【認知的不協和】上司や組織の影響下で、自己正当化のために変える「意識」
不適切なプロジェクトリーダーの指名
Aさんは、彼の会社で新しいプロジェクトリーダーとして指名されました。しかし、彼はこの役割に対して適切なスキルや経験を持っていないことを自覚していました。当初、彼はこの役割を拒否しようと考えていましたが、昇進の機会を逃すことを恐れて、この役割を受け入れました。
プロジェクトが進むにつれて、Aさんは自分の能力の不足が明らかになり、チームの生産性と士気に悪影響を与えました。彼は自分の行動(リーダーとしての役割を受け入れる)と自己認識(リーダーに適していないという認知)の間の不協和に苦しみ、これを解消するために自己正当化の行動(他のチームメンバーや状況のせいにする)に走りました。
チームメンバーの負の評価
Bさんは、自分のチームにいるある同僚に対して、業務能力が低いという先入観を持っていました。彼女は、その同僚の提案や成果に対して常に否定的な意見を持ち続け、批判的に評価していました。しかし、実際にはその同僚は優れた成果を上げており、他のチームメンバーからは高く評価されていました。
Bさんは、自分の行動(同僚を否定的に評価する)とその同僚の実際の業績(良好)の間の不協和に直面しました。この不協和を解消するために、彼女は自分の評価が正しいという考えに固執し、その同僚の成功を単なる運や他人の助けの結果として解釈し、自己の認知を保持しようとしました。
認知的不協和
やあ!コミュリーマンです!
いかがでしょうか?皆さんの組織には、このような方はいらっしゃらないですか?あるいは、皆さん自身がAさんBさんどちらかのように振舞ってはいないでしょうか?
私は若い頃からこの手の人たちと終わらない戦いを続けており、それは時に「宗教戦争か?いつ終わるんだ?」といった錯覚を覚えるほどです。
さて、今回の記事で取り上げたいのは「認知的不協和」という理論です。
提唱したのは、レオン・フェスティンガー(1919-1989)というアメリカの心理学者で、社会心理学の父と呼ばれるクルト・レビンに師事した人です。
この理論によると、外部環境の影響によって行動が先に引き起こされ、その行動が発現した後に、遡及的にその行動に合致する意思が形成されると説明されます。これは、人間が「先に合理的に行動を決定する」のではなく、「行動の後にその行動を合理化する」生き物であることを意味しています。
私たちは、通常「意思が行動を決める」と考えています。しかし、先述したAさんやBさんの例からわかるとおり、認知的不協和理論において、実際にはその逆であることが示唆されています。「不足している自分の能力を高める行動を取る」「同僚を肯定的に評価し直す」といった、自分自身を良い意味で否定し、正しく修正できるという人は、実は少ないのかもしれません。
それではこの認知的不協和について、歴史を遡って一緒に確認していきたいと思います。
洗脳
日本語の「洗脳」は、英語の「Brainwashing」の直訳で、これは中国語の洗脑/洗腦から来ています。この用語は、朝鮮戦争の捕虜収容所での思想改造についてのCIAの報告書に初めて登場し、その後、ジャーナリストのエドワード・ハンターが、中国共産党の洗脳技法についての著書を記したことで広まったそうです。
朝鮮戦争といえば、現在のロシアとアメリカによる代理戦争の一つとして知られていますね。北朝鮮は共産主義国であり、当時のソビエト連邦と中国の支援を受けていました。一方、南朝鮮(現在の大韓民国)は非共産主義国で、アメリカ合衆国とその同盟国の支援を受けていました。
そんな朝鮮戦争当時、アメリカ軍は捕虜となってしまった兵士たちが短期間で共産主義に洗脳され、思想・信条を変えられてしまうという事態に直面し困惑していました。洗脳を施したのはもちろん中国共産党ですが、その方法というのが実に興味深い。
洗脳と聞くと、一般的には強引な説得や暴力・拷問などがイメージされるかもしれません。映画やSF好きの方は「謎のヘッドギアによるマインドコントロール」を想像することでしょう。しかし、中国共産党が用いた方法は、私たちの想像の遥か「斜め下」をいくものでした。
いったい、どんな方法なのか?
それは
捕虜となったアメリカ兵に「共産主義にも良い点はある」という簡単なメモを書かせ、その褒賞として、タバコや菓子など、ごくわずかなものを渡した。
なんと、たったのこれだけだったそうです。
たったこれだけのことで、戦争において当時未だ負け知らずであった屈強なアメリカ兵捕虜たちは、敵である共産主義にパタパタと寝返ってしまったというのです。
例えば、ゲーテの戯曲「ファウスト」では、ファウスト博士が魂の服従を条件に、「現世でのあらゆる快楽を得る契約」を悪魔メフィストフェレスと交わします。このような契約内容であれば、「ぐへへ、それならコミュリーマンもやすやすと思想や信条を売り渡しちゃうよぉ」と言っても誰も否定はしないでしょう。きっと・・・いえ確実に皆さんも私と全く同じ末路を辿るのは目に見えていますから。ね?
