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続・母の不思議な肉料理
わたしは、20代前半で実家を出た。
好きな人と一緒に暮らすためだったけれど、狭い団地ぐらしの相部屋を、大学生になった弟に譲ろう…という気持ちもあった。
実家にいたときには、アルバイトという形で一応は会社に勤めていたものの、それ以外は自室で絵を描くか、漫画を読んでいるか。
他の時間は台所に張り付いて、母の調理する様を見ていたり、時にはちょっとしたことを教えてもらったり、手伝ったりしていた。
長いこと氣がつかなかったが、わたしはどうやら「子どもの頃から料理が好き」だったようで、実家住みの末期にも、週末や休日に家族のかんたんな昼ごはんを作ったりはしていたものの、母が祖父を看取るために長期で不在になった時期の他は「夕食を作る」ということはなかった。
しかし。
実家を出たからには、夕食を作ってくれる母はもういない。
引越し先では、支配人の妹と支配人と自分の夕食、3人前を作らねばならなくなった。
仕事はそれぞれしていても、みんな20代前半で、お金がない。
さらに言えば、引越し先には弁当や総菜を買ってどうにかできるような店はなかったし、コンビニ弁当や持ち帰りが当たり前の時代でもなかった。
車を出さなければ、手軽に食事ができるファミレスやラーメン屋や焼肉屋にも行けず、駅前にあるのはチェーン系の居酒屋だけだったが、毎晩そういった店で食べるような余裕はない。
なので、安く、美味しく、適度にボリュームがあって、満足できる。
そんな夕食を、作ることになる。
そんな時代、わたしがよく作っていたもののひとつに「ささみのフリッター」がある。
現在、同じ名前やキーワードで検索してみると、チーズだのハーブだのイタリアンパン粉だのと非常にリッチで豪華なレシピがたくさん出てくるが、わたしが母の手元を見て覚えたものは、至極かんたんなものだ。
ささみはお値段がよく、柔らかくて使いやすい。
なので、余裕のない身にはとてもいい食材だった。そこへ「揚げる」というステップを加えることで、ボリュームを上げる。
作り方はかんたん。
ささみの筋を取り、大きめに削ぎ切りにしたものに塩と日本酒少々を揉み込んで吸わせる。
15分くらいしてささみが酒を吸いきったら、溶き卵に粗挽き胡椒を好きなだけ入れたものを加え、あとは肉に卵汁を絡ませて揚げるだけ。
卵の衣だけなので、仕上がりが白っぽい感じになるが、胡椒のつぶつぶが見えるので「これ、何?」という、ちょっと不思議な見た目になる。
でも、卵のサクッとした衣と適度な油分で、なかなかのおかずになるのだ。胡椒が効いているから、少々の刺激もある。
千切りのキャベツやレタス、くし切りトマトでも添えれば、とんかつ屋の一品みたいになった。
塩でも醤油でもソースでもマヨネーズでも、好きなものをかけて味変もできるし、胡椒を増しても美味しく、適度なボリュームでごはんが進むので、とっても便利だった。
これもまた母のオリジナルらしいのだが(検索しても同様のものは見つからなかった)、どこで覚えてきたものなのかは、これについても、わからない。
記憶が映像型のため「見ると覚える」タイプのわたしは、母が調理している手元を見て分量や作り方を覚えて、見様見真似で作れた。
目安として、ささみ4〜5本に、卵2〜3個、というところだろうか。
ささみのそぎ身にたっぷりと溶き卵が絡むなら、それでいい。胡椒はお好みの量でいいが、必ず入れることをおすすめ。
小麦粉や片栗粉などの粉類は要らない。
ただただ、軽く下味をつけたささみに粗挽き胡椒入りの卵汁を絡めて、揚げるだけ。
揚げものはちょっと面倒だけど、天ぷらほど油の量はなくてもいい。
揚げ焼きだって十分だと思う。始末が便利なのは、家庭料理の大切な部分だから。
これまでずっとささみでやっていたけれど、ふと、癖のない白身魚でやっても美味しいのかもしれないな、と思った。
今度、やってみよう。
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