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査定員Xの大笑

去年の年末、ポストから「買取キャンペーン」のチラシを掘り出した。
こりゃちょうどいいぞと思った。

上手に断捨離できないくせに買い物はまあまあ好きな私だから。
いくら(主にオンラインの)買い物で失敗してもやはり学習せず、一時的な快楽を味わうためにまた過ちを繰り返す。

そりゃ高価なものじゃなければ、自分の過ちに気づかないフリをするのもそう難しくない。
しかし限界を迎えた収納スペースを目の前にし、不要なものを処分しなければいけない時期が迫ってくる。

さぁ、どうする!
って時にそのチラシが彗星のごとく現れた。

わくわくしながらチラシに書かれた電話にかけて、キャンペーンを申し込んだ。

そして当日。



やってきたのはいかにも「ザ・営業マン」という感じの男性。
整髪料たっぷりつけた、「ザ・営業マン」という感じの髪型。腰が低い、「ザ・営業マン」という感じのスマイルで名刺を渡してくる。
私は名刺の代わりに、洋服をぎゅうぎゅうに詰め込んだ45Lのビニール袋を彼に渡す。

しかし洋服のチェックやその辺の話はせず、彼はまず自社事業の紹介をし始めた。
こういうものを買い取ってますという旨の話を終え、質問をぶちかまされる。

「不要なブランドものだったり、カメラとかはありますか?」

ですよね。そう来ますよね。


だってブランドものじゃない服を買い取るなんてキャンペーンはあくまでマーケティング施策の一環ですもんね。
要は中古品を取り扱う業者が買取キャンペーンをフックにターゲット層に広くアプローチしてキャンペーン経由で買取を申し込む人には対象品以外の品物も査定や買取提案を行って願わくば一度でより多くの商材を確保することが目的ですよね。

そういった業者が最も確保したいであろうブランドものやジュエリーやら貴金属やらは私が持っていません。
持っていたものはとっくに処分済みですわ。


なんか申し訳なく思えてきた私が、躊躇しながらもこう告げた。
「・・・は持ってないですね。」

「あ、持ってないですか?」こりゃ困ったなという顔。「○○とか、△△とかも買い取ってますよ」

「・・・も、持ってないですね。」申し訳ない。

「そうですか・・・じゃあお洋服のチェックしますね!」

「はい、お願いします。」

ビニール袋に詰め込んだ服の数々は確かにブランドものではないけど、決して安価なものでもなく、人生の段階ごとの私の審美眼やライフスタイルの変遷を語る品ばかりでした。


ザ・営業マンの査定員が慣れた手つきでもくもくとチェック作業を行う。沈黙の中、彼は顔で盛大なため息をしたように見えた。

「問題ないですね!」それでも職業柄か、明るい声で話してくれる。「ほかに○○とか、△△とか、本当に持ってないですか?壊れたものでも全然大丈夫ですよ!」

2ターン目キターーーーーー!
それでも私は持ってないねん!

「持ってないですね・・・」すまないな、あんちゃん。

ここで彼の肩が垂れ下がったような残像が見えたかもしれない。

そこからしばらくまた向こうが何か作業するのを私が見ているだけの時間になるが、その沈黙がやや耐え難い私が査定員に話しかけた。

「若い頃はブランドものに興味を持ってたら何か持っているかもしれないけど、あんま興味ないんですよねー」
ちょ、一応慰めるつもりで言ってるけど、なんか「ブランドものを持っていない」ことに対する言い訳になっとるやないか!

「あ、あはは」

「ジュエリーも金になるものはとっくに処分したんですよね。なんかすみません~」
ちょ、「金になる」とか生々しい表現はやめろよ!あんた淑女でしょう!

「あはは」

「楽器も持ってはいましたけど、そっちも処分したんですね。」
そりゃでっかいものは処分したいタイミングで処分するもんだよな。いつ来るかもわからない買取キャンペーンを待つわけにもいかないよな。

「そうですかー」

「いま猫もいるし、自分よりも猫に金かけちゃうんですよね」
これはいわゆるコミュ障がパニクって口走る現象になります。ちゃんと自分にも金をかけてます。

(3ターン目挟んでの中略)

という気まずいやりとりもひと段落つき、ザ・営業マンの査定員もそろそろ帰るというしぐさを見せる。

外回りする業種の大変さへの感心もあり、力になれなかった申し訳なさもあり、心を込めて最後に締めの一言を。
「キャンペーンの恩恵だけ頂いてしまって、御社に利益をもたらすことができなくてなんかすみませんね」

「あはは、いーえいーえ。ありがとうございました。」

と、終わり。

あははってなんだよ!!!!!!!!!!!!


とはいえ、その人は厳しいノルマを課せられているかもしれないし、その場合、確かにこういった言葉は屁でもないという気持ちもわからんでもない。

その人の需要にあってるかどうかってこと。
めちゃめちゃメンタル弱ってる人には札束よりも暖かい言葉が必要かもしれないけど、営業マンにはやはり実利が一番大事だよね。




でもこっちの個人情報までとっといてやはり「あはは」はないわ!


まあ、仕事頑張って!
私も仕事探し頑張るわ。

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