白いしるし/西加奈子
「これはだめだ」って思った時には既に手遅れのことの方が大概だ。
だから、私は常に「だめな人」なんだと思うし、キチガイ地味てて醜い。実に醜い。
夏目がポンコツになったように、私はいつでもポンコツで、塚本美登里が狡猾なように、私はいつでも狡猾。
だから、叶わない。望みすぎる、いつだって、目の前にあるものが、欲しすぎて、愛しすぎて。
細胞が沸騰しているのかと思った。全身の毛穴という毛穴が開きっぱなしだった。
こんなにもいとも容易く、私が言葉にすることが出来なかった感情を、言葉を、連ねて文章にしてしまう著者に嫉妬した。
ここまで狂おしく愛おしい恋愛小説を私は知らない。誰かと誰かの恋愛模様ではなく、確かに自分の中にあった感情が、恋情が、そこに言葉として文章としてはっきりと書き連ねられている。『夏目』は私ではないか?と錯覚を起こすほどの的確な言葉選びで、私を惹き付けて止まない。
しかし、どうだろう?他のレビューを読んでみると「痛い女性の恋愛」とか「自分には理解できない」とか結構辛辣な意見も見受けられる。
きっと、そういう人たちは自分を律することの出来る「ちゃんとした人」たちなんだと思う。自分が傷つくことをわかっているから、深みにハマるような恋愛はしない。この人は好きになっちゃいけない人。
恋をする、失恋をするって私にとってはいつも全力で全身全霊を賭けてきたような気がする。その気はなかったのに、強い力で引っ張られて自分の中をぐちゃぐちゃにされて、自分が自分じゃないようなそんな感情にさせられる、それが恋愛というものではないか?それが全てではないのだろうけど、間違いなくこの作品は私の内にある感情をそのまま書き殴ったような且つ繊細な表現で見事に私の心をは掴んで揺さぶって離さなかった。
人生における私史上に残る一冊となったのは間違いない。
タイトルから想像する物語、帯で訴えてくる台詞、裏表紙に隠されている秘密。
この本を手に取ったときに、これは絶対だ、絶対に私を魅了して止まない本だ。と思った。同時に私を地獄へと突き落とす小説に出会ってしまったと思わされた。そしてそれは数頁で確信に変わった。
思考を停止させ、心に波を立て、私の機能を全て麻痺させ、動けなくさせる作品。これが恋愛小説だと思った。
私たちの恋は、富士山のような立派なものではなく、誰にも振り返られることのない、ちっぽけな、ただの恋だったのだ。
彼の感情の琴線に触れたかった。
私は彼のことが、本当に、好きだった。
【白いしるし/西加奈子著】