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ゑ本 古代緑地   Ancient Green Land 18 「歳寒三友 松栗鼠乃助(マツリスノスケ)の巻」

 

その村には 二つある峠のどちらからか 南の海側からでないと入れません

西と北に山があり、東には大きな川があって、南は海

自然の要害に守られて村はありました


村人たちは海山の恵みで長い間幸せに暮らしてきました

豊かな山が豊かな海をつくり 良いめぐりがたくさんのめぐみをもたらしてくれていたのです 海に出るもの 山へ入るもの 里で耕すもの それらを運ぶもの 商うもの 穏やかな四季のめぐりに寄り添ってきた村です


松栗鼠乃助 11

村に入る道の一つ 小松峠には たくさん生えている小さな松の中に 飛び抜けて大きな一本松が立っています

古い 龍のようにうねうねとした幹から峠道側に すうっと伸びる 長い枝の二股で

松栗鼠乃助(マツリスノスケ)はたいていうたた寝をしています 

彼には大切な相棒がいて 名前はリスボン 眼鏡をかけた栗鼠です

彼らはもう千年も一緒に仕事をしています それは この峠を通ろうとする 何かに取り憑かれた魔物たちを祓って 村を密かに守るという役目です 

松栗鼠.001


穏やかな春の日 うたた寝をしていた松栗鼠乃助を起こしにリスボンが慌てて駆け下りてきました リスボンは松の一番高いところで見張っているのです

 「テーヘンダ 起きろ まっつぁん!」

 とリスボンはカタコトで喋ります。

「?むにゃむにゃ。。。 お おはよう リスボン なにが なんだっていうの?」

「どーしたもこーしたもねえもんだ きたよ きたんだよ なんか 変なのが」


手をかざして 下に見える峠道を見てみると 確かに いました なんとも言えず澱んでズルズルした いやあな異様な姿です どろどろして充血した目をして 真っ赤な口の中には牙が見えます 

「あ ほんとだ こりゃあ いけないねえ」

いえ 普通の人には こんな風には見えなくて 歳若い女の旅人に見えるのですが

リスボンの眼鏡と 松栗鼠乃助のまなこには こう見えるのです

頭には悪い虫が付いて 魔物になってふらふらとここまでやってきたのです

村へ入ってしまったら きっと災いが起こります

松栗鼠乃助 2


松栗鼠乃助が取り出したのは 竹でこしらえた吹き矢 

松栗鼠乃助の破魔の道具です

吹き矢に込めるのは 松脂で固め 松露で作った特殊の液体をくぐらせ 琥珀で磨いた松葉の矢 

これをフッと飛ばすのです


魔物が峠に差し掛かると リスボンが幹を伝って走り出て足止めにかかります

それに気がついた悪い虫と 格闘が始まりました


その隙に 松栗鼠乃助が 狙いを定めて

吹き矢に息を吹き込みました!

翡翠色の松葉の矢は 煌めきながら 旅人の眉間を 突き抜けます

痛みは何もありません エメラルド色した天国の風景が一瞬見える そんな感じです 

松栗鼠乃助 12

射抜かれた旅人はパッタリ倒れ 

黒い影がそこから逃げ出しました


リスボンはリスボンでとうとう虫を追い詰めます ほっぺに貯めた松の実を 悪い虫めがけて 機関銃のように打ち出すと

悪い虫は穴だらけになって消えました


するとどうでしょう 黒い影は芝生で苦しみはじめ 黒い灰のようなモヤモヤが 空から何かに引っ張られるようにジワ〜っと引き剥がされていったのです

松栗鼠乃助 13

そこには万歳をして おべべを脱がされたような格好で

可愛い子が座っていました

それもやはり二人にしか見えないのですが

その子はスッと立ち上がると スタスタ歩き さっき倒れた元の体に戻って行きました


やがて旅人はむっくり起き上がり ちょっと不思議な顔をしていましたが

何事もなかったように峠の茶屋の暖簾をくぐって一服しはじめました


これでひとまず 村は安心となります

松に駆け戻ってきたリスボンと松栗鼠乃助はにっこり笑って

松の枝に並んでお茶をすすりました 風が鳴らす松籟に耳を傾けながら リスボンは言いました

「いい仕事したな アイボー」


松栗鼠乃助 1

松栗鼠乃助は松から降りたら死んでしまうのです

でも松そのものでもありますから寂しいはずはありません コズミックなエネルギーの呼吸の中にいて その中をずっとみんなと泳いでいるのですから

今宵は春朧の満月 月の光の夜を泳ぐのは格別です


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『歳寒三友』は三つで一つのお話です

かつて村人たちは目に見えたり見えなかったりする彼ら精霊のことを言い伝え 彼らの力をお裾分けしてもらい その力に肖ろうとしてきました 例えば「門松」はそんな物語を伝えるものなのです

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