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<料理>カレーロードが開かれた
今でこそ、カレールゥを卒業して、スパイス各種からスクラッチでカレーを作るようになったわたしだが、その昔は「四角いアレ」を割って使っていた。
「とあるきっかけ」までのわたしがカレー粉でカレーを作ったのは、小学校の調理実習のフィナーレでだけ。
カレーといえば、「四角いアレ」=ルゥを使うのが「普通」だった。
そんなわたしが、人生2回めの「ルゥを使わないカレー」を作ったのは、もういい大人になってから。
わたしは当時「セイシュンの食卓」で大ブレイクした、たけだみりこさんが大好きで、かの女が4コマ雑誌で連載していた作品を愛読していた。
その漫画「たけだみりこの極楽ゴハン」は、「セイシュンの食卓」同様に「4コマ漫画+絵付きの簡単なレシピ」で構成されていてわかりやすく、材料も身近で作りやすかった。
そのなかに「ルゥを使わないカレー」、つまり「カレー粉から作るカレー」のレシピがあったのだ。
作り方を読むと、小学校のときに作ったのとは違って弱火でじーっと小麦粉を炒める必要もない。
これなら簡単そうだ…と思って作ってみた。
これがわたしの「とあるきっかけ」。
「中近東風カレー」と題されたそのカレーは、材料をすべて大鍋に入れ、手で全体をよくもみ込んだら鍋のふたをして一晩ほったらかし、翌日にそのまま弱火でコトコトするだけ…という簡単なもの。
生の鶏肉を使うため、夏場なら鍋を冷蔵庫に入れなくてはならないが、そのときはたまたま冬だったので、玄関先のいちばん寒い場所で一晩ほったらかしておいた。
正直、この「カレーのもと」がコトコトするだけで「食べられるカレー」になるなんて、ちょっと信じがたかった。
スープはおろか水だって一滴も入っていないし、小麦粉も入ってないのだ。
翌日、作り方に従って、鍋にふたをしたまま弱火でコトコト。
ときどき様子を見てこげつかないように返してやり、2時間くらいも経ったろうか。
なんと、鍋の中はきちんと「食べられるカレー」になっていた。
水を一滴も使わないカレーだが、鶏肉と野菜の水分でこげつきもないし、煮くずれた野菜で適度にとろみもついている。
支配人はちょっとモッタリしたカレーが好きなので少し煮詰めたから、合計で2時間半ちょっと、煮込んだ記憶がある。
できあがったときには、家中に今までとは違う、シャープでほんの少し苦味のあるカレーの香りが漂っていた。
できたてをごはんにたっぷりかけ、一口ほおばった、そのとき。
わたしの「カレーロード」が、開かれた。
とはいえ、それ以降もまだ、ルゥを使うカレーは作っていた。
そして、この「中近東風カレー」もまた、レシピを見なくても作れるようになったくらい、よく作った。
やがてわたしはアメリカにわたり、「ルゥで作るカレー」を一応、卒業した。
マバニマサコさんの著書と出会ったからだ。
試しに、と作ったチキンカレーが美味しくて、スパイス4つほどを持っていれば作ることができるマバニさんのレシピを、繰り返しくりかえし作り続けた。
やがて本には折りグセや油染みがつき、中古書店でも買い取ってくれないくらいになってしまった。
そんなふうにガンガンと「カレーロード」を突き進んでいたら、そのうち周囲から「Commyのカレーが美味しい」という評判をいただくようになり、そのことがご縁で、水野仁輔さんのイベントのお手伝いをさせていただいたりもした。
その際に水野さんの著書たちと出会ったことで、ますますわたしの「カレーロード」は広く深く、開かれて行った。
スパイス棚には数十種類のスパイスが並び、インド人街やインド系のスーパーマーケットでレジのお姉さんに顔を覚えられるくらいに大量のスパイスを買い込むようになった。
今では「中近東風カレー」もカレー粉からではなく、自分でスパイスをブレンドして作っている。
そうしてスパイスからカレーを作れるようになり、「添加物を避けること」を生活の命題のひとつにしている現在。
「カレールゥを使う」ことは、わたしの選択肢から完全になくなった。
この「カレーロード」は、まさしくあの「中近東風カレー」が開いてくれたものだと言っていいと思う。
ルゥを使わなくても、美味しいカレーはできる。
このことを教えてくれた、大切な一品だ。
もうすぐ冬を迎えるファーマーズ・マーケットからピーマンがなくなる前に、もう一度、作っておこうと思う。
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