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ママはあなたたちを前ほどには知らない
双子の娘たち(6歳)が『窓ぎわのトットちゃん』にハマって数週間になる。少し前にヒットしたアニメ映画ではなく、書籍のほうだ。
もちろん、漢字にふりがながあまり振られていない本なので、わたしが読んで聞かせている。寝る前に読んでもらうのは『ルドルフ ともだち ひとりだち』か『窓ぎわのトットちゃん』。最近の娘たちはそう決めているらしい。
わたしも小学生の頃に『窓ぎわのトットちゃん』を読んだ。同じ作品を娘たちも楽しむようになるなんて、なんだか感慨深い。
チンドン屋さんのくだりや、トットちゃんが机のふたをばったんばったん開け閉めして担任の先生を困らせるくだりが大好きだ。大昔に読んだのに、はっきりと覚えていることに自分でも驚いている。
『窓ぎわのトットちゃん』の序盤、トットちゃんが自由が丘駅の改札で切符を欲しがるシーンがある。改札係のおじさんにトットちゃんが「切符はもらえないの?」と尋ねるところだ。
わたしは娘たちに聞いてみた。「切符って、知ってる?」
彼女たちが電車デビューしたのは運賃のかからない年頃だったし、小学校に入ってからはICOCA(JR西日本の交通系ICカード)を使っている。わたしもずっとICOCAユーザーなので、彼女たちは切符そのものを見たことがないはずだ。
しかし、娘たちは答えた。
「切符、知ってるよ! 小さくて、電車に乗るために改札機に入れるやつでしょ! 駅で知らないおばあちゃんが買ってるところをじーっと見ててん」
なんと、目ざといというか、観察力があるというか。さらに長女が重ねて言う。
「長女ちゃんも、切符ほしいなあ。なんかちっちゃくてかわいいし、『電車乗ったよ!』って感じするもん!」
トットちゃんに共感しているらしい。あれはICOCAと違い、最終的に改札機に吸い込まれてしまって手もとには残らないのだと伝えると、二人ともがっかりしていた。
そうか、切符を知っているのか。気が抜けてしまった。あれを教えてあげよう、これを見せてあげようとわたしが頭を働かせる前に、彼女たちは切符とその役割を認識していた。
「親の役目は、子どもを導くことだ!」なんて大きく構えてはいないものの、少しはそんなふうに思っていた。子どもはまだ知らない世界があるから、わたしが道を示してあげなくては。無意識がそう告げていた。
でも、彼女たちはみずから知識を得ていく段階に入っている。小学校でも自分たちで人間関係を築き、立ちまわり方を体得しようとしているようだ。
今のママはたぶん、あなたたちのことを前ほどは知らない。一人の人間として、娘たちは徐々にわたしの手を離れていこうとしている。そのことを肝に銘じながらも、二人との会話を楽しもうと決めた。