アートの晩餐|私も誰かとつながっている
私が美術展に行って、心に残ったとっておきの作品をご紹介。
皆さんと一緒に自由に楽しく味わう
「アートの晩餐」。
今回は、大阪中之島美術館で開催の
「塩田千春 つながる私(アイ)」です。
私はこれまで、塩田千春さんの作品が実はやや苦手でした。
死の気配が濃厚に漂う陰鬱とした苦悩と絶望感、生身の人間から何かをえぐり取るような痛々しさに、私は作品を直視することをためらってきました。
そして、鑑賞後には胸の奥に鉛のように沈殿する気持ちのわだかまりが抜けなくなるのです。とっても重い。
一方で、それぐらいに観た者の感情を揺さぶるすごい力を持ったアーティスト、作品ということです。
正直今回も、見に行くかどうか迷いました。
でも、やはり気になる…
メインビジュアルの赤色に何か明るさの気配を感じて出かけました。
不在の人とつながる
大阪中之島美術館の3階。
長いエスカレーターを上がっていくと目の前が真っ赤に。
いきなりの先制パンチ。
圧倒される赤さと大きさ・・・
まだ会場にすら入っていないのに、とんでもない迫力です。
天井から吊るされた3着の赤いドレス。
奥の2着は裾がつながっています。
赤い糸の中を進んでいく動線。
中を歩くとふわりと体が浮くような不思議な感覚に陥ります。
糸のない場所にいるはずなのに、糸に絡め取られたような…。
視界が赤で埋まり、上下左右を見失いそうです。
塩田さんは、衣服を「第二の皮膚」と捉え、着る人をあえて不在にすることで、その存在を強く訴える手法を試みてこられたとのこと。
母の遺品の中で、私がどうしても手を付けられないのが衣服です。
母が着ていた服に、まるで今そこに生きているかのように母の存在を感じてしまうのです。
その服を失うことは、わずかに残された母の気配を消し去ること。
そう思えて、どうしても処分をすることができません。
そんな今抱えている思いを、私はこの作品に投影していました。
記憶がつながる
会場内に入ると今度は無数の白糸が!
なんだこれは・・・
複雑に編み込まれた糸が天井や壁を構成しています。
異世界のような、洞窟のような、そして体内のような…
糸の下に据えられた水盤には、上から水がポツリポツリと落ちて、静かな水面に波紋を広げます。
この作品は作者が大分県の別府温泉を訪れた際に、もうもうと立ち上る湯気の生命力に着想を得て制作された作品とのこと。
部屋を覆い尽くす白い糸は脳神経で、滴り落ちる水はそこからこぼれ落ちる記憶。
今ここにいない人間の記憶が巡り巡って、私たちを形作っていることを表現しています。
私はここに歴史を感じました。
人間の生きた痕跡や記憶は目に見えないけれど、一人一人の人生や経験の積み重ねが「歴史」になる。
「歴史は繰り返される」との言葉の通り、それは循環して新たな歴史となって今そして未来へとつながる。
そしてその静かな営みは時折、波紋を広がながら、他者へと影響していく。
私もこの糸の一本と見立てると、自分の存在や人生が何だか愛しく価値のあるものに思えてきます。
思いがつながる
会場の最後にはまた、無数の赤い糸による巨大なインスタレーションがあります。
コロナ禍を経て、人との繋がりを再認識した塩田さんは、「つながり」をテーマにメッセージを公募します。
その寄せられた年齢性別、国籍も様々な1500以上のもメッセージが、赤い糸にの中でつながりながら、ダイナミックな円弧を描いています。
私はこの作品の躍動感に、歓喜と希望を感じました。
風に舞うような自由でのびのびとした世界。
まるで白い鳩が群れ飛ぶような平和の象徴にも見えるし、一つ一つの幸せが結ばれ支え合うことで、希望へとつながっていく。
そんな希望へのプロセスを暗示しているようにも思えます。
そして、無数の思いや考えがつながっていく様が、何だかnoteみたいだなーとも思いました。
展覧会とつながる
この展覧会はグッズも魅力的です。
今回ゲットしたのはこれ!
いちごの可愛い編み物は、塩田さんのお母様とご友人が手作りされたアクリルたわし。
わたし、ならぬ タワシ
やっぱ大阪の人やな…
と、嬉しく思った瞬間でした(笑)
展覧会の余韻とつながって、台所仕事が楽しくなりそうです。
つながる私と誰か
今回の展覧会を通じて、自分の過去・現在・未来のつながりを、改めて考えるきっかけになりました。
私はわりと人に気を遣うタチだし、ひと見知りなので、時にリアルな人のつながりを苦痛に感じることがあります。
でも、両親、さらにその先祖とのつながりで私が生まれ、
職場の人や友人、note、社会を支える無数の方々とのつながりがあって生きている。
そして、今の自分の行動が、環境とか社会とかの未来につながっている。
私はそうした大きな流れの「一滴」でしかないが、それはそれで小さなつなぐ役割を果たしているんですね。
一方で、現実に目を向けると人と人の距離感って難しいですよね。
絡まったり、ほつれたり、ほどけたり。
近すぎたら疲れて、遠いと寂しくて。
noteもそうで、私の記事にコメントをいただけると、とっても嬉しいけど、他の方の記事にコメントをするのは自信がなくて何だか気が引ける…
勝手ですね、すいません。
でも、私はnoteの距離感が実はとても心地良い。
これからも、いろんな方と緩くつながりながら、楽しく暮らしていきたいと思っています。
よろしくお願いします。
皆さんはどのように感じたでしょうか?
それではまた、
素晴らしい作品をご一緒いたしましょう。