寒露:第49候・鴻雁来(こうがんきたる)
鶴や白鳥や雁が、弓なりの列島に渡ってくる。
この都市ではニュースでしか見ないけれど。
白く大きな翼を持つものたちよ。
V字で飛行を続けるものたちよ。
羽毛のような雲を見て、その不在を紛らわす。
燕は南に帰った。青光る翼で。風を切って、波を躱して。
入れ替わるように北から優雅に使者たちがやってくる。
これが天使でなくて何だろう。
廻る地球の、凍てつく北方からの魂の飛来。
彼らの水を汚さないで、生命巡礼の道を失くさないでください。
賑やかな厳かな歌垣。恋路の邪魔はしないもの。
考えてみれば、こんなに生命に祝福された多島海列島は地上に稀。
祝祭列島は沸き立っている。
さっきビルの14階から街を見下ろしていたら、僕の分身のように、真っ黒いカラスが1羽不意に、ふわっと舞って、空を滑っていった。
あんな風に去っていくのか。
あんな風にはなれないのだ。
もう視界からはぐれてしまった。
墓地のような都市を見て、白い空に残像を追うばかり。
それでも、
やっぱりいつものように、翼もつ彼の生を祝う。
片割れとして。