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<料理>ワンチャンごはん「おでんの一生」
「ワンチャン」といっても、犬のことではない。
「ワン・モア・チャンス」の略だ。
残り物(レフトオーバー)のリメイクごはん、とでも言えばいいだろうか。
Instagramに料理の写真をあげていると、毎日、新しいごはんを作っているように見えるかもしれないが、そんなことはない。
残り物を食べることもあるし、リメイクすることだってよくある。
「生活」という流れの中では、それが自然なことだと思う。
なんと言ってもわが家の家訓のひとつは「敷居をまたいだ骨は、出汁をとるまで家から出さない」。
肉でも魚でも、出汁をとらずに骨を捨てるなんてことはあり得ない。
それでなんとなくわかっていただけると思うが、わが家では基本的に、残ったものはリメイクしてでも食べきるのが掟。
そのまま食べ続けることもあるが、ちょっと手を入れて違う感じで食べることもある。
その「ちょっと手を入れて違う感じ」にしたものが「ワンチャンごはん」だ。
けっこうな昔、西海岸に住む友人家族を訪ねたときのこと、友人が「美味しいから食べてみて!」と夕食に出してくれたのは、「おでんカレー」だった。
たっぷり作ったおでんの残りをカレーにリメイクする…という「ワンチャンごはん」なのだが、わたしにはそれまで、その発想はなかった。
おでんの残りは、あくまで「おでん」として食べきっていた。
アレンジしたとしても、うどんを入れて「おどん」にして食べる程度。
それが、おでんとカレー。
いや、おでんがカレー、か。
皿の上ではごはんに寄り添う茶色いカレールゥの中に、玉子やちくわやさつま揚げや大根が、あろうことかこんにゃくまでが一緒になっている。
ちょっとすごいビジュアルだった。
「そうくるか」と驚きはしたものの、友人に促されて食べてみれば、おでんの魅力のひとつでもある、具材から出た出汁がきいたカレーは、ものすごく美味しかった。
「美味しい!」思わずそう言っていた。
それ以来、わが家ではおでんはカレーに進化することになった。
それどころか、残りをアレンジするのではなく、最初から多めに作り、あえてカレーに進化させて食べる。
カレーのために、具材をリズムよく残しておき、ちょっと濁ってしまったけれど美味しい出汁でカレーを作って「ワンチャン」するのだ。
そして今年、さらなる進化をとげたのが、この「おでんカレーうどん」だ。
おでんでカレーでうどん。
これでもかと攻めた内容だが、自家製のカレー粉を使い、葛粉でとろみをつけているので、文句なく美味しい。
味付けの際に醤油を少しきかせると、全体のバランスがいいように思う。
大根は必須の具材だ。
昆布は細く刻んで入れる。
玉子は食べやすいように半割でのせる。
この日は茹で置きのほうれん草があったので、青みとしてのせてみた。
そして最後に大辛の一味をバッとかけて、ジャンクっぽさに拍車をかけてみる。
真冬の寒い日のお昼ごはんには、最高の味。
スパイスと出汁の効果で、食べているそばから汗がブワッと出てくる。
スープをレンゲでしっかりとさらって、出汁を堪能するのもポイントだ。
きっと、おでんも喜んで一生を終え、しっかり昇天してくれたに違いない。
わたしがここしばらく、念頭に置いていることのひとつは「フードロス」。
できるだけ無駄をせず、作ったものを食べきり、冷蔵庫の中を美しく保ち、美味しく安全な食事をするために、買い物の質と量をはじめ、作る料理の幅や量などを試行錯誤している。
その一環である「ワンチャンごはん」は、「どうしてやろうか」と頭を使う「脳みそに汗をかく」作業なので、楽しい上にクリエイティブだ。
「ワンチャンごはん」は地味だけど、生活を楽しんでいる味がする。
家庭でしかできない味のひとつには、こういうものがあると思う。
これからも、心を込めて作っていきたい。
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