ゑ本 古代緑地 Ancient Green Land 20『歳寒三友 小梅熊太夫(コウメクマダユウ)の巻』
松栗鼠乃助の守る小松峠 竹久兎之氶の守る細蟹(ささがに)の道に続いては 小梅熊太夫が門番をする 海からの道 小梅洞門 のものがたり
小梅熊太夫のパートナーは パワフルな熊のクーマン
海へと続く洞門をくぐると梅林が広がっています 村へ入るには 大きな崖にポッカリ空いたこの自然の門を潜るのです
二人が守る梅林は今日もお日様が差し込み 山からの清水と風に包まれて 生き生きとしています 梅林の入り口にあたる洞門の横にある梅の木のウロのお家では 小梅熊太夫が鼻歌交じりに 梅干しを仕込んでいます
二人が守る梅林は 桃源郷のようです 海から戻った村人は 帰ってきた幸せを感じ 旅人は夢かと見紛うのです
クーマンは 梅守りの庭師です。そして日夜パトロールに励んでいます
花の時期は終わり梅雨時 「梅子黄(梅の子黄ばむ)」のとき
梅の実が色づく 長雨の頃 梅林はいい匂いが漂っています
ある夜 巡回中のクーマンは そこに別の匂いが混ざっているのを嗅ぎつけました
夜雨に乗じて紛れ込んでいたのは 大量投棄されたゴミの怨念が形になった襤褸(ボロ)という物の怪でした
クーマンが待ち伏せして 大きな声で脅すと それは 海へ逃げ帰って行きました。
気を良くしたクーマン 翌朝 小梅熊太夫特製の 海苔を巻いた梅干し入りおにぎりを頬張りながら 自慢しました
「わけねーぜ あんなの」
でも小梅熊太夫は いい感じがしませんでした
「今度は 呼んでよ 一緒にやらないと ダメよ」
ちゃんと祓ってあげないと良くないことが起こるのよ、、、
「ちょっ 」
クーマンはあまり面白くありません
寒い寒い冬を越えて 梅の蕾が膨らむ季節になりました
クーマンはパトロールがあるので冬眠はしませんが 熊ですからこの頃は本当に眠いのです
そして お腹が空いています
クーマンは まだ明るい時間に 川を遡る怪しげなものを見つけました
クーマンの好きなお魚の形をしています 少しいびつだったのですが
空腹のせいもあって ついふらふらと その魚を獲って噛り付いてしまいました
実はこれが大きな罠
偽物の魚の腹には疫病の元がたくさん詰められていたのです
立っていたクーマンの手から ぽろっと魚が落ちました
クーマンはドウッと倒れ
海風が村へ疫病をはびこらせてしまいました
異変を感じた小梅熊太夫は 小川沿いで痙攣しているクーマンを見つけました
クーマンは梅の木の古木のウロに隔離され
小梅熊太夫によって 膏薬を塗った布で包まれ 薬草を燻らせた室に寝かされました
小梅はひとりっきりで
大きなクーマンの手当てだけでも大変です
梅林いっぱいの白梅たちの蕾に頼みました
「どうか一斉に花を咲かせてちょうだい」
蕾は揃って一斉に開花し その香りが 毒を中和して行きます
さらに白梅とともに天へよびかけると 雪が舞い始めました 冷たい雪は 疫病の活動を抑え 冬眠状態にしたのです
梅林に昼夜を問わず雪と白梅が舞い続けました
小梅熊太夫は瀕死のクーマンの看病を続けながら 毒を吸った村人には 特製の烏梅に熊の肝を混ぜた丸薬「小梅丹」を飲ませました 小梅熊太夫の獅子奮迅の活躍で 村人はたくさん助かりました
でもその代わり 毒を浴び続けたために みるみるやせ細って小さくなって行きました
全ての村人への施しが終わると 梅林の中心にある大石にもたれて少しホッとしたように微笑んでいましたが そのうち ずるっと 崩れ落ち 梅の花と雪が降り積もった地面に臥して そのまま冷たくなっていたのです
この時はもう一粒の梅の種ほどの大きさになっていました
うなされ続けたクーマンは 夢の中で 笑っている小梅熊太夫に会いました
クーマンがそばへ行くと スッと遠くへ行ってしまいます
そんなことを何度も繰り返すうち 梅林の川のそばにある大きな石の中へ消えて 見えなくなってしまったのです
毒が抜けた クーマンは目を覚まし、ガバッと飛び起きると 小梅熊太夫を呼びながら 梅林を駆け回りました
恢復した村人たちも探しました
でも見つかりません
ふと夢の最後を思い出したクーマン 大きな石のところへ駆け出します
すると巨石の足元にコロンと 赤く宝石のように光っている梅の種を見つけました クーマンは叫びました
「小梅ぇーーー〜っ!!」
クーマンは泣きながら 梅林の真ん中にあるこの大きな石の近くに 種を植え 土を盛りました
クーマンや村人の涙が注がれました
白梅ばかりだった村の梅林にはそれからずっと紅一点の紅梅が咲き続けています
今ではどの木よりも 大きく枝を張って 濃い紅色の花を 咲かせています 濃い梅の香りは 海の風にのり 村を包みます 目白や鶯がたくさんやってきて 歌を競い合っています
梅雨時に色づく梅の実は そのままで「小梅丹」としてお薬になったので
村はそれからもずっと豊かで長寿の村なのです
クーマンはもう腰が曲がり白髪が増えて白くまの様になりました
今でもパトロールを続け 梅林と洞門を守っているそうです
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『歳寒三友』は三つで一つのお話です
かつて村人たちは目に見えたり見えなかったりする彼ら精霊のことを言い伝え 彼らの力をお裾分けしてもらい その力に肖ろうとしてきました 例えば「門松」はそんな物語を伝えるものなのです
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