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アリバブダイアリー6.「病院へ」

電車で一駅西へ、駅前にある大きな産婦人科へと向かった。そこはアイボリーを基調とした建物で、外からは大きなガラス越しにエレベーターが見え、まるで都会のホテルのようなラグジュアリーという形容が似合う空間だった。私は待合室のある2階へと上がり、受付を済ませて診察の順番が来るのを待っていた。待合室は混雑していて、併設されている託児スペースからは幼い子供の泣き声が聞こえていた。私は1人大きなソファの端に座ったが、ソファは深く沈み込み居心地が悪かった。旅行雑誌を読み待っていたが、あまり集中できないでいた。この病院へは2週間程前に子宮頸がんの検診に来たばかりだった。その結果はまだ出ていなかったが、やはり病院で検査をしないと妊娠しているのか疑ってしまうから診察を受ける事にしたのだ。

「今日はどうされましたか?先日の結果を聞きに来られましたか?」と看護師はカルテを見ながら大きな声で私に尋ねた。「いえ、妊娠してるんじゃないかと思いまして。調べて欲しいのですが。」そう答えると周りにいた何人かがこちらを見るのが分かった。私は大した事じゃないのだと平気な顔をして再び雑誌に目をやり順番を待っていた。

待合室で待ってる人の中には、大きなお腹をさすりながら嬉しそうにしている人や体調が悪そうな人、家族と談笑をして待っている人、一人で来ている人、色々な人がいた。患者は皆んなそれぞれ事情が違う。人の妊娠について他人がどう思うかもそれぞれだろうと思った。それでも私の心の内はそわそわしていた。やはり医師の口から早く確かな事が聞きたい。期待やら不安やらいくつもの想いが交差し、複雑な感情をもたらしていた。

しばらくして名前を呼ばれたので、尿検査を済ませいよいよ診察室へと向かった。診察台には何度か座った事があるが、やはりいい気はしない。相手は毎日嫌と言うほど同じ物を見ているのだと言い聞かせ台へと上がった。電気じかけで診察台が動き、カーテンの向こうに医師がやって来た足音が聞こえた。医師は淡々とそして素早く診察を始めた。エコーと内診検査をしている最中に医師の口から「妊娠してる」と看護師に伝えたのが私の耳に入ってきた。そしたらなんだか一瞬で足の先から頭の先までピンク色の液体が全身を巡ったみたいになった。

この上なくハッピーな気分になったのだ!

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