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夏至;第29候・菖蒲華(あやめはなさく)

ノハナショウブ。

江戸時代に伊勢系、江戸系、肥後系など、たくさんの品種が作出されることになる日本に自生する花菖蒲の親。カキツバタや陸生のアヤメはむしろその野性味が尊ばれたのか、変わり種が少ない。ハナショウブの園芸品種の多さは別格だ。

アヤメの仲間はどれも万緑に紫が映え、五月雨の露に色っぽくもある。葉の形は刀に見立てられるように、空を指す様子が凛々しい。

田んぼを作るような湿地にかつてはたくさん生えていたことだろうから田んぼ仕事の目印ともされただろう。サトイモ科の通称ニオイショウブ(菖蒲湯として端午の節供に欠かせない)も同じような環境に育つ。

アヤメの語源は綾なす目 蜜の在処を示すネクターガイドは昆虫たちの目印となる文様。その文様の特徴はアヤメ科でもそれぞれで見分けるのに便利だ。もしくはスッと伸びる葉が「文目=条理」を表すとされる。紫という色彩から漢字では綾女や漢女などとも書かれ、伊勢物語のカキツバタの歌は「唐衣きつつなれにし、、、」だから、異国あるいは身分の高い女性を想起させる。アイリスはirisで虹の女神。

(下の写真は陸生の文目)

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端午の節供も今では男の子の節供となっているけれど、元々はシンプルな禊の行事だったのだろう。梅雨である五月雨がその名の通り「さ」の神の恵みの水であるようん、黴雨とも書く梅雨の長雨が悪い病をもたらさないように、癖邪として香りの強いニオイショウブとヨモギを茅で束ねて屋根に葺き、蔓にしたり、それで地を打った。菖蒲湯に浸かって身を清めると同時に花の精を身体に満たした。

鹿の占狩には文目科の紫色で衣を染めたとされる。武士が力を得る中世において、武張った行事へと変わっていったようだ。文目の仲間は花を兜に、蕾の時は槍に、その葉を刀に見立てられるようになっていく。菖蒲は「勝負」や「尚武」と読み替えられた。

匂いは「丹生ひ」。

ノハナショウブもニオイショウブも同じ薬として、奇しきクスリとして、大地から処方されている。




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