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万字固め、られる
万城目学『ザ・万字固め』を読んだ。
万城目学さんの作品といえば、わたしにとっては『プリンセス・トヨトミ』。小説はもちろん読んだし、映画も観た。大阪人としては「ほげー」と唸るしかない世界が繰り広げられる(もちろん非大阪人のみなさまにもおすすめ!)。
はじめての万城目エッセイに選んだこの『ザ・万字固め』は、わたしに昔からの友人たちのことを思い出させてくれた。
わたしは高校3年生のとき、某予備校の高校生クラスに入った。コースなど、詳しいことは覚えていないのに、そこで出会った友人たちについては強烈な印象が残っている。
小学生のときから女子だらけの学校で過ごしたので、かなり久しぶりに異性と机を並べて学ぶ環境になかなか慣れなかった。余談だけれど、放課後に塾へ行く場合はその旨の申請をしなければならない学校だった。
そんななか、徐々に仲良くなった友人たちはとんでもなく頭がよかった。なにをもって頭がいいと言うかは人によって異なると思う。ただ、難しい問題集を易々と解いていき、ときに講師を困らせるほどに高度な質問をする彼らを見て、わたしが「やばい、頭よすぎるやん」と衝撃を受けたことを理解してくださる方は多いのではないだろうか。
進学校と呼ぶには躾に重点を置きすぎていたミッションスクール育ちのわたしには、ほんとうに衝撃的な出会いだった。関西屈指の進学校に通う彼らは、ガツガツ勉強するわけではないのにさらりと難題を解く。彼らの一人に「家でなにしてるの?」と聞くと、「パソコン自作してる」という答えが返ってきた。自宅では勉強しない主義だと。
コツコツ派のわたしには太刀打ちできない頭脳の働きを見せつけられた気がした。
高校卒業後、彼らのほとんどが京都大学に進学していった。
そして、『ザ・万字固め』からうかがえる万城目さんの頭のなかは、彼らに似ていると思ったのだ。万城目学さんも京都大学のご出身である。
真面目なんだか、不真面目なんだか、どこまでもつかめない。でも、確実に真理っぽいものをわたしのなかに置いていく。きっとそれは、「悪ノリ」にひそむ真摯さのなせる技だ。
勉強そっちのけでパソコン製作にふけったり、討論番組に出演する論客のモノマネをしたりと、不真面目なようにしか見えなかった友人たちも、じっくり話せばみんな真剣だった。だからこそ、頭脳もとんでもない鋭さで働いていたのかもしれない。
大学のカラーで人を判断するのはあまり好きではない。しかし今回、京都大学というキーワードと文章からちらりと見えるお人柄により、万城目学さんと友人たちが重なってしまった。そういうこともあるらしい。
今年のはじめ、わたしが東京に行ったときに食事をした友人二人も高校からの付き合いで、京都大学出身だ。それぞれかわいい子どもたちを連れて会いに来てくれて、楽しい時間を過ごせた。
彼らに会って、ガーンと頭を殴られたように衝撃に受けたから、今のわたしがある。「わたしなんてカスやん」。そう打ちのめされる時期が、人生には必要だ。昼間の六本木でおいしいお肉に舌鼓を打ちながら、出会いの不思議についてぼんやり考えたことを思い出した。
『ザ・万字固め』に収録された綿矢りささん、森見登美彦さんとのゆるい鼎談も、夜中にわたしの口もとを緩ませた。ほかにもなんだかじわじわくる箇所がそこここにあるのだ。
不真面目と真摯のあわいと、あとから効いてくる笑いを味わえたうえに、懐かしさにもひたれたなんて、9月のわたしはちょっと得をした。