構成主義への愛憎
構成主義とは
教育には構成主義という立場がある。Wikipediaを引くとこうだ。
「構成主義(こうせいしゅぎ)は、学習者たちがある対象について、彼ら自身による(それぞれ違った)理解を組み立てるようなかたちで教育すべきである、あるいは学習者たちの中に既に存在している概念を前提に授業を組み立てる必要がある、というジャン・ピアジェが発達心理学をもとに考案した学習・教授理論を指す。」
これだけだとワケがわからんと思うが、この構成主義という立場が何を敵にしているのかを理解すると、わかりやすくなるのではないだろうか。主な敵は2つである。
1. 学習者の一切の知は外部から注入されるという考え方。いわゆる教え込みを是とするもの。これを経験主義という。
2. 学習者の知は学習者の内部で自然に成熟していくという考え方。いわゆる学習者に全面的な信頼をおく(場合によってはそもそも教育なんてしなくていいと主張する)もの。これを合理主義という。
ごく簡単にいえば、学習者の知はすべて外部に由来するのでも、すべて内部に由来するのでもどっちでもなく、外部と内部のバランスのもと培われていくとするのが構成主義である。構成主義の祖、ピアジェはこう言っている。
「それ(注: ここでは言語活動が例になっている)は前もって作られてあるものではなく、経験論のいうように外から与えられるものでも、生得説のいうように生まれながらもっているものでもなく、つぎつぎに改められ、絶えずよりすぐれたものとなってゆくものなのです。それ故当然のことながら、この説は、教育においては子供の自発的な活動をもっとも重視する立場をとっています」(ピアジェ『教育の未来』秋枝茂夫訳、p.11)
構成主義は、経験主義のように学習者を単に受け身の立場に追いやるのでも、合理主義のように単に何もしないのでもない。学習者の主体性(自発性)を重視しつつ、その主体性から生じる活動の中でさまざまな出来事にぶつからせる中で学ばせるのである。
(なお、今回は教育が主題ではあるのだが、経験主義か合理主義か構成主義かというのは教育手法にとどまる話ではない。ひとは知識をどう得るのかという、哲学における認識論の問題なのである。まず人間についての認識論的な前提があって、そこから教育手法が導き出されるという順序である。)
構成主義に適切に基づいた教育とは?
で、なんでこんな記事を書いているのかといえば、私は、構成主義はすばらしい考え方だと思いつつも、それが不適切な形で使われる場面もたくさん見てきたからである。
ここでもう一度ピアジェの言葉を引用しよう。文科系の分野について論じているところだが、理科系の話を踏まえての議論なので、むろん理科系にも妥当する。
「いわゆる文科系の分野においてもっとも問題となる点は何かといえば、科学教育の基本と考えられる二つの要素を、現在及び将来の教育の中で十分に働かせてゆくにはどうしたらよいか、という点であります。その第一の要素は、学習者の側からの真の<自発性>です。学習者は真正な自発的活動により、習得すべき真理をみずから構成し発明発見するよう求められているのです。第二の要素は、実験の精神を個人個人が実践することであり、また、実験の精神が命ずる実験方法を一人ひとりが実践することであります。」(ピアジェ『教育の未来』秋枝茂夫訳、p.36)
ここにおいても重視されているのは、①自発的な②活動である。以上踏まえて、「これはピアジェの構成主義の想定とは違う」と思われる教育手法をみていこう。
その1. 自発的だが活動のない教育。自発性に任せるものの基本的には教科書・参考書などによる学習で、実際の活動を伴っていないものがそうである。いわゆる頭でっかちというやつか。ピアジェが文科系の学問でも実験の精神を大事にしろと言っているように、何らか実際の世界にはたらきかけて結果を得るという活動がないといけないのである。
その2. 活動はあるが自発的でない教育。例えば、何らかの強制のもとで活動させる場合、そこに自発性はない。プレッシャーを与える場合も同じである。また、実質的には行える活動の幅が非常に狭いという場合にも、自発性を尊重できるかというと難しいだろう。活動・体感させればよいというわけではない。「あれもやってみようかな」「これをこうしたらどうなるんだろう」、そういう自由な発想が許容される場づくりをしないといけないのである。
以上の前提が満たされない「エセ構成主義」をやってしまうと、実際は学習者にとって非常に不利益なことをやっているにもかかわらず、構成主義が免罪符となってあたかもよい教育をしているように錯覚させることがある。こういう無自覚なパターンが一番よくない。しかしこうした教育は世にはびこっている。だから私は、構成主義を愛しつつ、しかし気を許せないのである。
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