように少し例を見ていきましょう。
Aさんが、Bさんに対し、ひどいことをした
これは、話し手からすれば「ひどいこと」という事実(真実)なのですが、「具体的に何をしたか」が不明である一方で、「ひどい」という主観的な評価が加わっています。
ハラスメント調査では、「ひどい」ということは、事実に対する評価と考えます。そして、評価を根拠付ける事実こそがファクト(生の事実)、と考えましょう。
「セクハラをした」という場合もそうです。単に「セクハラをした」というだけでは事実に対する評価ですから、セクハラを根拠付けるファクト(生の事実)が肝心です。
Aさんが、Bさんに対し、大きな声で罵(ののし)った
先ほどよりは、少し具体性が出て、ファクトに近づきました。
しかしまだ、「大きな」とか「罵った」という、主観的な評価が加わっています。
「大きな」という評価を根拠付ける事実や「罵声」という評価を根拠付ける事実を示さない限りファクトではない、と考えるのです。
Aさんが、Bさんに対し、隣りにいたCさんの声が聞こえなくなるほど大きな声で罵った
声の大きさについて、かなりファクトに近づきました。
欲を言えば、「隣りにいたCさんの声が聞こえなくなるほど大きな」というのも主観的な評価ではあります。なぜなら、人によって音の聞こえ具合は異なるからです。
ただ、これよりもっとファクト(生の事実)にしようとすると、例えば「80dBの音量で」などというように数字に置き換えることになります。本当はそれが望ましいですが、騒音計や録音をしていない場面ではあまり現実的ではありません。
そういった点を踏まえると、出来る限りファクト(生の事実)に近づいたといえる表現かもしれません。
続いて、後半部分をさらに具体的に聞き取っていきましょう。
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Aさんが、Bさんに対し、隣りにいたCさんの声が聞こえなくなるほど大きな声で、"Bさんは人の気持ちを考えない馬鹿である"というようなことを言った
先ほどの「罵った」に比べると、「Bさんは人の気持ちを考えない馬鹿である」という表現で、ある程度具体化されました。
しかし、「というようなこと」とは、「そのような趣旨」という意味です。つまり、それが本当にAさんの発言そのものかは定かではなく、話し手が認識して記憶した発言のイメージであるという点に気をつけなくてはいけません。
できればもう1段階、このイメージを根拠付けたファクト(生の事実)を抽出したいわけです。
Aさんが、Bさんに対し、80dBの音量で、「B!おまえな! 全然人の気持ちを考えられないから、こんなことができるんだ。お前は馬鹿だ!」と言った。
「」でくくって表記できる、Aが発言した言葉そのものが示されていますね。これでようやく、評価が加わらない生の事実を示したということができそうです。
発言によるハラスメントは、「」で発言内容を抽出しましょう。
ちなみに、最後の部分を「できそう」というやや曖昧な表現で書いたのは、騒音計の数値等による音量の裏付けや、複数人がこの発言を聞いているか否かといった事情から、客観的に見ても「本当に事実か」を裏付ける必要があるからです。今の段階ではまだ、話し手の主観的な評価が混入している恐れがあるので、このような表現となっています。
このように、全てをファクトベースで整理するのは、正直とても大変です。
聞き取りの際には、「そうか。ひどいことをされたのだね。」という共感はもちろん大切です。しかし、「ひどいこと」とか「罵った」だけで聴き取りを終えてしまうと、対象事実の特定すらままならず、加害者と話した際に「私はひどいことなどしていません!」と主張され堂々巡りとなります。
これでは、被害者のためにもなりませんね。
そうならないよう、とにかくファクトベース(客観的にどう事件が起きたのか)で聴き取りを進めるよう心構えをしていきましょう。
記憶は時間が経てば経つほど薄れます。逆にいえば、発言によるハラスメントを受けた場合、記憶が鮮明なうちに、「」で発言内容を抽出して、記録しておくことが大事です。
聞き取りは、かならず時系列を明らかに
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聞き取りの際に絶対に押さえたいポイントの2つ目は、「聞いた話を整理して、時系列を明らかにする」ということです。
被害者(相談者、通報者)は、自分が認識した事実を、自分が重要と認識した順に話す傾向があります。加害者(調査対象者)も同様です。人は皆、自分が認識した事実を、自分が重要と認識した順に話します。
その結果、全く違う話を聞いている気持ちになることがよくあります。
先ほどの例をさらに考えてみます。上記の訴えを受けて、行為者とされるAさんに聞き取りをしたとしましょう。
(注*実際にはもっと色々調べてから、行為者とされる人物への聞き取りをします)
はい、確かにそのように言ってしまいました。しかしBさんは、Cさんの容姿に対する嫌味を毎日しつこく言っており、見かけるたびに注意をしていました。その日は、またそのような発言を耳にしたため、ついカッとなってきつく言ってしまいました。
なんと、いきなり見えてくる景色が変わってしまいました!
もちろん、どちらの発言にもさらなる客観的な裏付けが必要となります。
このように、客観的な証拠や聴き取った内容を時系列順に並び替えてみると、どうも本来あるべき話が抜けていて不自然! 改めて話を聞いたら、実は重大な事実が聴き取れていなかった! なんてことがあります。
ファクトベースで整理した事実を時系列に整理すると、それだけで明確なストーリーが見えてくる場合がほとんどです。ですから、時系列に整理することは面倒くさいですが、この作業を怠ってはいけません。
もちろん、それぞれの内容が一致していることもあり(これを、重なり合っている、という言い方をすることがあります。)、そうすると事実認定を進めやすくなります。
***
ちなみに、もしかしたら第三者Dさんに話を聞くと、こんな風に言われるかもしれません。
BさんがCさんの容姿について嫌味を言っていたのは確かです。
でも、もとはといえばAさんが日頃から、CさんをBさんよりも明らかに優遇していたので、私はBさんのことも気の毒だと思っていました。
こうなると、「もう自分たちでなんとかうまく解決してよ。」と投げ出したくなってきますね。投げ出す前に、どうぞ専門家にご相談いただけますと幸いです。
まとめ
ハラスメントの事実認定をする際の聴き取りで、必ず押さえたい2つのポイントについてお話ししました。
感情に共感して終わらせず、より客観的で具体的なファクト(生の事実)を聴き取ること
面倒がらずに時系列に整理すること
この2つを押さえておけば、事実があったか・なかったかを冷静に判断する(事実認定の)ための資料として、何を調査すれば良いかが見えてくると思います。
次回の記事では、事実認定のための一連の調査の進め方についてお話しします。お楽しみに。