しかし、朝鮮戦争のアメリカ兵捕虜は、ごくごく小さな褒賞で思想や信条を変えてしまったのです。タバコやお菓子ですよ?「ちょっといくらなんでも自分で買ったらよくない!?」と思われますよね?思想や信条を売り渡すのに、これではあまりに安すぎるように感じることでしょう。
これは、いったいどういうことなのでしょうか?
それを説明するのがフェスティンガーによる実験なのですが、ちなみにフェスティンガーが認知的不協和の理論をまとめたのは、朝鮮戦争よりも後のことです。ということは、中国共産党はそれよりもだいぶと以前に、独自にこの洗脳手法を編み出したということになりますから、彼らの人間を洞察する力には驚かされると思います。
話を戻しましょう。フェスティンガーが実際に行った実験は次のようなものでした。 被験者に退屈でつまらない作業を長時間にわたってさせた後で「これで実験は終わりです。ただ、今日はアシスタントが休みなので、代わりにあなたが次の参加者を呼んでください。 その際、この実験はとても面白かったよ!と伝えてください」と指示をします。要は「嘘をつけ」ということです。
実際には、次の被験者というのはサクラで、被験者が指示された通りに嘘をつくかどうかを確認する役を務めます。 そして最後に、被験者は作業の印象について質問用紙に回答を記入して実験は終わります。
この実験では、参加者を二つのグループに分けました。一つのグループにはこの虚偽の報告のために報酬20ドルを、もう一つのグループには報酬1ドルを支払いました。皆さんは、どのような結果になったと思われますか?
改めて確認をすると「退屈な作業だったという認知」と「とても面白かったという嘘」は対立しますから、ここに「認知的不協和」が生じます。このとき「すでに嘘をついてしまったという事実」は、もう否定することは難しい、あるいは否定できないと考えてください。
さて、高額20ドルの報酬をもらったグループであれば、仮に本音は嘘をつきたくなかったとしても「高額の報酬のために嘘をついたんだ!」ということにすれば良い。つまり、そもそも不協和は小さくて済んでいる状態といえます。
しかしながら、報酬1ドルのグループはそうはいきません。「本音は嘘はつきたくなかった!けど、嘘をついてしまった!報酬が少ないのにもかかわらず、私はなんで指示通りの嘘をついたんだ!1ドルで魂を売ってしまった!うわーん!」という具合に強い不協和を感じてしまうわけですから、これには早急な対処が求められるわけです。
では、どうするのか?
「とても面白かったという嘘」は既についてしまった、となると、ここで取り得る選択肢は?そう、退屈な作業だったという自分の認知=意識を「めちゃめちゃ楽しかったー!もう、超楽しかったうえに1ドル貰えたー!」という意識へ改変させてしまえば不協和は改善される、というわけなのです。
この実験の結果はフェスティンガーの仮説通り、少額である1ドルの報酬しかもわらなかったグループの方が「楽しい作業だった」と回答する比率が高いということが明らかになりました。
私たちは、一般的に高額の報酬を与えた方が楽しんで作業をしてもらえるのではないか?と考えがちです。しかし、フェスティンガーの実験と理論を知ると、そうではないということがご理解いただけると思います。
朝鮮戦争におけるアメリカ兵捕虜の事例を見てみても、私たちがどのようにして自己の行動と矛盾する認識を持つ時に心理的なストレスを経験し、この不協和を解消するために意識を変える傾向があるかを示しています。
世界中の1万人以上の代表的なサンプルであるギャラップ世界世論調査のデータを使用して実施した調査・研究では、収入の増加が人生の満足度を必ずしも大きく向上させるわけではないことが示されています。つまり、収入の高い人が必ずしもより幸福であるとは限らないことを示唆しています[1]。
そして最後に指摘をしたいのが、本記事冒頭に挙げたAさんとBさんのような人々があまりにも多いという点です。自らの昇進の機会は確かに大切です。同僚に対して適切ではない評価をしてしまうこともあるでしょう。しかしそれでも私たちは、自分自身の行動や信念をどのように評価し、理解し、必要に応じて調整するかを深く考える機会を持つことが重要なのではないでしょうか。
そのような人が一人でも増えることを、私は夢見てnoteを書き続けていきたいと思います。
2024/1/29追記:
「どうやったら増えるのか?」僕なりに考え続けていますが、その道は「何が悪なのか?」を知ることで見えてくると思います。よければ「前回記事」をご参考いただければ幸いです。
キーコンセプト④「悪の陳腐さ」
[1]世界の幸福と収入の充足とターニングポイント |自然 人間の行動 (nature.com)
僕の武器になった哲学/コミュリーマン
ステップ1.現状認識:この世界を「なにかおかしい」「なにか理不尽だ」と感じ、それを変えたいと思っている人へ
キーコンセプト⑤「認知的不協和」
※ここまで4,030字なのですが、余りに書きたいことが多すぎて、当初15,000字を超えてしまいました。まとめるの大変でした。σ(*´∀`照)
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