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小満;第23候・紅花栄(べにばなさかう)

 中東あるいはエジプト原産と言われるベニバナ、本紅で有名な紅花の咲くのはまだ先。

「半夏ひとつ咲」ともいうから咲きはじめは夏至の末候。


  まゆはきを俤(おもかげ)にして紅粉(べに)の花(芭蕉)
  行く末は誰が肌触れむ紅粉の花(芭蕉)

と奥の細道巡礼で芭蕉が詠んだのは、今の日付に換算すると7月中旬となるようだ。

 まゆはきは「眉掃き」「眉刷毛」で、おしろいを叩いた後 眉についたそれを払うもの。江戸時代のお化粧は白と紅とお歯黒の黒だったから、眉を描く必需品。紅花の形がこの眉刷毛によく似ていて、萼に棘はあるものの、この花自体は柔らかい。

 時期を考えると果たして紅花なのかと思う。昔から議論にはなっているようだ。

 紅花を「ベニバナ」と読むか「コウカ」と読むかで変わってきます。コウカなら、紅い花全般を指します。この花はちょうど今頃咲き誇る紅い花=サツキツツジではないかとする説もあります。

躑躅の種類は日本列島にとても多いし、江戸時代にはいろんな種類も作出され、サツキツツジの盆栽も流行ったそうなので、確かにそんなこともあるのかもしれない。


 でもきっとこれは芭蕉ではないが花の「おもかげ」を見ていると思いたい。

 小満の光や雨に大気を渡る風に、紅花の尖った葉は空へ空へと菩薩のように手を広げ、太陽に向かって差し出し、息をする。根は天体の奥へ、その分茎は健やかに天を目指して伸び上がる。花は満ちて咲くその時を待ってまだ夢の中。

 そんな緑綾なす世界に既に人々は鮮やかなくれないの花を幻視しているのだろう。朝露に光り、夕焼けと燃えるその花を。

 太陽が夏至に向かって盛んになっていく。それと同じように、紅花という太陽の分身もまた静かに緑の炎として燃えはじめている。

 24節気72候は「予祝」だったのだ。



毎年七五三の頃に赤坂氷川神社さんで国内唯一の紅匠「伊勢半」さんと紅についてワークショップを続けています。

↑だいぶ昔の記事ですが。


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