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「ほんとの本の話をしよう」という本はデザインもすごい(NEUTRAL COLOR出版・発行)

今読んでいる本がとても好きで、今日はその話を。

それがこの本。
ほんとの本の話をしよう。(NEUTRAL COLOR出版・発行)

本屋さん、ブックフェアのディレクター、本を作る人…24人の本にまつわる人物へのインタビューがまとめられている。

本が好きで、本を作っている私にとっては、お話を聞いてみたかった先輩のエピソードをすぐ隣で頷きながら聞いているような感覚になれる温度感の本。

そんなコンテンツが魅力なんだけれど、デザインに携わるものとしては、この本のコンテンツだけじゃない物体としての本の存在感にも魅了されてしまっている。

この本すごい!そう思ったポイントをいくつか記述してみる。



ほんとの本の話をしよう。(NEUTRAL COLOR出版・発行)のここが素敵

存在感が軽やかですてき。

表紙が本文(本の中身の紙)と同じである。普通表紙といえば、やや厚手の紙を使ったり、カバーがつけられていたりする。

この本は、中の紙と同じ。言葉だけ聞くとどうにも安っぽく想像してしまうがそのラフな感じがとてもいい。

200ページを超えているB5サイズほどの冊子なので、かなり大きくて分厚いのだが、なんだかカバンに入れて持ち運んで読みたくなる。

こんなに分厚い本なのに、そういったアクションを読者に起こさせるって、多分この薄い表紙のおかげだ。

表紙が薄いもんだから、本ごと少し曲がる。丸めることだってできてしまうからカバンの中にざっとラフにつっこめてしまうのだ。

この「読む」ために特化したストレスのない表紙、結構すてき。

作り方がすてき。

この本の作り方はとってもシンプル。
紙を束ねて、中央で折って、ホチキスで止めるだけ。

誰もが作ったことのある、簡易な製本方法・中綴じ。

でも200ページのこの本は50枚もの紙を束ねて作っている。初版は500部も。かんたんな作りだが、こんなに手作業で作るのはとても大変だ。

しかしこの本、本作りを体験型にしてしまった。

名古屋にあるon readingという本屋に人を集めて、紙を束ねる製本作業ごとプロジェクトにしてしまったのだ。(その過程はインスタグラムにてリアルタイム発信されていた。)

「本」の本をみんなで作るなんてすてきだよね。ますます本が好きになりそう。

こうやって、たくさんの人が束ねてくれた本が、あちこちの書店に並べられていて、今手元にもある。当たり前としてしまいがちだけど、この本を通してそういったことを実感させてもらえる。

無駄のなさがすてき

本は普通、最後に端っこをカットする。

しかしこの本は、カットしないままだ。

見た目が綺麗に整っている方が、綺麗でクオリティが高く見える。アートを額縁に飾った方がよりよく見えるように。

しかしこの本は、それをしていない。そういったこと(見た目の綺麗さ)にこだわる人がターゲットじゃないからなのも理由の一つだと思う。

私もその一人だ。この本の端っこが揃っていようが、いまいが気にならない。

本の端っこを切り落とすのには、時間と手間がかかる。実は。そしてゴミも出る。

その時間があれば、一人インタビューを増やせるし、その内容を刷る紙やインクの費用に当てられる。そこに予算を使ったからさ、ここの端っこは切れなかったんだよね〜。

そういったことを不揃いな端っこは語っているようだ。そう思えてくるからすてき。

黄色い紙と、紫のインクがすてき

この本は全て黄色い紙でできている。NTラシャという発色が売りの紙。

眩しいくらいに鮮やかな黄色い紙は、目に入るだけで気分が高揚する。その色の名前は「ひまわり」らしい。

そんな黄色い紙の束に情報が印字されているが、そのインクの色は紫色だ。一見黒に見えるが、どこか軽やかに見えるのは、色味があるからだろう。

黒プリントであると、どこか行政の資料に見えてきてしまう絶妙な作りだと思う。それかタウンページとか。そういった危険をギリギリ回避しているのはこの紫色のインクのおかげだと思う。

また、印刷方法がリソグラフというのもポイントで、黒色であろうが紫であろうが印刷コストが変わらない。あくまでモノトーンのプリントなのだ。

奥付けにはpurple&violetとあったので、紫いろを濃淡で使い分けているのかもしれない。どことどこが、というところまではデザイナーに聞いてみないとわからないが、もしかしたら、テキスト(濃紫)写真(薄紫)で分けて、視認性を高めているのかもしれない。さりげない工夫すぎて、奥付けを見るまでは2色使いだったことを気づけなかった!


「ほんとの本の話をしよう」素敵ポイントをまとめてみて。

以上、今回は「本」のプロダクト的観点からの魅力を制作視点でまとめてみた。コンテンツやデザインの質の高さはさることながら、物理的に手にして「読む」ものとしての、本の魅力はやっぱり大きい。こういうたくさんの視点から分析して、「やっぱりいい!」と思える本との出会いは嬉しいもの。

この本は、決して安価ではない。しかし、きちんとインタビューをされた本にまつわる方々、編集者やデザイナーなどへの報酬、そして次のクリエイティブへの資金に回っているのだなと本を手にして実感できる。

次の企画を期待してしまうし、続けていってほしいと思う。こういった創作をする人がもっと増えてほしいし私もやっていきたい。

気になった方はぜひ、彼らの本を手にしてみてほしい。


<この記事を書いた私も本を作っています>





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